1.6億円まで無税 相続、配偶者に税優遇大きく宅地「8割引き」の特例も

相続税がかかるかもしれないことに危機感を覚えた良男が勉強を始めたことで、筧家ではちょっとした相続のブームが起きています。この日の夕食後も妻の幸子に聞きかじりの知識を披露しているところへ長女の恵が帰ってきました。

筧幸子(かけい・さちこ、48=上) 良男の妻。ファイナンシャルプランナー資格を持ち、家計について相談業務を手掛ける。 筧良男(かけい・よしお、52=中) 機械メーカー勤務。家計や資産運用は基本的に妻任せ。最近、親の相続が気になり始めた。 筧恵(かけい・めぐみ、25) 娘。旅行会社に勤める社会人3年目。自分磨きと"コスパ"にはかなりこだわっている。

良男 恵、お帰り。今夜は遅かったじゃないか。

 新入社員の歓迎会があったのよ。あ~疲れた。

良男 待ってたんだよ。特別品とか限定品好きの恵が興味を持ちそうな話があってね。ところでママは相続で配偶者の税額軽減を知ってるかい?

幸子 配偶者が取得した財産は少なくとも1億6000万円まで、さらに財産が多い場合は法定相続分までは相続税がかからないという控除枠のことね。

良男 なんだ、知ってたのか。税金から差し引くことができる税額控除はいくつかあるけど、最も効果が大きいのが配偶者の控除で、一般的には妻が多い。税金の負担を大幅に軽くできるので「税額軽減」とも呼ばれる。配偶者限定で特別に認められている仕組みと聞いたよ。

 1億6000万円というのは大きいわね。

幸子 財産形成には配偶者も貢献しているから優遇するのね。ただし事実婚や内縁の人は対象外で、法律上の結婚をしている配偶者じゃないと適用はできないの。

 法定相続分って何なの?

幸子 法律で決められている家族や親族の相続割合のことで、家族構成で割合が変わるのよ。例えば、夫婦と子どもの家庭で夫が亡くなった場合は財産の2分の1を妻が、残りの2分の1を子どもがもらう。子どもがいなくても親が生きていれば妻が3分の2で親が3分の1、子どもと親がいなくても夫に兄弟姉妹がいれば妻が4分の3で兄弟姉妹が4分の1というのが、大まかな配分ね。

良男 うちのような4人家族は、妻が2分の1、2人の子どもは4分の1ずつという計算か。恵は満と同じ4分の1だ。先に寄こせといってもだめだぞ。私が死んでからじゃないとな。

 変なこと言わないでよ、パパ。縁起でもない。

幸子 パパが先に死んだら、私は法定相続分の範囲内の財産取得であれば、どれだけ金額が大きくても税金はゼロというわけ。配偶者にはかなり有利な仕組みなので、一次相続ではまず利用を考えると聞いたわ。

 一次相続って何?

幸子 夫婦では夫が先に亡くなるケースが多いけど、その際の手続きが一次相続で、残った妻が亡くなったときが二次相続。一次では配偶者の軽減が使えるけど二次では使えない。子どもが払う税金を考えた場合、相続は二次まで見据えた方がよいという人がいます。例えば一次であえて妻の取り分を減らして子どもがやや多めに税金を払っておけば、二次で子どもにどかんと税金を課されるのを防ぐことができる。一次二次トータルでは子どもが払う税金を抑えることができるというのよ。

良男 一次のときにお金に余裕があれば考えたいところだな。お得な仕組みはほかにもあると聞いたぞ。

幸子 「小規模宅地等の特例」のことでしょう。家を建てて住んだり、事業をしたりしていた宅地を相続する際に評価額を最大8割引きにできるという特例ね。多くの税金を課すと土地や家まで手放す人がいるので、必要な土地は優遇して生活基盤を保障しましょうという仕組みね。前回の改正で相続税は厳しくなったけど、この特例に関しては宅地の面積が広がるなど緩和されたのよ。

良男 この特例を使えるか使えないかで、税金の額が大きく変わるそうじゃないか。

 でも、だれもが使えるわけではないんでしょう。

幸子 亡くなった人が自宅を建てて住んでいた場合は、相続する人が配偶者なら無条件で8割引き。同居していた親族なら相続税の申告期限まで住み続け、所有し続けること。配偶者や同居親族がいなければ別居している親族でもいいけど、別居親族は相続前の3年間は持ち家がないことや、やはり申告期限まで所有し続けることが条件なの。持ち家がないと適用できる別居親族の仕組みを「家なき子特例」とも呼ぶわ。

 配偶者は無条件だけど、親族にはいろいろと条件があるのね。

幸子 前回の改正ではほかにも変わったことがあるのよ。二世帯住宅で親と子が住むケースでは、以前は同居親族と見なされなかった別玄関・外階段の家も対象になった。老人ホームに入って亡くなった親がそれ以前に住んでいた家もね。介護が必要で老人ホームに入居した場合、以前の家を誰かに貸していなければ、親が居住していたものと見なして特例が使えるようになったの。

良男 ふ~ん。世の中の動きを反映したようだな。こうした優遇措置の適用を受ける際には何か注意点はあるの?

幸子 相続税の申告は相続開始から10カ月以内なの。税理士法人レガシィ(東京・千代田)の田川嘉朗統括パートナーは「配偶者の税額軽減も小規模宅地等の特例も、原則として期限内に遺産分割を確定させて申告しないと適用できなくなる可能性がある」と話していたわ。いざ相続が始まると手続きに追われて、あっという間に時間が過ぎてしまうので要注意ね。

■特例、二次では使えないことも
税理士法人レガシィ統括パートナー 田川嘉朗さん

実際の相続の例では、配偶者の相続分を3割程度に抑える場合が時折あります。二次相続を考えた配分とみられますが、配偶者が住まいや十分な金融資産を受け取れるようにすることが大切です。相続は一次二次合わせて考えるとよくいいますが、絶対ではありません。一次では配偶者の税額軽減を十分に利用し、二次までの間に次の対策を考えてもよいのではないでしょうか。
配偶者が同居している場合が多い一次相続では、ほとんどが小規模宅地等の特例を利用します。二次相続では相続人が自分の家を持っていて使えないことが多い。前回の改正では居住用宅地の面積拡大に加えて事業用宅地と併用する場合の面積も広がりました。ただ実際に併用するのは少数。一方で不動産賃貸用宅地の50%減額を利用する人は一定割合います。
(聞き手は土井誠司)

[日本経済新聞夕刊2017年4月5日付]

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