進化するニュース番組 ネットに対抗、ライブ感を重視
日経BP総研マーケティング戦略研究所 品田英雄
2017年春のテレビ番組改編で、ニュースや情報ワイドの新番組が次々と登場する。
NHKは4月3日から平日の午後に3時間の生ワイド番組「ごごナマ」をスタートさせた。月曜~金曜13:05~16:00。司会を船越英一郎、美保純、阿部渉アナらが務める(金曜日は大阪制作で西川きよし、濱田マリ、藤井隆ら)。時事的なテーマも積極的取り入れるといわれ、裏番組に当たる「情報ライブ ミヤネ屋」(日本テレビ系)「ゴゴスマ~GO GO Smile!~」(TBS系)「直撃LIVEグッデイ!」(フジテレビ系)にどんな影響が出るか、関係者は注目している。
夜の時間帯でもニュースの新番組が始まる。テレビ朝日は土日の20:54~21:54に「サタデーステーション」「サンデーステーション」をスタート。司会は土曜日が高島彩、日曜は長野智子と女性が務める。
インターネットの影響力が強まる中、テレビ局の編成は生放送、情報強化の方向にある。いつでもどこでも好きな映像を見られる環境が広がる中、テレビの強みは生放送に対応できる取材力や演出力にあると考えるからだ。
その中で番組の見せ方も、このところ大きく変化しつつある。
出演者の立ち姿の増加
司会者の挨拶の仕方、説明の様子が大きく変化している。ニュース番組では机を前に腰掛けたアナウンサーが原稿を読むというのがかつてのスタイルだった。それがこのところ立ち姿の司会者が増えている。NHKの夜の「ニュース7」はじめ、朝8時台の「スッキリ!!」(日本テレビ)「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日)「白熱ライブビビット」(TBS)「とくダネ!」(フジテレビ)など、どれも立ってあいさつする。その後は、プレゼンターが立って解説し、ほかの人は座るというパターンが多い。座っている落ち着いた姿よりも、動き回る活動的な姿が増えている。
夜になると様子は少し変わる。立ってあいさつしても、座って進行する番組が増える。フジテレビの「ユアタイム」やBS日テレの「深層ニュース」のように、机を置かず出演者の足を見せる番組もある。「徹子の部屋」に代表されるように、足を見せる映像は寛いだ印象を与える演出と言われる。
立ち姿が増えたことで、出演者の身長にも注目が集まるようになった。目につくのは高身長の司会者が増えていること。加藤浩次(「スッキリ!!」)、羽鳥慎一、石井亮次(「ゴゴスマ」)、枡太一(「ZIP!」)、富川悠太(「報道ステーション」)らは175センチ以上あり、ほかの出演者との身長の違いが目立つようになった。
ボードを活用した説明
事件の説明のために使用するプレゼンボードが巨大化している。経過、背景、周囲の反応、専門家の意見などを一枚のボードに事細かにまとめ、番組はそれを基に解説していく。ところどころにキーワードが隠してあり、コメンテーターに質問しながら、めくっていくのも"お約束"になっている。手を伸ばしたり、背伸びしたりする動きは画面に変化をつける。
スタジオには専門家が解説のために呼ばれるが、彼らの解説のポイントもあらかじめボードの中に書き込まれていることが増えた。「事前にポイントを聞いて整理しておいた方が短い時間でも分かりやすく伝えられる」という判断からだ。そのため、スタジオには来たものの、ほとんど声を出さないで帰る専門家もいる。
最近のニュース番組では、「今日取り上げるニュース」を画面で一覧できるようになってきている。新聞やネットに比べて、テレビは時間とともに進行し、すぐには見返しできないという弱点がある。それを補うために扱う話題をまとめて表示する。紙メディアの一覧性をテレビにも取り込もうとの努力の表れだ。
エンターテインメント番組のような多くの色の使用
かつてニュース番組では、中立公正で落ち着いた雰囲気を出すために、色数は少なかったった。だが、最近はニュース番組でも多色化が進んでいる。エンターテインメント番組と変わりなくなっているという声もある。
その色使いもこれまでなら避けていた、青とオレンジ色、緑と赤紫など、互いに目立たせ合う補色関係まで使われる傾向にある。「ピンクなどが目立って違和感がある」という感想も聞こえる。
その一方、一つひとつの色は鮮やかさや明るさを抑える傾向にある。多くの色を使うようになり従来のような鮮やかさでは刺激が強すぎるためだ。「従来の類似の調和に対し、対比の調和が目立つようになっている」とあるデザイナーは解説する。保守的と思われたNHKのニュースでさえ、新しい色使いになっている。
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立ち姿の増加、大きなボードを使った解説、多色の利用という3つの傾向はニュースだけでなく、トーク番組、バラエティー番組にも共通する。この背景にはテレビ画面の進化が関係しているようだ。大型化と詳細化により、出演者の動きが注目され、多色使いが求められるようになった。同時に、液晶の発色が良くなり、以前なら避けられていた色の組み合わせでも見やすくなった。
テレビの番組編成は生放送が増えニュースとエンターテインメントの垣根が低くなっていて、同時に番組の演出も様々な方向に進化している。この春以降、どんな演出が登場するのか注目される。
日経BP総研マーケティング戦略研究所 上席研究員。日経エンタテインメント!編集委員。学習院大学卒業後、ラジオ関東(現ラジオ日本)入社、音楽番組を担当する。87年日経BP社に入社。記者としてエンターテインメント産業を担当する。97年に「日経エンタテインメント!」を創刊、編集長に就任する。発行人を経て編集委員。著書に「ヒットを読む」(日経文庫)がある。
日経BP総研マーケティング戦略研究所(http://hitsouken.nikkeibp.co.jp)では、雑誌『日経トレンディ』『日経ウーマン』『日経ヘルス』、オンラインメディア『日経トレンディネット』『日経ウーマンオンライン』を持つ日経BP社が、生活情報関連分野の取材執筆活動から得た知見を基に、企業や自治体の事業活動をサポート。コンサルティングや受託調査、セミナーの開催、ウェブや紙媒体の発行などを手掛けている。
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