大人気の甘酒、カツオ節も発酵食品 その健康効果は?
ここまで分かった 発酵食品(4)
前回「味噌・納豆・酢 伝統発酵食の健康効果と食べ方のコツ」では納豆、酢など「細菌系の発酵食品」の健康効果について述べたが、発酵食品には「カビ系」のものもある。カビというとちょっと怖い感じがするが、麹菌(コウジカビとも呼ぶ)は「国菌」と呼ばれるほど日本の発酵食品に欠かせないカビだ。また、世界一硬い発酵食品ともいわれるカツオ節もカビの働きによってつくられる。今回は、これらの健康効果について紹介しよう。
日本の食文化に欠かせない米麹
味噌、しょうゆ、日本酒、甘酒、塩麹(塩こうじ)など、日本の発酵食品の原料になるのが米麹だ。米麹は蒸した米に麹菌を繁殖させたもので、麹菌は学名をアスペルギルス・オリゼーという。カビの一種だ。
「麹」という漢字が麦偏なのは、中国では麦で麹をつくることが多いためだ。しかし、日本で麹といえば主に米麹だ。そのため、米偏に花(糀)という漢字で表現される場合もある。これは、蒸し米に麹菌が繁殖すると白くてフワフワの菌糸がついてカビの胞子が形成され、それが米に花が咲いたように見えるためだ。
「カビは有害なものというイメージがありますが、カビにも細菌にも有害なものと無害なものがあります。麹菌は日本人が経験的に、食品を安全においしく変化させるものを選抜し、伝えてきたものです」(東京農業大学名誉教授の小泉幸道さん)
今、私たちが発酵食品を味わうことができるのは、先人たちが無害で有用なカビを見つけ出してくれたおかげなのだ。麹菌は日本の発酵食品づくりに欠かせない菌なので「国菌」とも呼ばれる。
甘酒が砂糖を加えないのに甘いのも、カビのおかげ
麹菌は発酵食品をつくり出す主な微生物のなかでも、酵素をつくり出す力が強いのが特徴だ。「酵素は米のデンプンを分解してブドウ糖にします。砂糖を加えないのに甘酒が甘くなるのはそのため。また、麹菌は米や大豆のたんぱく質を分解してアミノ酸にします。これにより、日本酒や味噌、しょうゆにうま味が加わるのです」(小泉さん)
肉や魚を塩麹につけておくと柔らかくなるのも、酵素がたんぱく質を分解するからだ。
「甘酒は江戸時代、夏場の栄養ドリンクとして飲まれていました。それは、米のデンプンやたんぱく質がすでに分解されているため、吸収が早く、すぐにエネルギーになるからです。また、麹菌が米に繁殖する際、大量のビタミンB群をつくり出します。ビタミンB群にはエネルギー代謝をサポートして吸収を高める働きがあります」(小泉さん)
甘酒は「飲む点滴」ともいわれる。それは、甘酒に現在の点滴の主成分であるブドウ糖、必須アミノ酸、ビタミンなどが含まれているからだ。
この他、甘酒には食物繊維やオリゴ糖も含まれているため、腸内環境をよくするのにも役立つ。ビタミンB群には皮膚の新陳代謝を促す働きもあるため、美肌効果も期待できる。
カツオ節は世界で一番硬い発酵食品
日本の発酵食品というと、はずせないのがカツオ節だ。カツオ節は新鮮なカツオを煮て、煙でいぶしたものに、カツオブシ菌(カツオブシカビとも呼ぶ)というカビをふりかけて作られる。
「表面にカビがついたら払い落とし、また振りかける。このカビづけを4回繰り返すのですが、カビづけを行うたびに、カツオの水分がカビに吸い取られます。出来上がったカツオ節は、両手に持って打ち合わせると『カーン』という乾いた音を発するまでになります」(小泉さん)
カツオ節は世界で一番硬い発酵食品なのだという。「カツオブシ菌はカツオの表面で水分を吸収しながら繁殖する一方、さまざまな酵素をつくり出します。酵素はカツオのたんぱく質を分解して、うま味の主成分である各種アミノ酸をつくり出します。イノシン酸も酵素の作用により生成され、カツオのうま味を相乗的に高めます」(小泉さん)
魚のカツオには油が含まれているが、カツオ節を煮出した汁(だし)には油は浮いていない。これは、カビがつくり出した酵素がカツオの油を完全に分解してしまうからだという。「カビはカツオブシ菌の表面で繁殖中に油脂分解酵素を分泌して、油脂を脂肪酸とグリセリンに分解し、さらにその分解物も利用してしまうのです」(小泉さん)
カツオ節の成分に「疲労回復」や「食べ過ぎ防止」効果?
カツオ節は料理をおいしくするだけでなく、最近では健康効果にも注目が集まっている。カツオ節に含まれているペプチドやアンセリンなどの成分には疲労回復効果があるといわれている。また、カツオ節に含まれるヒスチジンというアミノ酸には、満腹感を与え、食べ過ぎを防ぐ働きがあるという報告もある。
ここまで、米麹とカツオ節について解説してきた。これらはカビによってできるものだが、カビそのものが有用なわけではなく、カビがつくり出した「酵素」が食品の成分を分解することで甘みやうま味、ビタミンなどの新たな成分が生み出される。つまりは、「酵素」がポイントになっているということだ。
【ここまで分かった 発酵食品】
第2回「乳酸菌は生きて腸に届く?ビフィズス菌との違いは? 」
第3回「味噌・納豆・酢 伝統発酵食の健康効果と食べ方のコツ」
東京農業大学名誉教授。1951年生まれ。1973年東京農業大学農学部醸造学科卒業。1997年東京農業大学教授に就任。専門は発酵食品学。発酵食品の科学的な成分変化と機能性に関する研究を行ってきた。著書に「NHKあさイチ 驚きの効果 ハチミツ&酢のパワー (生活実用シリーズ)」(NHK出版)、「元気がほしいカラダには酢が効く!―酢の健康パワーと痩身効果」(学習研究社)などがある。
(ライター 村山真由美)
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