地中海食・低脂肪食・低糖質食 リバウンド少ないのは
糖尿病や生活習慣病などの治療を専門とするオリーヴァ内科クリニック(東京都世田谷区)の横山淳一院長は、これらの疾患を持つ人々にふさわしい食生活について40年以上研究を重ねてきた。3月に開催された「オリーブオイル健康ラボ」発足記念メディアセミナーでの横山院長の話をもとに、オリーブオイルを使った地中海食の効果について紹介する。
油脂をやみくもに避けるのはナンセンス
地中海食とは、2010年にユネスコの世界無形文化遺産に登録された料理で、イタリア、ギリシャ、モロッコ、スペインなどの地中海沿岸の地域で食べられてきた伝統的な食事の総称だ。パンやパスタなどを主食に、野菜、豆類、ナッツ類、果物や魚介類を合わせてとり、油はオリーブオイルを使う。
国や風土によって食材や味付けの方法は違うが、共通しているのはオリーブオイルをたっぷり使う点。サラダのドレッシングやマリネなどに生で使うだけではなく、揚げ物や焼き物などの調理用の油としても幅広く使用する。
油を摂取すると、体に脂肪がついてしまうのではないか、と考えている人が多いが、横山院長は、「油はそのまま体脂肪になるのではなく、脂肪酸に分解されて体の構成成分となる。脂質は糖質、たんぱく質と並ぶ三大栄養素のひとつなので、バランスよくとることが健康寿命を延ばすことに通じる」と説明し、やみくもに油の摂取を控えるのではなく、体に良い油を選んでとることが重要だと話す。
オリーブオイルの成分的な特徴は、飽和脂肪酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸という代表的な脂肪酸をバランスよく含んでいること。その構成は母乳の脂肪酸構成に似ている。特に一価不飽和脂肪酸のオレイン酸を多く含む点が優れているという。「オレイン酸は不飽和脂肪酸の中では酸化しにくいのが特徴」と横山院長。さらに、オリーブオイルはオレイン酸が多くリノール酸が少ないために、悪玉と呼ばれる血中のLDLコレステロール値を下げる一方、善玉であるHDLコレステロール値は下げないという利点がある。
オリーブオイルを使った食事はリバウンドが少ない?
オリーブオイルを使った地中海食は、メタボリックシンドロームの人の体重を下げる効果がある点にも注目が集まっている。肥満(平均BMI[注1]31)の人を3つのグループに分け、それぞれのグループに低脂肪食、地中海食、低糖質食を2年間食べてもらい、体重の変化を観察した研究がある[注2]。
[注1]BMI=体重kg÷(身長m)の2乗
[注2]Shai I,et al.N Engl J Med. 2008;359:229-241.
その研究によると、低糖質食グループの人は、スタート後、約半年でぐっと体重が減ったが、その後にリバウンドする傾向が高かった。また、低脂肪食は低糖質食の人よりも体重が減らず、しかもリバウンドしてしまう傾向がみられた。これらに比べて、地中海食を続けた人は、約1年かけて徐々に体重が減った後、その体重をほぼ保つことができ、リバウンドが少なかった。
横山院長は、「糖質や脂肪を減らした低糖質食や低脂肪食は、オリーブオイルを多く使う地中海食に比べて満足感が少ないために続けることが難しく、リバウンドにつながってしまったのではないか」と分析する。
さらに、過去に心筋梗塞を起こした人たちを2つのグループに分け、一方に通常の食事を、もう一方に地中海食を4年間食べ続けてもらった研究では、地中海食が明らかに心筋梗塞の再発を抑えることが分かった[注3]。オリーブオイルを使った地中海食は、このように多くの研究がなされ、その健康効果が実証されている。
[注3]de Lorgeril M et al. Circulation. 1999; 99: 779-85.
いつもの油をオリーブオイルに!
地中海食は豆類、野菜類、魚介類などの食材を豊富に使い、日本で普段の食事に利用されている食材と共通するものが多いので、いつも食べている料理にオリーブオイルを加えたり、調理油をオリーブオイルに替えるだけで、簡単に取り入れることができる。さらに、「玄米や京野菜のような日本的な食材との相性も抜群」と横山院長は言う。オリーブオイルには多くの商品があり、スーパーマーケットでもコンビニエンスストアでも購入できるので、積極的に利用してみてはどうだろうか。
オリーヴァ内科クリニック院長、医学博士。千葉大学医学部卒業後、東京慈恵会医科大学内科学教授を経て現職。日本糖尿病学会認定糖尿病専門医・指導医、日本内分泌学会認定内分泌代謝科専門医。イタリアの料理・文化に造詣が深く、地中海食についてテレビ番組、新聞などで分かりやすく紹介している。「炭水化物を食べながらやせられる! 地中海式世界最強の健康ダイエット」(SBクリエイティブ)など著書多数。
(ライター 芦部洋子)
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