異端のゲーム機「任天堂スイッチ」は本当に便利なのか
任天堂の新ゲーム機「Nintendo Switch」は、据え置き型ゲーム機でありながらタブレット端末のように携帯できる異端のガジェットだ。自腹で購入したライターが、ガジェットオタクの視点からレビューする。
据え置き機? それともタブレット端末?
2017年3月3日に発売された「Nintendo Switch」は据え置き型のゲーム機だ。
もちろんNintendo Switchは一見タブレット端末のような本体だ。テレビや周辺機器と接続するための「Nintendo Switchドック」、取り外し可能な分割コントローラー「Joy-Con」で構成され、基本となる「TVモード」以外に、外出先などで「テーブルモード」「携帯モード」で利用できる。
しかし、任天堂はあくまでもNintendo Switchを据え置き型ゲーム機として位置づけている。実際、2017年2月1日に開催された任天堂の経営方針説明会で、君島達己社長は(Nintendo Switchとは別に)携帯ゲーム機であるニンテンドー3DSの後継機を検討していると語っていた。
一方、コントローラーを取り外すとNintendo Switchはタブレット端末にしか見えない。またiFixitの分解記事によれば、Nintendo SwitchのSoCはTegra X1をカスタマイズした「NVIDIA ODNX02-A2」、メモリーはサムスンの2GB LPDDR4 DRAM「K4F6E304HB-MGCH」を2枚、ストレージは東芝の32GB eMMC「THGBMHG8C2LBAIL」を搭載していることが判明している。スペック的には2015年12月8日に発売されたグーグルの10.2インチAndroidタブレット「Pixel C」に非常に近い。
さらにアルバム内の画像にコメントを追加してTwitterやFacebookに投稿したり、ニンテンドーeショップからゲームを購入したり、ゲームニュース内の記事や動画を見るだけならコントローラーは一切必要ない。このときの使い勝手はタブレット端末そのものだ。乱暴に言えば、Nintendo Switchを据え置き型ゲーム機として成立させているのは、コントローラーとドックの存在ということになる。
「Joy-Con」が成功の鍵を握る
Nintendo Switchの本体サイズは173(W)×101(H)×13.9(D)mm、重量は約297g。ディスプレーのサイズは6.2インチ。実際に手に持ったときの感覚としては、多少ディスプレーのベゼル(枠)が広いが、最近はやりのファブレット(6インチ以上のスマートフォン)といったところだ。
6.2インチディスプレーの解像度は1280×720ドット。ただし、ドックを経由してテレビに出力する際には1920×1080ドットで表示される。フレームレートは60フレーム/秒と公表されているが、「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」は30フレーム/秒にとどまっている。とは言っても、映像の美しさとフレームレートのどちらを優先させるかはゲームごとに異なって当然だ。
本体上面には電源ボタン、音量ボタン、ヘッドホンマイク端子、ゲームカードスロット、前面にディスプレー、明るさセンサー、スピーカー、両側面にはJoy-Conを装着するためのレール、底面にはUSB Type-C端子、背面にはスタンド、マイクロSDカードスロットが用意されている。
ドック内部には本体接続端子、背面カバー内にはACアダプター接続端子、USB端子×1、HDMI端子、左側面にはUSB端子×2が備えられている。ちなみに現時点ではUSB端子はすべてUSB2.0で動作しているが、背面カバー内のUSB端子のみアップデートでUSB3.0に対応する予定だ。外付け大容量ストレージや1000BASE-T対応の高速有線LANアダプターなどの装着を想定していると思われる。
Joy-Conはある意味、Nintendo Switch最大の売りだ。振動だけでなく触感を伝える「HD振動」に加えて、本体右側に装着するJoy-Con(R)には底面にモノの形や動き、距離を検出する「モーションIRカメラ」が搭載されている。ローンチタイトルの「1-2-Switch」では両機能を活用したミニゲームを楽しめる。
Joy-Conは前述の通り左右をふたりで分け合って操作することが可能で、加速度センサーやジャイロセンサーもそれぞれに搭載されている。筆者はJoy-Conを両手に持って殴り合う格闘ゲーム「ARMS」の発売を楽しみにしているが、このようなJoy-Conの特性を生かしたゲームがどのくらい発売されるかが、Nintendo Switchの成功の鍵を握っている。
OSの使い勝手は?
HOMEメニューはニンテンドー3DS時代よりシンプルな画面構成となった。ゲームのサムネイルの下に、ゲームニュース、ニンテンドーeショップ、アルバム、コントローラー、設定、スリープのアイコンが並ぶ。コントローラーでも画面タッチでも操作可能で、デザイン的に洗練されているが、ぱっと見、タブレット端末的なユーザーインターフェースとなっている。
OSはUNIX系のFreeBSDを基に作られており、機能はかなり絞られている。例えばAccessのウェブブラウザー「NetFront Browser NX」が搭載されているが、Twitter、Facebookとの連携や、ゲームニュースの表示に利用されているだけで、一般的なサイトの閲覧には利用できない。また、ニンテンドー3DSには搭載されているカメラ、サウンド、ビデオアプリなども含まれていない。だが、たとえ有料になったとしても、モーションIRカメラを利用したアプリなどのリリースに期待したい。
ローンチタイトルは少ないが……
筆者はローンチタイトルの品ぞろえに不満を感じている。ニンテンドーeショップに並んでいるタイトルは3月15日時点で22本。うち1本は「Splatoon2」の体験版だ。また、ローンチタイトルにサードパーティーの独占ビッグタイトルがないのは今後の不安材料。サードパーティーのタイトル不足でプラットフォームとしては苦戦した「Wii U」のわだちは踏まないでほしいものだ。
とはいいつつも、Nintendo Switchのビッグタイトル「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」(任天堂)にどっぷりハマっている筆者は、いまのところ他のゲームを必要としていない。「オープンワールド」という言葉を避け「オープンエアアドベンチャー」とうたう本作は、練り込まれたストーリー、攻略しがいのある謎とアクションが秀逸。その上でやり込み要素がこれでもかと詰め込まれている。1日2時間程度のペースで遊ぶなら、最短でも1カ月、じっくり寄り道も楽しめば2~3カ月はプレーできそうだ。
今後、4月28日には「マリオカート8 デラックス」、春には「ARMS」、夏に「Splatoon2」、そして冬には「スーパーマリオ オデッセイ」が出るので、今年1年は上記の任天堂製ソフトでなんとか乗り切れそうだ。自社タイトルだけでライトなゲームファンを満足させられるのが任天堂の強みといえる。
家の中でも「携帯モード」が便利
ガジェットオタクとしてNintendo Switchを見てみると、Joy-Conの合体機構、ドックによる拡張性などハードウエア的にそそられる部分が多い。「マリオカート8 デラックス」と同時発売される「Joy-Con ハンドル 2個セット」のような、さまざまなアクセサリーも登場するだろう。Joy-Conを銃としてゲーム内で扱うための合体アクセサリーなども期待できる。
一方、現時点のNintend Switchのソフトウエア面には、ガジェットマニアとしては満足できない。しかし半年~1年以内にこの点は大幅に改善してほしいし、されるはずだ。
Nintendo Switchは、Wii Uやニンテンドー3DSと比べて、ゲーム以外の機能は大幅にそぎ落としてリリースされている。だが、リビングの大型テレビと接続するセットトップボックスとしてYouTube、Netflix、Huluなどの動画視聴アプリを用意しないわけにはいかないだろう。そうしなければ、それらの機能を搭載しているPlayStation 4と戦えるわけがないからだ。
一方、最近はスマホやタブレットでゲームをするのに慣れてはいたが、物理的なコントローラーが存在するゲーム機は操作性がいいと改めて感じた。スマホ向けゲームも独自のユーザーインターフェースを進化させてきているが、ゼルダの伝説のように多くの武器や能力をとっかえひっかえ駆使するようなゲームは、物理的なコントローラーがあってこそ快適に遊べる。
そんな理屈は抜きにしても、据え置き機と携帯ゲーム機を兼ねたNintendo Switchは単純明快に便利だ。外出時にはゲーム機を持ち歩かない筆者だが、思いのほか家庭内でNintendo Switchの携帯モードを活用している。
家族のいる筆者はテレビを常時占有できない。そのため、普段は大画面のTVモードで存分にプレーして、家族がテレビを見たいときは床に転がって携帯モードでプレーするという利用スタイルが実にしっくりと来る。
PlayStation 4やゲーミングPCほどのハイパフォーマンスを備えていないNintendo Switchは、それらと同等のリッチなグラフィックのゲームはプレーできない。しかし、ゲームの本質的な面白さはグラフィックのクオリティーに左右されるわけではない。パフォーマンスをある程度割り切りつつも、Joy-Conにより新たなゲームの楽しさを創出し、さまざまな利用スタイルで楽しめるNintendo Switchを歓迎する人は多いはずだ。
(文 ジャイアン鈴木)
[日経トレンディネット 2017年3月24日付の記事を再構成]
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