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国内で1日に刊行される新刊書籍は約300冊にのぼる。書籍の洪水の中で、「読む価値がある本」は何か。書籍づくりの第一線に立つ日本経済新聞出版社の若手編集者が、同世代の20代リーダーに今読んでほしい自社刊行本の「イチオシ」を紹介するコラム「若手リーダーに贈る教科書」。今回の書籍は『弁護士は見た! 職場の労働トラブル』。「働き方改革」に注目が集まる中、知らないと損をしがちな労働法を、本書では漫画で解説する。年俸制、残業、ハラスメントなどの問題点を1冊にまとめた。

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藤池尚恵氏(イラスト:カワハラユキコ氏)

藤池尚恵氏(イラスト:カワハラユキコ氏)

著者の藤池尚恵さんは、和田倉門法律事務所に所属する弁護士です。2001年一橋大学法学部を卒業した後、06年に学習院大学法科大学院を修了。08年に弁護士登録しました。労働法問題や英文契約の作成など企業法務全般を取り扱っています。

本書で特別協力をお願いした沢田由美子さんは、沢田社会保険労務士事務所を主宰する社会保険労務士です。同志社大学法学部を卒業後、吉本興業に入社。1992年に退社し、98年に社労士として開業しました。特定社労士資格を持ち、企業の労働保険・社会保険手続き、労務問題などに携わっています。

上司指示の「机の周りの整理」は業務時間

もうすぐ4月。年度も変わり、新しい環境に飛び込む人も多いのではないでしょうか。「労働法」というと難しく聞こえがちですが、「実際は労働者が自分の身を守るための大切な法律だ」と著者は指摘します。著者が普段、相談を受ける中でも「こんな基本的なことも知られていないんだ」と驚くことが多くあるようです。

中でも最近話題の「働き方改革」で、労働時間に関しては厳しい目が向けられがちです。労働基準法は労働時間について「1日8時間以内、1週間で40時間以内」と定めています。そして、この法定労働時間を超える労働をさせる場合は、「36(サブロク)協定」と呼ばれる協定書を労働基準監督署に提出するなどの条件を満たし、会社は残業代を支払う必要があります。

この「労働時間」の定義については、裁判所では「労働者が使用者の指揮命令下におかれていると客観的に評価できる時間」とされています。

 上司から「8時30分から全力で勤務できるように、必ず8時には職場にいて、机の周りや資料の整理など準備をしておけ」という命令があり、それを守って8時に会社に出てきたのであれば、始業時間は8時からカウントされることになります。
 他方で、労働者には、労務を誠実に提供する義務がありますので、命じられた業務を行わず、居眠りばかりしていたのでは、「労働時間」にはなりません。
(働くときに知っておきたい決まりごと 残業代と労働時間 55ページ)

「年俸制だから残業代はない」は危険

このように、「準備」の時間も労働時間に含まれるのです。例えば、「1時間の休憩時間」という規定があったとしても、「デスクでご飯を食べながら、電話番してね」と上司に言われ、ずっと座っていなければならなかった場合も、「休憩時間も労働をしていた」と考えることができます。8時間を超える業務を行った場合は、残業代が発生します。

「残業代についても勘違いをしている人が多い」と著者は述べます。特に「年俸制だから残業代が出ない」はよくある誤解の1つです。

 年俸制は、賃金の額を年単位で決定するものにすぎず、年俸制を採用したからといって、時間外労働の割増賃金の支払いを免れさせる効果はありません。
 ただし、管理監督者に該当する場合や、就業規則などが適切に整備されることにより裁量労働制の要件を満たしている場合は、残業代が発生しないことがあります。
(働くときに知っておきたい決まりごと 残業代と労働時間 59ページ)

ただし、労働基準法は「管理監督者」について、時間外労働や休日労働に対する割増賃金を支払う必要がないと定めています。労働法上の「管理監督者」とは、「労働条件の決定、その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者」とされており、その人の権限や待遇で判断を行います。権限や裁量のない「名ばかり管理職」が話題になりますが、労働法の裏をかいて労働者から搾取する企業もあるので、身を守るためには基本的なルールを知っておく必要があります。

賃金や労働時間はある程度法律で定められていますが、判断が難しいのは「ハラスメント」です。

歓送迎会で気を付けたい「セクハラ」行為

 男女雇用機会均等法(均等法)は、セクハラを、「職場において、労働者の意に反する『性的な言動』が行われ、労働者がそれを拒否するなどの対応を取ったことを理由に解雇、降格、減給などの不利益を受けることや、『性的な言動』が行われることで職場の環境が不快なものとなったため、労働者の能力の発揮に悪影響が生じること」と定義しています。
(泣き寝入りしていませんか? 実はそれ、「違法」です セクハラ 90ページ)

実は、業務の延長と考えられるような宴会での会話であっても、職場でのセクハラとなりうるのです。セクハラと判断する際には、行為の内容だけではなく、その程度、回数、加害者と被害者との関係などによってセクハラになるのかならないのかを判断することになります。もちろん、被害者は女性だけではありません。同性間や、女性から男性に対してのセクハラも問題になります。裁判になった場合の損害賠償は「慰謝料」が典型的です。

人事異動などで歓送迎会が続くシーズン。「知らなかった」と後悔する前に、最低限知っておきたい知識が本書には詰まっています。新年度を前に、ぜひ一度読んでおきたい一冊です。

(雨宮百子)

◆編集者からひとこと 長沢香絵

「よし、社名はグレー物産でいきましょう」「課長は、セクハラキャラにして……」「いるいる、こんな部長!(笑)」――。キュートでタフでクレバーな弁護士の藤池先生と、爆発的なイマジネーションの持ち主である社労士の沢田先生。クリーンな情熱を持った2人との打ち合わせは、ハイテンションで楽しかった!

「弱い立場になりがちな労働者が、職場で自分の身を守れるような知識をやさしく提供する本がつくりたい」。そんなお2人の思いに応えたカワハラユキコさんのコミックのお力も大きく、会社員にとっていちばん身近な労働法の入門書ができたと思っています。

労働問題が耳目を集める昨今ですが、働くわたしたちはその断片的な情報しか耳に入らず、基礎的な法律や制度の知識は持たずにいるもの。いざトラブルにみまわれたとき、自分の立場を正しく守るためにも、最初の1冊として本書を手に取ってくれたらうれしい限りです。

「若手リーダーに贈る教科書」は原則隔週土曜日に掲載します。

弁護士は見た! 職場の労働トラブル

著者 : 藤池 尚恵
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 1,458円 (税込み)

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