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「今に集中、ポストはついてくる」村木厚子さん 前厚生労働事務次官(折れないキャリア)

2017/4/1

 「今やるべきことに集中する」。約40年の仕事人生を支えてきたポリシーだ。「仕事と子育ての綱渡りの中で、今考えても仕方ないことは横に置き、できることだけを考える習慣が身についた」と笑う。

むらき・あつこ 高知大学卒業後、旧労働省入省。4月から津田塾大学客員教授に就任予定。61歳

 ずっと仕事を続けたいと公務員を志し、1978年に旧労働省に入省。「官僚の世界がどういうものかほとんど知らずに飛び込んだ」。待っていたのは男性中心の組織風土。上司に指示されたお茶くみをこなしながら、必死に働いた。

 労働省の同期と結婚し、29歳で長女を出産。31歳で島根労働基準局の課長となり、子連れで赴任した。東京に戻った後、1カ月のスイス出張に行く際には、子どもに「合宿」という言葉を教え、保育ママの家に預けた。どんな困難も「なんとかなる」と思えたのは、少し先を行く先輩がいたから。「子連れで転勤をこなしながら『大丈夫よ』と皆が言う。説得力があった」

 「平凡に、でも最後まで勤め続けること」を目指していた50代、予期せぬ出来事が起こる。09年の郵便不正事件で身に覚えのない容疑で逮捕・起訴された。「なぜ逮捕されたのか」。拘置所での孤独な堂々巡りから脱することができたのは、仕事と子育ての両立で得た思考習慣があったから。「そんなことを考えても何も変わらない」と気づき、気持ちを切り替えた。「今やるべきは体調を崩さない、気持ちが折れないようにする、裁判の準備をしっかりする、の3つだけだ」。10年9月に無罪が確定した。

 職場復帰後は「与えられた仕事を一生懸命やるだけ」と考えていた。最後に与えられた仕事が、厚生労働省の事務次官。事務方トップのポストに女性が就くのは16年ぶりだった。人事などを手掛ける中で「ポストはついてくるもので、目指すものではない」と改めて思った。「人事はタイミングや運もある。自分の仕事を丁寧に、一生懸命やるしかない」。初心に帰った。

 15年10月に退官。「まだ知らない産と学の世界を見たい」との思いが芽生えていた。昨年6月、伊藤忠商事の社外取締役に就任。この4月からは、津田塾大学に新設される総合政策学科の客員教授として教壇に立つ。「政策課題の解決に従事している人たちと大学をつなげる役割を果たせたら」。仕事への情熱は、尽きることがない。

〔日本経済新聞朝刊2017年3月27日付〕

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