検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

NIKKEI Primeについて

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

/

学問が息づく街 スウェーデンの古都ウプサラ

東京大学准教授 五十嵐圭日子氏

詳しくはこちら

NIKKEI STYLE

私は大学院生のときに米ジョージア大学に留学し、スウェーデン人の教授に師事して研究を行っていた。彼はわざわざスウェーデン製の高級車、ボルボを輸入して乗っていたくらいに愛国心の強い人であったが、その先生からこんな話を聞いたことがあった。

「キヨ(私のこと)、『ヴェニスを見て死ね』という言葉を知っているか? もちろんベニス(ベネチア)は世界で最も美しい街の一つであることは認めるし、死ぬまでに1回くらいは行った方がよい。でも、私が育ったウプサラ(Uppsala)という街は、北欧で最も美しい街だから、お前が死ぬまでには必ず行くんだぞ」

その数年後、私は博士号を取得し、ポスドクとして海外で武者修行をしようと思ったときに選んだのはウプサラ大学であった。その先生が退官されてスウェーデンに戻っていたこともあったし、なにしろそこまで美しいのなら、ぜひともこの目で見たかったのである。武者修行期間も1年間と決まっていたので、四季を感じるのにはもってこいだと考えて、ウプサラ大学への留学を決めた。

北欧最古の大学

スウェーデンの首都ストックホルムから北西に40キロメートルほどのところにあるウプサラは、ウプサラ大学の存在なくしては語れない。東京と東京大学というような関係を考えると違和感があるかもしれないが、ウプサラの場合は街全体に大学のキャンパスがちりばめられており、教会があると思うとその隣は大学の建物、商店街があるかと思うとその先に大学の図書館が現れるような、街と大学が一体化したようなところなのである。東京大学が開校したのが1877年なのに対して、ウプサラ大学の創立はなんとそこから400年も前の1477年。学問を語るにはなくてはならない場所なのだ。

多くの著名人を出しており、中でも私にとって身近な科学の分野で有名なのは、植物分類学の祖でラテン語を使った「学名」の仕組みを作ったカール・フォン・リンネと、水が凍る温度をセ氏0度、水が沸騰する温度をセ氏100度とし、現在も広く使われている「セルシウス度(℃)」を考え出したアンデルス・セルシウスであろうか。他にもアンデルス・オングストロームは原子間の距離を表すのに重要な単位(100億分の1メートル)にその名を刻まれている(Å、「オングストローム」と読む)ことを考えると、ウプサラ大学の有名人は皆、ルール作りがうまかったと言えるかもしれない。

リンネの自宅だったところは今でも植物園として公開されており、リンネが採取した植物が今もそこの研究員によって育てられている。リンネ生誕300年となる2007年には、天皇陛下もここを訪れたそうで、陛下にお目にかかったウプサラ在住の友人達から自慢のメールが何通も届いた。

もちろん、そこで暮らす草花や虫たちは、300年前から育てられているとは思っていないだろう。人間だけが生物に歴史を見いだし、尊んでいるのであるが、300年の歴史を感じ取れる植物園というのも世界的にはあまり多くないため、ウプサラで必見と言えるポイントである。

北欧の覇者が眠る大聖堂

ウプサラ市街を通っている道は、一般的なヨーロッパの街と同じく入り組んでいて必ずしも分かりやすいものではない。それでも迷うことがめったに(ほぼ)ないのは、街の中心にどこからでも見つけられる「大聖堂」があるからだろう。北欧最大級で高さが120メートルもある塔を持つ大聖堂は、街中の至る所から見つけることができ、夏の白夜のシーズンで太陽から方角を推測できない時期でも迷うことはない。

私は17年前に初めてこのツインタワーがそびえ立っている姿を見たとき、あまりの大きさに圧倒されたのを覚えている。私たち夫婦がウプサラに住んでいるとき、冬至の頃に開かれる「ルチア祭」をこの教会に見に行ったことがある。昼でも薄暗くて寒い季節に白装束の女の子がろうそくを頭に付けて歌う姿があまりに神秘的で、それ以来「冬の北欧も悪くないですよ」と勧めることにしている。「この教会が見える範囲に来るとウプサラに戻ってきたぁと感じるよ」と研究者仲間に話すと、人種も宗教も違う私にそう感じてもらえるのは、大変光栄なことだと言われた。

この教会には聖エリクやグスタフ・バーサといった、北欧の覇者であった時代のスウェーデンの王が眠っており、上述のリンネも家族とともに眠っている。リンネの墓は教会内の床にあり、多くの人に踏まれているところに、日本と全く異なる文化を感じる。私は仕事がらヨーロッパの色々な街へ行くが、これほど荘厳な教会は見たことがない。

清らかな解剖台

大聖堂の向かいには、かつての大学講堂であった建物を使った歴史博物館「グスタビアヌム」がある。ウプサラの歴史(文化史や科学史)を中心とした常設展示だけでもかなり満足のいく内容だが、なんといっても見どころは最上階の解剖台であろう。

ドーム状になった最上階は非常に角度が急な階段教室になっており、その底には小さな台が置かれている。入り口前には、内臓や筋肉がむき出しになっているヒトの絵が掛けられ、いかにもおどろおどろしい場所へ入っていくような雰囲気なのだが、中に入ると一転してアカデミア特有の好奇心にあふれた部屋であることが分かる。

その昔、ここで死体が解剖されたという事実はあるのだが、なるべく多くの学生が解剖している者の手先まで細かく見ることができるようになっている部屋の構造は、残酷さというよりはむしろ学問をするための清らかな場のように感じられるところが、非常に不思議である。

スウェーデンには日本からの直行便がないため、最も近道でもフィンランド経由で行くことしかできない。さらにウプサラへ行くにはストックホルム空港からストックホルム市街へ出るのとは反対方向の電車に乗らなければならず、北欧を周遊するような感じでこの街を訪れることはまずないのではないだろうか。

しかしながら、私がついていたスウェーデン人の教授が言っていた「ウプサラを見て死ね」という言葉は、今の私には深く理解できる気がする。日本で有名な欧州諸国とは明らかに異なった文化・歴史を持つ北欧諸国において、古くからその歴史の中心を担ってきた都市に、北欧最古の大学が建てられたのは当然のことである。

ウプサラ大学憲章に「To think freely is great, but to think rightly is greater(自由に考えることは素晴らしいが、正しく考えることはもっと素晴らしい)」とある。何事にも曲げられない凜(りん)とした秩序がこの街には残されており、それこそがアカデミアの聖地と言えるウプサラなのである。北欧を訪れる方は、ぜひスウェーデン滞在を1日延ばして足を運んでみることをお勧めする。

五十嵐圭日子(いがらし・きよひこ)
 東京大学准教授、フィンランド技術研究センター(VTT)客員教授。東京大学農学部林産学科卒、同大大学院農学生命科学研究科生物材料科学専攻博士課程修了。2009年から同大学院農学生命科学研究科の准教授。バイオマスを分解する酵素の研究で、米科学誌「サイエンス」を含む100を超える論文の著者。2016年からVTTで客員教授も務める。

春割ですべての記事が読み放題
有料会員が2カ月無料

有料会員限定
キーワード登録であなたの
重要なニュースを
ハイライト
登録したキーワードに該当する記事が紙面ビューアー上で赤い線に囲まれて表示されている画面例
日経電子版 紙面ビューアー
詳しくはこちら

ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
春割で無料体験するログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
春割で無料体験するログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
春割で無料体験するログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
春割で無料体験するログイン

権限不足のため、フォローできません

ニュースレターを登録すると続きが読めます(無料)

ご登録いただいたメールアドレス宛てにニュースレターの配信と日経電子版のキャンペーン情報などをお送りします(登録後の配信解除も可能です)。これらメール配信の目的に限りメールアドレスを利用します。日経IDなどその他のサービスに自動で登録されることはありません。

ご登録ありがとうございました。

入力いただいたメールアドレスにメールを送付しました。メールのリンクをクリックすると記事全文をお読みいただけます。

登録できませんでした。

エラーが発生し、登録できませんでした。

登録できませんでした。

ニュースレターの登録に失敗しました。ご覧頂いている記事は、対象外になっています。

登録済みです。

入力いただきましたメールアドレスは既に登録済みとなっております。ニュースレターの配信をお待ち下さい。

_

_

_