日経エンタテインメント!

早くからエレクトロサウンドを手がけていた小室は、近年のEDMブームも手伝って、PCで音楽を作り、打ち込みサウンドに全く抵抗感のない世代のヒャダインやtofubeatsといった人気の若手クリエイターとの交流も盛んだという。

楽曲の作り方はオープンに

「日本でエレクトロミュージックを手がけたのが、僕の世代が最初だとすると、第2世代が浅倉大介、ヒャダインや中田ヤスタカが第3世代になり、tofubeatsやTeddyLoidが第4世代という感じになるのかなと。ただ、音楽に限らずポップカルチャーは近年、80年代や90年代のリバイバルがあったり、過去のヒット曲はすぐにネットで聴くことができるので、世代間のギャップみたいなものはあまりないように思います。むしろ、クリエイターならではの共通言語みたいなものがあって、それがなければ先輩だって会話には入れない(笑)。そういうフラットな感じなんですよ。

『Tetsuya Komuro JOBS#1』神田沙也加やtofubeatsと制作したCMソング、つんく♂とMay.Jと組んだタイアップ曲、ヒャダインとのコラボ曲など豪華な共作ナンバーが並ぶソロワークアルバム。(エイベックス/発売中/3800円・税別)

ソロワーク集『JOBS#1』などで一緒に仕事をした若いクリエイターは、僕を目の前にするからだろうけど(笑)、『影響を受けないわけがない』とよく言います。『好き嫌いはともかく、小室哲哉はとりあえず聴いておこう』みたいな感じだったと。でも、それで全然いいと思うんです。教授(坂本龍一)はあまり音の作り方をオープンにしてこなかったのかなと。また、つんく♂さんや秋元康さんも、(音楽制作の元となる機材などの)セッティング部分は公開していませんよね。僕自身は後輩に育ってほしい気持ちがあって機材や音作りに関してオープンにしていた。それを感じて彼らも『まずここから入ろう』となったんだと思います。

今回のアルバムでもいろいろな人とコラボしましたが、音楽はパートナーと組むことで初めて生まれるものがある。今後はそういう何かと組んで作る仕事がさらに多くなると思いますね。先にも話したように、悲しいかな今、楽曲そのものの対価はないに等しい。映画の主題歌とかCMなど何かと組んで1つのエンタテインメント作品にしなければ、音楽は成立しない状況です。ただ、組むパートナーにとっても音楽はなくてはならないものだから、絶対になくなることはありませんが。

パートナーは人でも、他ジャンルのエンタテインメントでも何でもいいんです。仮にゲームと組んだとすると、必然的に今まで僕の音を聴いたことのない膨大な数のリスナーが生まれるのかもしれない。そういう出会いを僕は楽しみにしているんです」

実際、15年はアニメ『パンチライン』のサウンドトラックを手がけ、16年には大森靖子をボーカルに迎えてファッションブランドのCMソングを担当。世界的デザイン集団「TOMATO」のメンバーがオーガナイズするイベントに参加するなど、ジャンルも国境も超えたパートナーとコラボレーションを積極的に行っている。

「音楽と相性がいいパートナーの1つ、スポーツと組み合わさるとすごいことが起きるということを僕が感じたのは、最初に話したフランスW杯でした。閉会セレモニーに向けて、フランス対ブラジルが決勝戦を戦っている間もずっとリハーサルをしてたんです。だから、試合はどちらが勝っているか負けているかも分からなかった。でも、開催国のフランスがゴールを決めるとラジオを聴いている町中のドライバーが、クラクションを一斉に鳴らすんですよ。様々な(音階の)クラクションが重なり合って、まるで音楽のようだなと思ったし、音楽ってすごい力があるんだなと実感しました。

日本では20年に、東京オリンピックが開催されます。きっと母国のアスリートが活躍したらフランスW杯のときと同じように、もしくはそれ以上に盛り上がると思うんですよ。ただ、僕が国事であるサミットのイメージソングを手がけた頃と違って一般の人がたくさんの情報を手に入れられる時代。しかもまだ、ロンドンオリンピック(12年)の素晴らしい開会式の記憶も色濃いとも思うので、担当される方はすごいプレッシャーかもしれません。日本だからこそできるエンタテインメント、ひいてはJ‐POPの力を世界中に示す場になることを期待したいです。

今のJ‐POPシーンを見ると自分で曲や歌詞を書いて歌うだけでなく、SNSを駆使してセルフプロデュースまでする人が増えていますよね。そんな時代だからでしょうが、国内外を問わずプロデューサーはトータルでアーティストを育てるのではなく、トラックメイカーとほぼ同義になってきたなと感じることも増えました。とはいえ、歌うことに特化してプライドを持っているシンガーも少なからずいると思うんです。僕も、そうした方から曲を作ってほしいという要望があれば、きちんとその思いに応えて寄り添える曲を書いていけたらいいなと思っているんです」

(ライター 橘川有子)

[日経エンタテインメント! 2017年4月号の記事を再構成]