思いを伝えるエンディングノート 書いた人は少数派?終活見聞録(1)

やや古いデータだが、経済産業省が2012年にまとめた「安心と信頼のある『ライフエンディング・ステージ』の創出に向けた普及啓発に関する研究会報告書」では、エンディングノートについて、「よく知っている」「なんとなく知っている」「名前は聞いたことがある」を合わせた、存在を認知している人は全体の6割を超えた。だが、作成済みの人は2.0%とごくわずか。60代でも2.4%、70歳以上も5.0%にすぎなかった。

「エンディングノートを買う人は増えているが、書く人は増えていない」と指摘するのは、終活の各種支援を手掛けるNPO法人「人生まるごと支援」の三国浩晃理事長。「自分に何かあってもだれかがうまくやってくれるという思い込みがある人が多い。認知度は高いのでとりあえず買いはするが……」と話す。上記の調査では「いずれ書くつもりである」という人は全体で41.1%、70歳以上だと54.2%に上るが、実際にこのうちのどれぐらいの人が書き終えるのかは未知数だ。

経済産業省「安心と信頼のある『ライフエンディング・ステージ』の創出に向けた普及啓発に関する研究会報告書」(2012年)より
経済産業省「安心と信頼のある『ライフエンディング・ステージ』の創出に向けた普及啓発に関する研究会報告書」(2012年)より

家族らと一緒に作成も

「すぐに必要なわけではない」「書くとそれが固定してしまう」「ページ数が多すぎる」。書かない、または書けない理由は人それぞれだ。自分の死や終末期に関することなので、一人で書いていると切なくなり、途中でやめてしまう人もいる。重要なのはサポートする人がいるかどうかだろう。書き方講座の講師やカウンセラー、友人でもいいが、「できれば家族と一緒に作ってほしい」と専門家の多くは話す。書いたことを実行するのは、家族ら後に残る人たち。彼らと自分の思いや希望を共有しておくことが大事だという。

「今の考えでとりあえず書き、考えが変わったら何度でも書き直せばよい」と武内弁護士は話す。そのうえで「書いたことは家族に伝えたい」。だれにも話さず、たんすの奥などにしまい込んでしまっては何も伝わらない。書きやすいところから書いて、全部のページを埋める必要はない。ただ、葬儀や墓などに従来と異なるスタイルを望むなら、書き残す必要があるだろう。直葬や散骨などは代表例だ。終末期医療や延命措置に関しては、希望を書いておけば、家族が判断に迷ったときのよりどころになる。相続などの観点からは、プロフィールや資産のページが重要だ。親族表や親戚・知人の名簿を記入しておくと相続人の確定や連絡時に便利だ。保有資産を書いておけば、相続財産の算定に役立つ。実際、親がどんな保険に入っているかなど、知らない家族も多いだろう。

その名もズバリ、「エンディングノート」という日本映画がある。2011年に劇場公開された作品で、主人公は元熱血サラリーマン。67歳でリタイアし、第二の人生を歩み始めた矢先に胃がんが発覚した。すでに末期で手術もできず、後に残る家族と自分の人生の締めくくりのために、自らの死の段取りを整えていくというストーリーだ。娘である監督が自分の父親の死までを撮影した。

映画ではエンディングノートを「遺書よりフランクで公的な効力を持たない家族への覚書のようなもの」と位置づける。主人公がどんなノートに書いていたのかは分からなかったが、最後の葬儀のシーンで財産の状況や遺産分配に関する希望などをナレーターが語っていく。それ以外にも自分の葬儀の会場を下見に行ったり、親子で死亡の際の連絡先を確認し合ったりする場面も印象的だった。興行収入が1億円を超えて、ドキュメンタリー映画として異例のヒットになったのは、それだけ共感を覚えた人が多かったからかもしれない。

ワンポイント:エンディングノートと遺言の違いは

エンディングノートと遺言状の違いがよく分からないという人も少なくない。もちろん、ふたつは別ものだ。エンディングノートには形式や様式の決まりがなく、どんなノートを使ってもいいし、何を書いてもOKだ。自分の希望や思い、自分史などを自由につづることができる。名称も様々で「メッセージノート」「もしもノート」といったものもある。自分や家族の写真を貼るページもあれば、自分史に多くのページを割いているものもある。一方の遺言は、形式・様式には決まりがあって、その要件を満たさなければ無効になってしまう。記載内容も法律によって定められているので要注意だ。

最大の違いは遺言には法的な効力があって、エンディングノートにはそれがないこと。エンディングノートに書き残しても、あくまでも希望やガイドラインのようなものであって、後を託された人次第で望み通りに進まないこともある。仮に延命措置を拒否すると書いてあっても、家族ができる限りの延命措置をしたいと思えばそうなるだろう。また、仮に遺産の配分割合が書いてあっても「法的に認められるためには別途分割協議が必要になる」と、遺言や相続に詳しい三菱UFJ信託銀行リテール企画推進部の玉置千裕氏は話す。「遺産分割に自分の意思を反映させたいなら、やはり遺言をきちんと残す必要がある」と指摘する。

(文・写真 土井誠司)

[日経回廊の記事を再構成]

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