サンマ、刺し身にしますか? 魚の食べ方に「お国柄」
青魚(3)
以前から気になっていながら、ついに現物に出合っていない食べ物のひとつに紀伊半島の「じふ」がある。尾鷲あたりではサバやサンマですき焼きをやるというのである。ネットでその画像や作り方を知ることはできるが、家庭料理のせいか店で食べるのが難しいらしい。
関西の食べ物を紹介した本に「じふ」が出ていたので、著者に「どこで食べられるんですか」と聞いたら「私も食べたことがないんですよ」という答えであった。
今回は、あの方がそんな紀伊のお魚たちを…。
生ずしを浸けた残りのアラと大根の尻尾、庭に植えた難波ネギの彦生えがあったので船場汁をてんごしました。調味は塩サバのアラと香り付けのしょうゆだけ。始末始末。父親(てておや)が喜んで食べとりました。
さて、青魚がテーマに上り思い浮かんだものがいくつかあります。一つ目はサンマを輪っかにして焼いたもの。数年前の年末に、熊野は中辺路にあるU江敏勝さんのお宅でご馳走になって以来、一度も出合っていません。頭と尻尾を焼き損ないがちなサンマ、その合理的な焼き方に山人の生活の知恵の深さを知りました。
画像はK鉄百貨店の焼魚売り場のおばさんに無理を言って焼いてもらったもの。熊野灘に揚がったサンマの干物もおまけします。サンマの旬が外れているので、方々探し回ってやっと入手。よかったよかった。
二つ目はサワラの縄巻き鮨。紀伊田辺の正月料理で、今は幻のご馳走です。確かサワラで山芋をくるみ、縄で巻き上げてしばらくならしてから頂きます。熊楠も好物だったとか。
三つ目はカツオ茶漬け。串本で出合った漁師料理です。熟成させたゴマしょうゆだれに新鮮なケンケン鰹を漬け、ご飯にのせてお茶を注いで…、思い出しても生唾がでます。
四つ目は吉野郡下市の郷土料理である朴の葉鮨。京の鯖街道と同様、吉野にも塩サバの道があります。山も険しく、距離もあるので、塩はきつい目。ごく薄~くそぎ切りにして、特大の飯にのせて朴の葉で包みます。違いは大きさだけ、柿の葉鮨と同じ要領です(豊下製菓の豊下さん)
紀伊には様々な魚の食べ方がある。サワラの縄巻き鮨は初めて知った。
サンマにシフト。
しかし1990年代に入り、仙台市内でも見られるようになり、21世紀になると海なし県栃木でも、食べられるようになりました。しかも100円回転寿司のネタにまで…。
ところが関西に住んでいる人に聞くと「サンマを刺し身で食べることはない」とのこと。サンマの刺し身は東日本だけのものなのでしょうか?
逆に九州では、太刀魚の刺し身を食べて驚きました。同席していた大阪の人は「普通」といっていましたが、東京→埼玉→宮城→(中略)→千葉→栃木と移り住んだ私は、九州以外で太刀魚の刺し身を見たことがございません。これは九州、関西だけのものなのでしょうか?(栃木県在住のカズボボさん)
ベティー隊員 うーん、みんなおいしそう! 先週、旭川のちむさんのメールにあった根室のサンマ丼ともども、いつか食べてみたいです。
言われてみれば、西の方でサンマの刺し身は見かけなかった。太刀魚なら食べたような記憶がある。鮮明に覚えているのは九州・不知火海沿岸のウツボの刺し身である。熊本の湯ノ児温泉が懐かしい。
あの辺りは太刀魚釣りが盛んなところ。やはり刺し身でも食べるのだろう。
空弁で人気の焼きサバ鮨に対抗してか、「焼きサンマの棒寿司」も最近登場しました。
北海道でよく食べられるイワシは「七つ星」と呼ばれる大ぶりの種類。湯煮にしてケチャップで食べる、という我が家のメニューがありました。
酢でしめたイワシに薄切りの甘酢大根をかぶせた「イワシのほっかぶり寿司」は釧路の名物で、北海道物産展でも人気の品です(札幌生まれ札幌育ち 道産子三代目 雪あかりさん)
温泉教授として有名な札幌国際大学教授の松田忠徳さんが会社に見えたときのこと。話の中に「源泉が良いところほど料金が安い」というのがあった。普通は逆に思えるのだが、松田さんは「源泉の泉質がよくて豊富なら、お湯を循環させる機械を買ったり塩素を大量に投入したりしなくていいでしょう? その費用がかからない分、料金を安くできるんです。反対に泉質があまり良くないところは料理や部屋を飾り立てる傾向があります。だから高くなる」と言った。
さらに続けて「北海道は食材がいいから料理が育たないと言われますが、それでいいんです」。サンマの刺し身はそのことを象徴しているようである。
ゴマサバ。九州の。
ヨメは「懐かしか~」とか言って平気で食べてましたけど、私はご遠慮申し上げました。だって寄生虫がいるんだよ! あれに胃壁を噛まれるとかなり痛い(らしい)んだよ!(ゆうてんじさん)
不思議なことに九州でゴマサバ食べて寄生虫に胃袋食われたとか、小腸かじられたという話はほとんど聞いたことがない。
私の年来のギモンに通じる話。
よく、飲み屋さんのサンマなどは、お皿の隅に小さな小さな大根おろしの山が添えられていますが、ああいうのではまるで用を成しません。大量にないとだめな理由は、大根おろしのさっぱり感ならびに消化作用が欠かせないからです。青魚の焼いたのは脂が強烈で、食べやすさの点でも水分たっぷりの大根おろしが必要ですし、何より、食べたあとに胸焼けしません。ないと半日は胸焼けをわずらいます(日野みどりさん)
大根おろしの量が多いか少ないかは人によって切実な問題である。だが私の問題は焼き魚に添えられた大根おろしにしょうゆをかけるべきか、魚の方にかけるべきか、両方にかけるべきかというものである。
父は大根派、母は魚本体派であった。父と母の教えのどちらに従うべきか結論が出せないまま、無為に半世紀がたってしまった。
食堂などで他人の食べ方を観察するのだが、国民的標準があるようには思えないのである。私はどうでもいいことを真剣に考えているのであろうか。
いま周辺の2、3の人物に「どっち?」と聞いたら「あんたに聞かれると重要な問題のような気がするが、果たしてそうであろうか」と言われたばかりである。
デスク挙手 僕は大根派!
ベティー隊員 私も! いや待てよ、魚にかけることもあるか…。
同人諸兄姉のお考えは如何。
(特任編集委員 野瀬泰申)
[本稿は2000年11月から2010年3月まで掲載した「食べ物 新日本奇行」を基にしています]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。