中学で教わりたかった…金融と投資のイロハのイ
デヴィッド・ビアンキ著「お父さんが教える13歳からの金融入門」
国内で1日に刊行される新刊書籍は約300冊にのぼる。書籍の洪水の中で、「読む価値がある本」は何か。書籍づくりの第一線に立つ日本経済新聞出版社の若手編集者が、同世代の20代リーダーに今読んでほしい自社刊行本の「イチオシ」を紹介するコラム「若手リーダーに贈る教科書」。今回の書籍は累計4万部を突破した『お父さんが教える13歳からの金融入門』。金融や投資の仕組みの基礎にとどまらず、超高速取引やオプション、ビットコインなど、いまさら人に聞けない注目ワードを中学生にもわかるように解説している。
◇ ◇ ◇
デヴィッド・ビアンキ氏(C)Cabrera Photography
著者のデヴィッド・ビアンキさんは、タフツ大学で経済学の学位を取得した後、ボストンカレッジ法科大学院を修了。フロリダ州マイアミのStewart Tilghman Fox Bianchi & Cain弁護士事務所で、36年にわたり弁護士をつとめました。2013年、『ベスト・ロイヤーズ誌』により、マイアミ地区の「ロイヤー・オブ・ザ・イヤー」に選ばれています。
若い世代にこそ、金融・投資の知識を
小学校や中学校、あるいは高校で「お金」について学んだことがある人は、どれだけいるでしょう? 一生関わっていかなくてはならないのに、それを体系的に教える学校は多いとはいえず、基礎的な知識を持たないまま社会に出る人も多いのではないでしょうか。本書は、著者が13歳になる息子に、お金と投資の基本を教えようと書き始めたのをきっかけに出来上がりました。
なかには、前の世代が大人になってから知ったよりもたくさんのことを、高校生になるかならないかですべて本で読んで知り尽くしているような、いまどきの子どももいる。だけど、そんな子どもたちだって、これからの50年間おカネを稼ぎ、使い、投資するための金融スキルを持ち合わせているのかな? だれがそれを教えてくれるんだろう?
(まえがき 7ページ)
「すごく多くの若い人たちが、学費ローンに足を引っ張られて夢を叶(かな)えられなくなっている。教育債務の支払いは増えて、老人が受け取る年金はこのところずっと少なくなっている」と著者は指摘します。米国には、日本の年金制度に似た「社会保障(ソーシャル・セキュリティー)」という制度がありますが、今の子どもたちや若い世代が引退するころにはこうした制度が立ち行かなくなっている可能性もあります。だからこそ、自分自身で考えて、将来必要になるお金を貯蓄したり、増やしたりするスキルを身につける必要があります。
本書では、通貨の種類や「金利」といった基礎用語の解説にとどまらず、「超高速取引」や「ビットコイン」など話題の言葉の意味や背景まで取り上げています。例えば、「超高速取引」という用語についてみてみましょう。
(第4章 株を売買してみよう 98ページ)
「超高速取引」は近年、「1秒間に数千回の売買を繰り返す」などの説明とともに新聞などにも登場し、注目を集めています。昔からあったにもかかわらず、大きく取り上げられなかった「超高速取引」が注目されはじめた背景や、米証券取引委員会(SEC)が問題視している理由なども、わかりやすく説明しています。
ビットコイン、生まれた背景は?
インターネット上で取引する仮想通貨「ビットコイン」については、国によって異なる通貨とその価値の違いや為替取引について説明した上で、「通貨は、発行国の『全面的な信用と信頼』に裏づけられていて、支払いの手段として世界中で正式に認められている。ビットコインをつくった人たちは、それを全部変えたいと思っていて、正式な支払い手段としてビットコインを認める企業も増えている」と述べています。
金融・投資用語の意味だけでなく、それが生まれた背景までも教えてくれるのが本書の一番の特徴であり、わかりやすく読める理由です。
(第15章 おカネに賢く―クラスでいちばんになろう! 228ページ)
日本をはじめとする先進国では、財政や年金制度の改革が差し迫った課題となっています。一方、個人のレベルでは「格差」や「子どもの貧困」が問題となり、「働き方改革」の掛け声の下で雇用のあり方も大きく変わろうとしています。きちんとお金のことを理解し、自分とその資産を守ることは、ますます重要になってきます。若いうちにぜひ読んでおきたい一冊です。
◇ ◇ ◇
◆編集者からひとこと 堀川みどり
本書は、企業法務などを手がける弁護士の著者が、おカネに関する事柄が学校でも家庭でもほとんど教えられていないことを憂い、13歳の息子トレント君のために書いたノートがもとになって生まれた一冊です。
絶妙なゆるさを醸し出すイラストに一目惚れして出版を手掛けることになりましたが、内容は見かけによらず(?)とてもしっかりしています。子ども向けのふりをした親(大人)向けの本だといえるでしょう。おかげさまで予想以上の好評をいただき、発売から1年近くたつ今でも版を重ねています。
150点以上におよぶイラストは、すべて著者の甥(おい)で高校生だったカイル君が描いたものとのこと。デヴィッドさんらしき株式のブローカーが登場したり、トレント君らしき男の子がはりきって会社をつくったりと、イラストを眺めるだけでも楽しい一冊です。ぜひお手に取ってご覧ください。
(雨宮百子)
「若手リーダーに贈る教科書」は原則隔週土曜日に掲載します。