男性が女性より短命なのには、深いワケがあった東京大学大学院・近藤尚己准教授に聞く「ストレス社会への処方箋」(2)

日経Gooday

企業や労働政策の担当者には、社員が退職前から様々な活動に参加して、仕事と家庭以外のコミュニティーを持てるように、働き方の制度や職場のあり方を検討してほしいと思います。

外にコミュニティーを持つと、独りでも自立を維持しやすい

――その点、女性の場合は、もともと様々なコミュニティーに入ることを得意としているというお話がありましたね。

そうです。女性はもともとコミュニティーをたくさん持っています。日本の場合、女性は家事や子育てだけでなく、地域の自治会に参加したり、子どもの学校を通じた繋がりがあったり、コミュニティーに属する機会がたくさんありますからね。だから夫が亡くなっても、自分の居場所や役割を失うことは少ないのではないでしょうか。

一方、仕事一筋だった男性が奥さんに先立たれてしまうと、退職後は家庭の他にコミュニティーを持っていませんから、慰めてくれる人がいません。独りで悲しく家で過ごす毎日になってしまうのかなと思います。

――認知症の原因にもなりそうです。

はい。周囲に慰めてくれるような人がいないことが、その後の認知症の発症と関係することを示したデータは日本からも報告されています[注2]

また、これはまだ論文として発表されていませんが、先ほどの死別の話に限らず、パートナーがいない人の方が、高齢者では自立生活を営む力が低下するのが速いことが分かっています。ところが、地域活動への参加の度合い別に見てみると、パートナーがいなくても、地域の活動にしっかり参加している人は自立生活を営む力の低下速度がパートナーのいる人並みに遅いことが8年間の追跡で分かりました。パートナーがいなくても、地域の自治会や趣味の会に入って、外にコミュニティーを持っていれば元気に生活できるということを示しているのだと思います。

[注2]竹田徳則ほか 認知症を伴う要介護認定発生のリスクスコアの開発─5年間のAGESコホート研究 日本認知症予防学会誌 2016;4:25-35.

家庭以外に自分の居場所や役割を持っていれば、老後にパートナーがいなくても自立した生活を続けやすくなります(写真 秋元忍)

――繋がりは、とても大事なのですね。

極端なたとえですが、無人島で何年も独りで生活することを想像してください。どんなに食べ物が豊かで、生きるには困らないとしても、元気でいられるでしょうか。

――そう考えると、モノがいくらあっても、元気に生きていく自信がありません。

孤独は人間にとって、とてもつらいことのようです。余談ですが、宇宙開発との関係で、こんな話があります。例えば火星に移住するケースを想定した時、最大の課題は「孤独からどう守るか」ということだそうです。長期間地球に帰れない状況を想定して、閉鎖された小屋の中で何カ月間も密閉生活をするという実験が実際に行われているそうですが、実験後に被験者の一人が言った「一番の苦痛は、家族と何カ月も会えないことだった」という言葉が耳に残っています。

貧困になると、女性と男性、どちらが寝たきりになりやすい?

――興味深いお話です。コミュニティーが寿命に大きな影響を与えるということや、そこに男女差があるということも。

健康において男女差があることについて、僕らがやった研究はほかにもあります。これも高齢者を対象とした研究ですが、男性は女性より貧困に弱いかもしれない、という結果でした。

可処分所得が全人口の中央値の半分未満のことを「相対的貧困」と定義することがありますが、それに該当する人たちを追跡調査しました。すると、男性は貧困になると、寝たきりになりやすくなる傾向が見られたのです。

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