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50年間人口が増え続ける町 次の一手はスポーツ

2017/3/30

上富田スポーツセンター。サッカー場3面、野球場、テニスコートなどがある

全国各地の地方自治体が人口減少に悩むなか、大都市のベッドタウンでもなく合併を繰り返したわけでもないのにこの50年間人口が増え続けている町がある。和歌山県の中南部に位置する人口1万5000人弱の西牟婁郡上富田町だ。

もともとはミカンなどの農業を中心とした小さな町だった(1970年の人口は9985人)。これが2017年2月末時点では1万5544人と1.5倍程度に増えた。大阪など県外からの移住よりも、近隣地域からの流入が主な理由だ。

和歌山県西牟婁郡上富田町の人口推移(2015年「上富田町人口ビジョン」より)

この間に、町の長期ビジョンに従って、(1)時代に合わせて産業構造を商工業中心にシフトさせ、まず雇用を作るために企業を誘致(2)結婚定住を促すために宅地造成や固定資産税優遇など住宅関連の施策を進めた(3)定住後に子育てがしたくなるような教育環境整備、などを進めてきた。こうした経緯の詳細については『50年間人口が増え続ける和歌山県上富田町の秘密』(http://www.nikkeibp.co.jp/atcl/tk/PPP/030700028/022700007/)を参照していただきたい。

実は先に挙げた「雇用、住宅、教育」の3つの施策は、全国各地の元気な地方自治体が共通して取り組んできたいわば地域おこしの王道ともいえる。しかし、こうした取り組みがあっても今後の高齢化は避けられない。そこで今回紹介したいのは、高齢化に対する地方自治体の次の一手についてだ。

■スポーツ施設活用で地域にカネを回す

上富田町の場合、スポーツと健康である。スポーツ施設の建設で一時的に地域経済を潤すだけでなく施設利用を通じて地域住民の健康増進につながれば、将来高齢化が進んだ際の医療費の負担を軽減させる効果も狙える。

上富田町には、1989年の「ふるさと創生事業」をきっかけとして90年代前半に建設したスポーツ施設がある。フル規格のサッカー場が天然芝2面、人工芝1面の計3面。室内練習場や野球場もある。これまでサッカー女子日本代表やJリーグの合宿所として使われている。2019年に開かれるラグビーワールドカップの合宿チームの誘致にも名乗りを上げている。

実は上富田町内には、有名チームが合宿にやってきても受け皿となる宿泊施設や飲食店がほとんどない。関西を代表する温泉リゾート地である白浜温泉を擁する白浜町や飲食店街が充実している田辺市に隣接しているため、経済的なメリットはあまりない。

この状況を少しでも改善するべく上富田町がひねり出した手が「スポーツセンター弁当」である。合宿に来たチームや関係者メディア関係者の昼食用に、町役場がまとめて弁当を受注し、注文を町内の6つの事業者が手分けして製造を受け持つというもの。栄養士や和歌山大学の協力を得て内容を決めた。これまで最大で1500食の注文に対応した。

スポーツセンター弁当。本来競合するはずの6つの事業者が同じメニューを手分けして作る

スポーツセンターは、普段、地元の小中学生向けの総合型地域スポーツクラブ「くちくまのクラブ」(通称Seaca)も使用している。このスポーツクラブがユニークで、子供をこのクラブに入れたいがために近隣から上富田町に引っ越してくるファミリーも多くあるほどだ。

先に挙げたようなトップアスリートが使う施設を利用できるサッカーや野球だけでなく、剣道や空手といった武術、ゴルフやカヌー、さらに英会話や音楽など、このクラブのスクール・サークル活動は幅広い。これがすべて月額500円(保険料は別途)の低料金で利用できる。運営は基本的にボランティアベースで費用は会費のほか地元企業の寄付金でまかなっている。

講師やインストラクターには元プロ野球選手や元Jリーガーが参加しているほか、バドミントンの元世界チャンピオンも参加している。

総合型地域スポーツクラブ 特定非営利活動法人くちくまのクラブのサイト。活動はスポーツにとどまらず多岐にわたる

■住民の健康増進から地域の誇りづくりへ

スポーツを切り口にした地域おこしの施策はまだある。昨年3月には和歌山大学と地元熊野高校、上富田町の3社が共同で独自の健康ダンスである「防災エクサダンス」を開発した。災害避難時のエコノミークラス症候群の防止を目的に掲げているが、地元の観光名所や伝説などの文化的なストーリーを入れ込むことで、健康増進とともに地域に対する誇りの醸成も念頭に置いている。

防災エクサダンスの一場面
運動能力に応じてイージーバージョンも選べる

スポーツを切り口にした地域おこしは全国自治体で試みられている。競技場や体育館などの施設建設、マラソンやサイクリングなどのイベント誘致をきっかけにしたスポーツコミッションなど、アプローチはさまざまだ。「作った施設の稼働率を上げていかに稼ぐか、町民の未来につなげていくかがカギ」と上富田町の小出隆氏道町長は言う。

持続的に地域住民の福祉に貢献するためには住民を巻き込んだコンテンツの企画力が問われてくるだろう。

渡辺和博
日経BPヒット総合研究所 上席研究員。86年日本経済新聞社入社。IT分野、経営分野、コンシューマ分野の専門誌編集部を経て現職。全国の商工会議所等で地域振興や特産品開発の講演やコンサルを実施。消費者起点をテーマにヒット商品育成を支援。
日経BPヒット総合研究所

日経BPヒット総合研究所(http://hitsouken.nikkeibp.co.jp)では、雑誌『日経トレンディ』『日経ウーマン』『日経ヘルス』、オンラインメディア『日経トレンディネット』『日経ウーマンオンライン』を持つ日経BP社が、生活情報関連分野の取材執筆活動から得た知見をもとに、企業や自治体の事業活動をサポート。コンサルティングや受託調査、セミナーの開催、ウェブや紙媒体の発行などを手掛けている。

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