女性を特別視する政策は、決して「不平等」ではない
「男女の『平等』とは何か?」
ハーバードに来てから1年半が経過した今、この問いについて考えることが多くなった。日本の友人と話していると、「女性は結婚や出産など、キャリアに影響を及ぼす出来事が多いから、男女はそもそも『平等』ではない」という意見や「男女の体力はそもそも『平等』ではないから、日本の長時間労働の環境で女性が『平等』に働くのは厳しい」という意見をよく聞く。
どの考えもその通りだと思う。
しかし、私自身がハーバードに来て一番変わったのは、男女の「機会の平等」という視点で物事を考えるようになったことだ。
留学前は、女性を特別視する政策はある意味「男女不平等」なのでは、と疑問を持っていた。例えば、女性管理職を増やす数値目標は、実力でなく性別を優先する「不平等」な政策だと思うこともあった。今はこれらの女性を特別視する政策も、そもそも社会に「不平等」が組み込まれているのだから、それらを是正し、「機会の平等」を与えるための手段として必要だろう、と思うようになった。
オバマ政権で国務省の政策企画本部長として活躍し、女性初のプリンストン大学ウッドロー・ウィルソン公共政策大学院の院長を務めた、アン・マリー・スローター氏が、国際女性デーに興味深い寄稿をした。スローター氏は、「女性は仕事と家庭を両立できない」という文章をアメリカの月刊誌に掲載し、女性のワークライフバランスの議論に大きな影響を及ぼしてきた人物でもある。
新たな寄稿は、「女性の発言を促す5つの方法――男性リーダーが活用する有効なテクニック」と題されている。
男性リーダーが手を打たないと、女性はそもそも発言ができないのだろうか、と題名を目にした時点で、違和感を覚える人も多いだろう。しかし、多くの研究で、女性は男性に比べてミーティングや公の場では意見があるにも関わらず発言をしないことや、女性の発言は男性に比べて重要に受け止められないことが明らかになっている。女性自身が気付いていない、自他の偏見があるのでこの問題は難しい。
スローター氏は以下の5つの方法が有効だと、男性のリーダーに勧める。
1.女性の功績を十分に評価し、認めよう
男女両方が参加しているミーティングで男性が、女性が挙げた意見を繰り返した際に「重要な意見ですね、○○さん(女性)も同様のことを言っていましたね」と言うだけで十分。女性の意見や発言は、男性が同様のことを言うまで評価されないことが多いと、気付くきっかけになる。
2.参加している女性全員に発言する機会を与えよう
女性だけでなく、内向的な男性は、あえて機会をつくらないと発言をしないことが多い。
3.女性が話しているときは、しっかり聞いているという姿勢を示そう
多くの男性は、女性が発言している間、聞くことに集中せず自分が発言するのを待っていることが多い。しっかりと聞く姿勢を示すだけで、女性はその態度の違いに気付き、さらにはより良い貢献ができるようになる。またミーティングなどで、男女の発言の長さを比較してみると、女性の発言時間があまりに短いことに驚くだろう。
4.女性の発言がさえぎられた場合、必ず元の発言に戻そう
「○○さんの意見を最後まで聞きましょう」と促すか、他の人の話が終わった後に、「○○さんの話が途中でしたね」と彼女の発言に話題を戻す。これは男女関係なく気を配ることで、多くの人が発言する環境をつくるきっかけになる。
5.男性に事務作業を任せよう
ミーティングの議事録や設定など細かい事務作業は女性に割り振られることが多い。男性にもこのような作業を担当してもらう。
これら5つのアドバイスを聞くと、なぜ女性にだけここまで気を遣うのかと思う人もいるかもしれない。
しかし、これらの根底にあるのは、社会に組み込まれた男女の不平等を是正するために、「機会の平等」をつくらなければいけないという考えだ。
この寄稿はアメリカの読者を想定して書かれているため、日本では当てはまらない点もあるかもしれないが、職場での「機会の平等」を改めて考える、重要なアドバイスだと感じた。
テレビ局で報道記者・ディレクターとして4年働く。東日本大震災の取材やフィリピンでの台風被災地のボランティアを通して、災害復旧に興味を持ち、退職を決断。フルブライト奨学生として、ハーバード・ケネディ・スクールで学んでいる。
[nikkei WOMAN Online 2017年3月21日付記事を再構成]
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