日経エンタテインメント!

エンジニア役のジョン・ジョン・ブリオネスは「客席からでは見えないところもアップで見られるから、ストーリーがより身近に感じられるよ。まだ『ミス・サイゴン』を見たことがない人は好きになるし、舞台も見たくなると思うよ」と語っている。

エンジニア役のジョン・ジョン・ブリオネス

見どころの2つ目。アジア人キャストが多く、アメリカ兵も白人と黒人が交じり、いろんな国や地域の出身の俳優で構成されるのが本作の特徴だが、それをリアルに体感できることだ。日本でも作品の人気は高いが、日本人キャストによる舞台ではなかなか人種の多様性から生まれるダイナミズムが伝わりにくい。その点、映画版では、「異なる世界に生きる人たちの葛藤や共存」といった作品本来のテーマがより鮮明に伝わってくる。

観客と一緒に参加している気分に

見どころの3つ目が、<25周年記念スペシャル・フィナーレ>だ。映画版は休憩2回をはさむ3部構成で、本編の1幕、2幕の後にフィナーレを収めている。当日は、特別ゲストとしてジョナサン・プライス(エンジニア役)、レア・サロンガ(キム役)、サイモン・ボウマン(クリス役)をはじめ、オリジナルキャストが総出演。新旧キャストやプロデューサー、音楽家も登場して、トークや歌唱を披露した。本編ではクローズアップを多用して俳優の表情や動きを臨場感たっぷりに見せたのに対して、フィナーレではコンサート映像のようにステージ全体を見せる引いた構図も多く、盛り上がる客席の様子も挿入される。劇場の観客と一緒に、25周年を祝うセレモニーに参加している気分になれる。

初代キム役のレア・サロンガは、当日をこう振り返る。「マジカルでファンタスティックな1日だったわ。この日を祝うために、多くの人がいろいろな場所からやってきた。私はマニラから、アメリカやヨーロッパのほかの地域からやってきたひともいる。この1夜のためだけに。高校や大学の同窓会みたいなもので、とても楽しかったわ」

おそらく出演者の全員が、そんな気分だったろう。それが画面から伝わってくる、楽しく感動的なフィナーレだった。

キム役のエバ・ノブルザダ

初演から25年を経て、今も世界中で上演が繰り返されている『ミス・サイゴン』。この3月からは、ブロードウェイでリバイバル版の上演が始まった。今回映画になったロンドン公演でキムを演じたエバ・ノブルザダとエンジニア役のジョン・ジョン・ブリオネスが、同じ役で出演しているのも話題だ。

ジョン・ジョン・ブリオネスは、本作が長く愛されている理由をこう語る。「まず愛と困難に立ち向かう、普遍的な物語ということ。そしてベトナム戦争以来、世界は大きく変わっているにもかかわらず、今も世界中で戦争は起きていて、同じことが繰り返されている。だから、こういう作品が大事なんだ。いま一度、光をあてるべきなのかもしれないね」

フィナーレで新旧キャストが並び立つ光景を見ていると、「受け継いでいくこと」の大事さや素晴らしさをひしひしと感じた。この先も長く、再演を重ねていってほしい名作である。

(日経エンタテインメント! 小川仁志)