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ピアニスト伊藤恵と作曲家(前編)ベートーベン

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NIKKEI STYLE

日本を代表するピアニストの一人、伊藤恵さんが、敬愛する作曲家とその作品について弾き語る2回シリーズ。前編はベートーベンの後期三大ソナタの一つ、「ピアノソナタ第30番」。

3月24日、東京・銀座のヤマハホールで「伊藤恵ピアノ・リサイタル」が開かれた。「最後の晩さんで何を食べたいか。その質問を人生の最期に何を聴きたいかに変えたら、こんなプログラムになった」と伊藤さんは語る。演目はシューマンの「幻想小曲集 作品12」、ベートーベンの「ピアノソナタ第30番ホ長調作品109」、シューベルトの「ピアノソナタ第20番イ長調D959」。彼女が最も愛着を抱く作曲家3人による大好きな作品が並んだ。もう1人加えるとしたらショパンだろうか。彼女のベストといえる演目だった。

シューマンとシューベルトに別格のベートーベン

伊藤さんは1983年、最難関といわれる独ミュンヘン国際音楽コンクールピアノ部門で日本人として初めて優勝した。オーストリアのザルツブルク・モーツァルテウム大学と独ハノーファー国立音楽大学で、スウェーデンを代表するピアニスト兼作曲家のハンス・ライグラフ氏(1920~2011年)に師事し、ドイツ・オーストリア流の正統派の演奏法を体得したピアニストだ。長年得意としてきたのはドイツ・オーストリアのロマン派の作品群。特に87年から2007年まで約20年間にわたって「シューマニアーナ」と題してCD計13枚の全集の録音を続けたシューマンは、このピアニストの代名詞となっている。

続いて彼女が集中して取り組んだのがシューベルト。ピアノ作品集シリーズのCDは計6集に達した。特に2015年に出した最後の「伊藤恵/シューベルト:ピアノ作品集6 ピアノ・ソナタ第21番 第18番」(発売元:フォンテック)は2015年度レコード・アカデミー賞と第70回文化庁芸術祭賞優秀賞を受賞した。4月には最新CD「ショパン/24の前奏曲、シューマン/クライスレリアーナ」(同)を出す。再び最も得意なシューマンの作品をレコーディングした。

シューマンとシューベルトのピアノ作品は伊藤さんの十八番(おはこ)なのだが、ベートーベンだけは彼女にとって別格で、これまで敬遠しがちな存在だった。「あまりに高みにあって全然手が届かない」と語り、安易に演奏することを避けてきた。もちろん演奏してこなかったわけではない。筆者も彼女が弾くベートーベンの「ピアノソナタ第8番《悲愴》」をライブで聴いたことがあるが、作曲家と正面から向かい合って真意をくみ尽くす完璧といえる内容で、敬遠する必要なんかないのに、と感じたものだ。

ソナタ形式の中で自由を勝ち取る音楽

それどころかベートーベンは彼女の基盤にあるとさえいえる。「欧州留学でライグラフ先生に最初に教わったのがベートーベンの『ピアノソナタ第30番』。ベートーベンの後期三大ソナタ(第30~32番)の中で最初に取り組んだ曲」と話す。正統派の演奏法を受け継いだピアニストゆえに、「楽聖」への畏怖の念があったのだろう。そして24日のリサイタルではついに「第30番」を弾いた。本稿の映像では、本番前日の23日に同じヤマハホールで行われたリハーサルで、彼女が「第30番」の第1楽章を弾く様子を捉えている。

「ソナタ」とはソナタ形式やスケルツォ、ロンド形式などによる通常3~4楽章で構成された器楽曲。その中核となるソナタ形式とは、序奏から第1・第2主題の提示部を経て展開部に入り、既出の主題の再現部から終結部に至る古典派の楽曲形式。ロマン派の作曲家も交響曲や器楽曲で頻繁にこの形式を使った。ベートーベンはピアノソナタを生涯にわたって作曲し、その数は32作品に及んだ。「ピアノソナタを32曲も書いたので、(ソナタ形式などの)構成美がベートーベンにとって重要かと一瞬思える」と伊藤さんは話す。しかし実際には「彼はソナタ形式の中でいかに自由を勝ち取るかを考えていた」と強調する。

特に後期三大ソナタは変奏曲やフーガの要素を取り込むなど、楽曲の構成も多様で、複雑な様相を呈している。ソナタ形式を念頭に置いて、展開を推測しながら聴こうにも、なかなかつかみどころのない曲が多い。「一音一音すべてが謎だった」と伊藤さんはライグラフ氏から最初に「第30番」について教わった18歳の頃を思い出す。「それなりの経験や準備が要る」というこの曲も、今では「優しさが凝縮している曲」と独自のアプローチを持つに至った。

優しいドルチェなベートーベンと付き合う

23日のリハーサルと24日の本公演の両方で彼女の「第30番」を聴いたが、特に第1楽章と第3楽章の優しさと幸福感に満ちた響きが印象に残る演奏だった。聴き手によっては、激しさが際立つはずの第2楽章で、ガツンという衝撃がやや足りないと思う向きもあるかもしれない。しかし複雑な構成の中で微細な分散和音(アルペジオ)の一音一音にも優しい歌を読み取る彼女の演奏は、独自のベートーベン像といえる。

ソナタという楽曲形式にのっとって作曲しながらも「ベートーベンの音楽は(自由に発想する)ファンタジーだ」と話す。「耳が聞こえないという彼の音楽家としての苦しみは想像がつかない。耳を越えた体の全体で自然の音を聞き取っていた」。そんな作曲家が書いた音楽からは「人は意味のある幸せを勝ち取るべきだ」という励ましの声が常に発せられている。ピアニストとして、ベートーベンのこうした強烈なメッセージにどう向かい合い、人々に演奏を通じて伝えていけばいいのか。伊藤さんがたどり着いたのはベートーベンの音楽に満ちている「ドルチェ(優しく、甘く)」という性格だった。「彼の肖像を見ると、髪が逆立って厳しい顔付きをしている。でも私は彼が(楽譜に)書いた『ドルチェ』の箇所を見ると、この人は世界で最も優しい人だと思う」

彼女が尊敬するピアニストは、惜しまれつつも引退したアルフレート・ブレンデル氏。彼がベートーベンの「ディアベリ変奏曲」を弾いた演奏会に最も感動したという。「演奏家の生き方も問うのがベートーベン。私はブレンデルのように、人が生きるということを厳しく追究する演奏はとてもできない」と話す。その一方で「私はベートーベンの『ドルチェ』に本当に感動している。(優しさに満ちた)ドルチェなベートーベンとこの先、付き合っていきたい」と夢見心地の表情で語る。3月26日の命日で没後190周年を迎えたベートーベン。偉大な作曲家との新たな付き合いが始まる。

(映像報道部シニア・エディター 池上輝彦)

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