2017/4/24

オリパラSelect

「チップをあげたいよ」。2月下旬の夕方。ミス・パリ運営のスパ「WASPA」(東京・銀座)。全身マッサージコース(税抜き2万3千円)を受けたカナダ人のジョン・ウォートンさん(65)は、2時間前とは全く異なるリラックスした表情になっていた。「頭から足先まで100%の仕事をしてくれて気持ちよかった」

癒やしスポットにも、訪日客が集まっている。いたるところに日本を感じられる同店。施術では国産の青竹や富士山の溶岩石を使用したり、ウエルカムドリンクとして抹茶が提供されたり。多い月で来店客の4割が外国人。「男性の利用も多いのが訪日客の特徴」と矢野めぐみ店長は話す。

「アメリカやドイツでもマッサージを受けたことがあるが、今日が一番圧がちょうどよかった。好みの力加減にしてくれて、本当にパーソナルな施術」とはジョンさんの妻のヴィヴィアンさん(55)。日本体験も人気の理由のひとつだが、特に驚かれるのがその人に合わせた施術だ。

カナダから殿上湯にやってきたヤニーさん(左)ら(東京都北区)

「セラピストが優しい」――。昨年開業し、すでに5店を構えるホテル併設の日本テイストのスパ「庵 SPA」。店舗によっては7割を占めるという訪日客は驚く。「欧米に比べスパの歴史は浅いが、施術は個人に寄り添い細やか」。運営するクレドインターナショナル(東京・中央)の白井浩一代表は話す。

日本人は疲れている――。ランスタッドの昨年の調査によると、「給与が下がっても勤務時間を短くしたい」という回答は世界24の国・地域のなかで1位だった。「疲れ大国」だからこそリラックス術にたけている。

東京・北の住宅街にある銭湯「殿上湯」。平日夕方、カナダから観光で訪れた夫婦と息子がやって来た。「私たちの訪日の目的の一つは銭湯といっても過言ではないわ」。妻のヤニーさん(48)は話す。仕事で何度か来日し、毎回銭湯を体験している。公衆浴場として温泉がある国もあるが、水着を着用することが多い。「日本は水着なしで入れるから1日の疲れが癒やされる」(夫のグレゴリーさん、43)

殿上湯にはフランスやシンガポールなどから頻繁に外国人客が訪れる。併設するアパートを活用し、民泊を始めたのがきっかけだ。部屋は畳で布団を用意。「日本人の暮らしを体験してほしい」と運営する原延幸さんは話す。

ババンババンバンバン♪――。2月下旬、羽田空港の国際線ターミナル。「いい湯だな」の音楽とともに、訪日客向けの銭湯紹介イベントが始まった。銭湯画教室が開かれたりルールを説明する紙芝居が披露されたり。全国公衆浴場業生活衛生同業組合連合会の近藤和幸理事長は「SUSHI、KABUKIのようにSENTOを世界共通語にしたい」と意気込む。

アクセスは決してよいとはいえない地方にも。兵庫県豊岡市の城崎温泉には昨年約4万人の訪日客が訪れた。5年前比で約36倍だ。中国人、タイ人、米国人……。情緒あふれる街を浴衣を着て、ゲタを鳴らしながら訪日客が歩いている。

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訪日客消費もモノからコトへ 「美」の分野は有望

訪日客の消費の現場は「コト」にシフトしている。観光庁の調査によると、2016年の訪日外国人の「買物代」は前年比2%減少する一方、「娯楽サービス費」は1136億円と同7%以上増えた。

コトへの流れは今後も進むとみられるが、「『美』の分野はまだまだニーズを取りこぼしている」とホットペッパービューティーアカデミーの服部美奈子研究員は話す。美容室やネイルサロンなどは日本では予約が前提。訪日客は予約をせずに家族や友人など複数で訪れることが多い。「団体の対応が急にはできずに断っているケースが多い」

一度味わったら“体験済み”となってしまうテーマパークなどのコト消費とは違うのも「美」分野ならでは。髪や爪は伸びるし、トレンドもあるため、リピーター客になりやすい。「友達へのお土産はモノを買ったけれど、『自分へのお土産はネイル』と来日のたびに来店する人もいる」(ネイルクイックの王さん)そうだ。さらに、「美容室ではせっかく来たからと1人当たり単価も高い傾向もある」(服部研究員)。

(井土聡子、細川倫太郎)

[日経MJ2017年3月31日付]