自分が使う筆記具を意識するということは、人が使っている筆記具が気になるということでもある。一度、意識してしまうと、150円のプラスチックのボールペンは取引先の前では出しにくくなる。万年筆は使い方に慣れが必要だし、緊張する場面では使いにくい。普段の仕事のモチベーションを上げるためにも、人前で使えるボールペンが欲しくなる。

という形で、金属軸や高級樹脂軸の書きやすいボールペンが市場に出回るようになる。パイロットの「タイムライン」や「コクーン」のような、従来から人気のあった製品は、低粘度油性インク「アクロインキ」を搭載したことで、ギフト用途だけでなく一般利用のために購入する人が増えた。

三菱鉛筆は13年に「ジェットストリーム」の高級ライン「ジェットストリームプライム」を発売。高級軸の多色、多機能ペンを開発し人気を得た。

「アクロドライブ」(パイロット):低粘度油性インク「アクロインキ」を搭載した金属軸のボールペン。アクロインキの流れるような筆記感を表した軸のデザインが特長(価格3000円。税別、以下同)
「ジェットストリームプライム」(三菱鉛筆):低粘度油性インクを世界に先駆け搭載した「ジェットストリーム」の高級ライン。金属軸と滑らかなノックボタンが、よりスムーズな書き心地を演出。単色タイプの他にも3色、4色など、バリエーションが豊富(単色2200円)

さらに、ここ数年、「芯が折れない」シャープペンシルが人気になり、大人もシャープペンシルを使うようになった結果、大人向きの金属グリップを持った1000円程度のシャープペンシルにも人気が集まった。そして、ぺんてるの「オレンズネロ」という3000円のシャープペンシルが大ヒットとなる。この製品のヒットについては、また別の事情があるのだが、それは別の機会に。

ゲルインクの高級ボールペンも登場

そして16年には、それまで学生ユーザー中心に使われていたゲルインクのボールペンの高級軸バージョンも登場した。

細い文字が安定して書けるゲルインクのボールペンは、低粘度油性インクよりもさらにサラサラと書けるし、発色も鮮やか。水性ボールペンと油性ボールペンのいいとこ取りをしたような高性能のインクだ。その実用性の高さに、ビジネスユーザーが飛びつく形で、ゼブラの「サラサグランド」、ぺんてるの「エナージェルフィログラフィ」などのヒット商品が生まれた。

いつの間にか高級筆記具は、贈答用の飾りではなく、ビジネスで使う実用品として認知されてしまったのだ。

「サラサグランド」(ゼブラ):ゲルインクボールペン「サラサ・クリップ」の金属軸バージョン。サラサ・クリップのデザインや機能を上手く踏襲しながら、高品位なデザインに仕上げている(1000円)
「エナージェルフィログラフィ」(ぺんてる):速乾性ゲルインクボールペン「エナージェル」の金属軸版。回転繰り出し式で、ペン先がぶれないのが特長。シンプルでスリムなデザインで高級感がある(2000円)
納富廉邦
 佐賀県出身、フリーライター。IT、伝統芸能、文房具、筆記具、革小物などの装身具、かばんや家電、飲食など、娯楽とモノを中心に執筆。「大人カバンの中身講座」「やかんの本」など著書多数。講演、テレビやラジオの出演、製品プロデュースなども多く手がける。
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