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遺言で相続トラブル避けるには 遺留分に配慮を

2017/3/25

 遺産分けを巡って遺族同士が争う「争族」が絶えない。それを避けるには遺産の配分を具体的に書き残す遺言が大切になる。政府は遺言の作成方法を含め、手続きを円滑にする法改定の作業を進めるが、相続は難題だらけ。早めに準備するうえでの注意点をまとめた。

 「父が遺言を書いてくれるそうで、ホッとしている」。千葉県に住む会社員aさん(55)は最近、父親から遺言作成の話を聞いた。87歳の父は従来、遺言に消極的だった。それが、昨年末に病気で死線をさまよって以来、家族が仲良く暮らせるようできることをしたいと思い直したという。

 父は、病気がちの自分を長年世話してきた長男aさんに自宅を相続させ、高齢の妻の面倒もみてもらいたいと考えている。次男と長女には金融資産を分ける。近く遺言を書く準備にとりかかるそうだ。

 法律上、遺言がなかった場合、遺産分けは遺族(相続人)間の話し合い(遺産分割協議)に委ねられる。この協議はこじれる例が多い。争いになって家庭裁判所に持ち込まれた件数は2015年に1万5000件(図A)。前年は下回ったが、10年前に比べると約25%も増えている。

■「自筆」は少数派

 遺産トラブルを防ぐには遺言をきちんと書いておくことが大事になる。遺言があれば、その内容が相続において優先されるためだ。

 遺言を実際に書く人はまだ少数派だ。遺言には、本人が全文を自筆で書く「自筆証書遺言」と、元裁判官ら国に任命された公証人に話をして文章にしてもらう「公正証書遺言」がある。

 自筆証書は開封時に家裁で検認という手続きが必要で、その数は15年に約1万7000件。公正証書の作成は同11万8000件(図B)弱で、両者を合わせても、年間死亡者数の1割ほどにとどまる。

 「遺言を書く気になったとしても、何をどう書いていいのか戸惑う人が多い」(司法書士の船橋幹男氏)。字が思うように書けない高齢者もいる。そんな場合は公証人に相談するのが一案だろう。

 遺言は、書き方を誤れば、それ自体、争いのタネになりかねない。ではどんな点に注意すればいいか。

 まず「誰に何をどれだけ相続させるのかを、はっきりさせること」。元千葉家庭裁判所長で銀座公証役場(東京・中央)に勤める寺尾洋公証人は強調する。

 財産を均等に分けるのは、現実にはそうたやすいことではない。例えば自宅を長男に相続させるとしても、他の兄弟姉妹らが不満を持たぬように、十分気にかける必要がある。

 覚えておきたいのが民法の「遺留分」という考え方だ。最低限の権利として遺族が相続すべき割合を定めており法定相続分の2分の1がほとんど(図C)。

 遺言でこの権利を無視して偏った遺産の配分にすると、自分の亡き後、深刻なもめ事になりかねない。権利を侵害された遺族が、その分を渡すよう他の遺族に求めることがあるからだ。遺留分の減殺請求という。

 広島家庭裁判所で所長を務めた北野俊光弁護士は「遺産トラブルはさまざまあるが、最も厄介なのが遺留分減殺請求にかかわる争い」と指摘する。とりわけ目立つのが自宅の不動産を巡る争いだ。

 例えば長男が一人で自宅の不動産を受け取り、他の相続人はほとんど何も配分がないという場合。不満を持って遺留分減殺請求権を主張すれば、「自宅は相続人みんなによる共有という扱いになる」(北野氏)。

 そうなると、自宅を売りたくなっても、本人の一存では売れない。遺留分に相当する額を渡して納得してもらえばいいが、おカネがなければそれもできない。共有の状態が続き、裁判所で争うことになる。

■贈与など加味

 このほか遺言で遺産分けを考えるときに考慮したいのが生前贈与。子供に多額の贈与をしていた場合、その分は相続にあたって差し引いて考える必要がある。特別受益という考え方だ。

 献身的に介護してくれている、家業を大いに手伝ってくれている、といった家族に配慮するのも大事。財産の維持や増加に特別に貢献すると、寄与分といわれ、相続にあたり加味するのがより公平だといえる。

 遺言では不動産や金融資産などの主要な財産だけでなく、価値のありそうな持ち物はすべて財産に含めて考えることも重要。後で発見されてもめるのを避けるためだ。「その他一切の財産を〇〇に相続させる」などと書いておこう。

 遺言に書かれたとおり手続きをする「遺言執行者」も忘れずに指定しておく。預貯金の解約など相続手続きは遺言執行者がいれば円滑に進む。

 政府は現在、民法の相続規定(相続法)を改正する作業を進めており、来年の国会への提出を目指す。項目は多岐にわたり、遺言にからむ改正も検討中だ。

 例えば自筆証書遺言では財産目録をワープロで記すことを可能とし、遺留分減殺請求では直ちに遺産を共有状態にせず、金銭解決を原則とすることも検討中。一定の効果が見込めるが、実現は数年後とみられる。相続でもめないために早めに遺言の準備にとりかかりたい。

(M&I編集長 後藤直久)

[日本経済新聞朝刊2017年3月18日付]

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