AI(人工知能)が株式投資などの運用をするようになると、どんなことが起こるのだろう。AIの技術進歩と金融実務の両方に詳しい、金融情報会社のRPテック取締役、櫻井豊さんに解説してもらった。
──なぜここへきて、AIを活用した運用が関心を集めているのでしょう。
きっかけになったのは機械学習の進歩です。ひと昔前は、機械運用は能力的に駄目だと思われていました。私も実際にやってみたことがあるのですが、作れるモデルが単純すぎて、複雑な相場をとらえられるようなものではありませんでした。
そんな状況だったのが、この10年くらいの間に機械学習の統計的な手法がすごく進歩した。それだけでも大きいのですけれども、さらにディープラーニング(深層学習)の手法が発達して、可能性が飛躍的に開けました。AIと金融はそもそも相性が良い。運用に関心のある人なら絶対トライしてみたくなるほど、今は良い仕組みができてきているんです。

──ヘッジファンドがここ数年苦戦する中、AI系のファンドの成績が良好ですね。この流れは今後も強まるのでしょうか。
少なくとも短期の取引で、人間のトレーダーが駆逐されていくのは間違いないと思います。超高速トレードはもちろんですが、10分とか、あるいは1時間から数時間のトレードは、AI技術を使った研究が進むと、ほとんど人間はかなわなくなるというのが個人的な印象です。長期のトレードはまだ時間がかかると思いますが。
チャートを超える法則も
──例えば腕利きのデイトレーダーのコピーを作る、みたいなイメージですか。
必ずしもそうではありません。腕利きのトレーダーも何らかの(こうなったらこうするという)パターン認識をしているはずで、それを機械が読み取るというアプローチはあり得ます。ただ、トレーダー本人も自分の行動の理由がよく分からないというケースもあり、機械による読み取りが難しいということも考えられます。
テクニカル分析ではチャートが使われますが、それについて話を広げますと、人間が築いてきたチャートの経験則も、それはそれで本質を突いているとは思うけれど、機械から見ると値動きパターンのある一面しかとらえていないということが言えます。
チャートはチャートで表せるものしか認識できませんが、機械でとらえていくと、もっと多様な、硬直的でない、複雑で微妙な経験則が見つけられるかもしれない。

──AI運用が広がってくると、ヘッジファンドのありようも変わってくるかもしれませんね。
最近ではブラックマンデーの時に空売りで大儲けしたポール・チューダー・ジョーンズ氏が、運用成績の低迷を受けてAIを使った運用にかじを切った、といった話が伝えられています。これは、ジョージ・ソロス氏やポール・チューダー・ジョーンズ氏のような、人間一人の抜きんでた才覚でやってきた20世紀型のファンドが白旗を掲げ、機械運用を始めているということなのでしょう。
ここ数年、ヘッジファンドは成績が振るわず、資金が流出している状態ですけれども、一方でうまくやっているところはあって、その中でAIを使っているところが目立つ、という状況にありますから。