認知症の母との日常を記録したドキュメンタリー映画『毎日がアルツハイマー』(2012年製作)は、動画投稿サイトYouTubeで100万人以上が視聴した人気動画から生まれた話題作で、深刻になりがちな認知症をユーモアあふれる視点で描いている。2014年には続編『毎日がアルツハイマー2 関口監督、イギリスへ行く編』も公開された。現在、次回作『毎日がアルツハイマー ザ・ファイナル』を製作している監督の関口祐加さんに映画のことや、親の認知症とどう向き合ってきたかについて話を聞いた。
オーストラリアからの帰国を決意させた“ケーキ事件”
――日本の大学を卒業後、29年間オーストラリアで過ごした関口さんが日本に戻りお母さんの介護をしようと帰国したのは2010年1月。帰国を決意した経緯をお教えください。
自分自身を被写体にして撮った『THE ダイエット!』という映画が2009年に日本で公開されたので、2週間くらいずつ何回か日本に帰ってきたのですが、その間、母と過ごしてみて「あれ?」と思うことがあったんですね。母の誕生日の9月22日に初めてカメラを回したのですが、その2週間後、誕生日のことを聞くと、もう記憶がすっぽり落ちていて、「誕生日会なんてやったっけ?」って。でも、そのときは「ボケた~、ボケた~」なんて歌っていて明るかったので、大丈夫だろうと思っていたんです。

ところが、忘れもしない12月25日、一気に心配になるようなことがあったんです。毎年12月から1月はオーストラリアにいる息子の先人(さきと)と一緒に夏休みで帰省して、楽しくクリスマスパーティーをするんです。その年も楽しくパーティーをしたのですが、片づけも終わって一息ついているときに、母が突然私のところに来て、「どうしよう、先人くんの字でケーキ忘れないでって書いてあるのに、私、忘れちゃった!」と言ったんです。
クリスマスの少し前に先人が日めくりカレンダーに「ケーキ、おばあちゃん忘れないで」と書いておいたのですが、母はそれを見て私がケーキを買ってきたことも、みんなで食べたことも忘れていました。問題はそのときの母の状態が9月のときとは違っていて、彼女の中に恐怖のようなものが芽生えていたことです。それで、「これはもう母ひとりでは暮らせないな、日本に帰ってこよう」と決めました。