大事なのは「持続的」な成長だ(澤上篤人)さわかみ投信会長

日経マネー

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澤上篤人氏(撮影:大沼正彦)

澤上篤人(以下、澤):最近とみに、企業のガバナンスを問う声や、機関投資家の運用者にスチュワードシップ・コード(機関投資家指針)を順守させようといった声が高まっている。そこへ、ESG(環境、社会、ガバナンス)という表現も、しばしば目にするようになってきた。

今月は、そのあたりを草刈と話し合ってみよう。

今さら何を騒ぐのか

澤:われわれ長期投資家からすると、そういった横文字の流行など、「何を今さら」の一言である。企業が何のために社会に存在するのか、機関投資家の運用でも企業に社会性を厳しく問うのは、当たり前の当たり前である。

草刈貴弘(以下、草):会長が言うように、本当にはやりものといった感が強いですよね。数年たてばどんな名前に変わっているか。4、5年前まではSRI(社会的責任投資)がもてはやされていた気がしますが、今はESG。もちろん違いはありますが、どちらも理屈としては投資家の倫理観に基づいているわけです。長期投資の考え方からは当然としか言いようがないですよね。

澤:ところが世界的に見ても、この十数年というもの、企業は目先の利益の最大化を唯一最大の目標とするようになってしまった。機関投資家も毎年の運用成績を意識するあまり、企業に短期の業績向上を求めてやまない。

草:特に時価会計や四半期決算などが導入されたことの影響が大きかったのでしょうか。それぞれ理由があって改善するために採用されたわけですが、結果的には違う場所でゆがみを生んでしまったのかもしれませんね。

澤:どちらも、しゃにむに短期的な利益や運用数字の向上を追い掛けるだけ。お金を分捕ったら、後は野となれ山となれで、社会や環境への配慮などはなおざりもいいところ。

そういった短期志向が行き過ぎた。さすがに、このままではマズイということで、企業統治に外部や社会からの監視の目を入れることになった。

草:しかし最近の世界的な政治の潮流を見ると、社会からの監視の目を期待してはいけないのかもしれません。ポピュリズムと排斥が入り交じった世界になっている。昨年米国への出張で驚いた表現は「今だけ、カネだけ、自分だけ」。時間軸が短期なだけでなく、視野も自分の足元しか見えていない。いや、見ようとしていない。倫理観というか、道徳教育の大切さを改めて感じました。

澤:また、機関投資家の運用でも、ショートターミズム問題が提起されている。四半期決算の業績を見て、ドッタンバッタンの売買を繰り返す。それも、大量の資金を瞬時に動かせる先物取引を大々的に活用するから、値動きはやたらと荒っぽくなる。

草:市場経済における価格形成機能を使うと、どうしても財の総額は売買による時価で決まってしまう。つまり短期的には金融取引の影響がとても大きくなってしまうわけです。

先物やデリバティブ(金融派生商品)の発達による価格形成が実需に影響を与えるようになった現在では、資金量がモノをいう。価格差を利益の源泉にしている人には激しい動きは良いかもしれないが、実体経済の方はそれとは時間軸も規模も違う。だから、振り回されてしまうのです。それによって実体経済が傷んでしまえば元も子もないはずです。

澤:これらのどれも、われわれ長期投資家には無縁の出来事である。

長期投資とは文字通り、企業に長期の持続的成長を期待することである。そのためにも、目先の利益追求で企業の存在基盤そのものを崩していくような株主要求など、あり得ないこと。

むしろ、いかにして付加価値を高め続けていくかを企業に求める。やたらと株主利益を最大化させろとか、ROE(自己資本利益率)をいくらに高めろなどと、目先の数字向上を要求するのではない。

草:もちろん、投資する企業には長期的な成長に向けて厳しい意見を言うこともあります。けれども、そこには企業価値の向上があってこそ株主価値の向上があるという信念があるから。

単純に株価を上げるためだけに短期的に数字の見栄えを良くしてもツケが後に回るだけ。ROEやROA(総資産利益率)、ROIC(投下資本利益率)はあくまで結果。数値目標を掲げるのはよいが、それはあくまで通過点でゴールではないはず。やはり、企業が持続的に成長するために行動すべきだと思います。

さわかみファンドCIOの草刈貴弘氏(左)

企業は誰のものか

澤:よく企業は株主のものといわれる。形態としては、その通り。もともとの出資があってこそ、企業はビジネス活動を展開できるのだから。事業拡大に当たっても、増資でもって新たに株主資本を調達することで、より大きな発展を期待できるのだし。

草:この手の議論はよくありますね。出資者がいなければ会社が生まれなかった。だから今ビジネスを展開できているのは出資者である株主のおかげ。株主はリスクを取ったのだから、それ相応のリターンを求めるのは当然だ、という意見です。

澤:その意味では、企業経営が株主利益の最大化を第一とするのも当然のこと。

ただし、アクティビスト(物言う株主)たちや短期投資家のように、1年から2年、せいぜい3年ぐらいの間に投下資金を回収しようとする株主要求には要注意である。それは企業の持続的成長の芽を摘むどころか、そんな要求に振り回されていたら、企業の存在基盤さえ崩しかねないのだから。

草:そもそもスタートアップ時からの株主ならまだしも、上場企業となれば株主はコロコロ代わっているわけです。つまり後から入ってきた人も同じなのかというと、権利という意味では同じですが気持ちが変わりますよね、企業から見たら。

アクティビストたちは、自分のリターンを短期的に最大化することが目的。その企業が将来どうなろうと関係ないわけです。企業価値の向上でなく、株主価値の向上が重要なのですから、彼らが去った後に困るのは残された従業員や下請けなどの、いわゆる一般の生活者ということになるわけです。

澤:どう見ても、おかしなこと。やはり、広く一般大衆に長期投資の良さと大切さを実感してもらうことだね。機関投資家といったところで、元は一般個人の資金なんだから。われわれがそれをお預かりするようになれば、このゆがんだ状況を一気に正してしまえる。

澤上篤人
1973年ジュネーブ大学付属国際問題研究所国際経済学修士課程履修。ピクテ・ジャパン代表取締役を務めた後、96年あえてサラリーマン世帯を顧客対象とする、さわかみ投資顧問(現さわかみ投信)を設立。

草刈貴弘
2008年入社。ファンドマネジャーを経て13年から最高投資責任者(CIO)。

[日経マネー2017年5月号の記事を再構成]

日経マネー 2017年 6月号

著者 : 日経マネー編集部
出版 : 日経BP社
価格 : 730円 (税込み)


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