中国経済 強みは血気盛んなベンチャー(加藤出)東短リサーチ社長チーフエコノミスト

この事例は今の中国のダイナミズムを象徴する事例といえる。ビジネスチャンスがあると思えば、その市場に(後先考えず)すさまじいスピードで新規参入する。日本では多くの企業が監督官庁の顔色をうかがいつつ、様々なリスクを検討して石橋をたたいてからでないと新規事業を始めない傾向があるが、極めて大きな違いがある。

また、中国のIT(情報技術)企業は規制上はグレー(ときには黒に近いグレー)に見えるビジネスであってもどんどん攻めていく。政府が介入してくる前に消費者から支持を得ることに成功すれば、それを根拠にロビー活動を行い、政府に逆に規則を変更させるケースがこれまで度々見られた。

極めて魅力的な巨大な中間層

そういったスピード感および大胆さの背景には、ベンチャービジネスにとって極めて魅力的な巨大な中間層の購買力がある。中国の消費のパイは(以前よりはペースが落ちてきたとはいえ)着実に拡大中である。スマホアプリでひとつヒットを飛ばせば、日本とは桁違いの大もうけができる。

それゆえ、「ゴールドラッシュ」のような興奮がアプリ市場に見られる。知人の中国人男性に聞いたが、IT産業と直接的な関係がない人たちであっても集まって酒を飲めば、「こういうアプリをつくったらもうかるんじゃないか?」といった話題で宴会が盛り上がるという。

日本と中国、どちらが社会主義経済なのか分からなくなってくるようなアニマルスピリッツだが、日本よりも普及がはるかに速いアプリサービスが中国では多々見られる。例えば、アプリで様々な飲食店の料理を出前で届けてもらうサービス(フードデリバリーサービス)が人々の日常生活に欠かせないものになっている。昼時は、青いバイクの配達員がスマホで注文をチェックしている姿が街のあちこちで見られる。

アリペイや微信支付(ウィーチャットペイメント)といったモバイル決済の普及により中国ではキャッシュレス化も世界有数の速度で進んでいる。

上海の人民広場に4~5時間待ちの行列ができる超人気のパン屋がある(中間層の拡大とともにグルメブームが起きており、最近は行列ができる人気店が数多くある)。先日は同店周辺で興味深い光景が見られた。複数の中年男性がビニール袋をぶら下げてうろうろ歩いている。彼らは行列に並んでパンを購入し、プレミアムを乗せて路上で販売してもうけているのだった。

そこに中年の女性が近づいてきて、男性からパンを購入する様子が見られた。彼女は現金では支払わず、スマホを取り出して、慣れた手つきで男性とさっとQRコードのやり取りをしていた。こういった場面すら中国では今は当たり前のようにモバイル決済なのである。

前述の過剰債務問題のソフトランディングのキーとなる「ニューチャイナ」の拡大はまだまだ続くことが予想される。中国政府の改革路線が権力闘争で頓挫する、または米トランプ政権と全面的に対立するといった状況が生じるリスクシナリオが台頭しない限りは、中国発の経済不安が起きる可能性は当面低いとみられる。これは世界の投資家にとっても好ましいことだろう。

レンタル自転車市場のようにやり過ぎてしまう危うさもある中国経済だが、ダイナミズム、アニマルスピリッツは日本にとっても刺激的な面が多々ある。

加藤出
1965年生まれ。88年横浜国立大学経済学部卒、同年4月東京短資入社。短期市場のブローカーとエコノミストを兼務後、2002年2月に東短リサーチ取締役、13年2月より現職。マーケットの現場の視点から日銀、FRB、ECB、中国人民銀行などの金融政策を分析する。著書に「日銀、『出口』なし!」(朝日新聞出版、14年)など。
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