「ゴースト・イン・ザ・シェル」 監督ら来日記者会見
「攻殻機動隊」がハリウッドで実写映画に
「攻殻機動隊」は生身の人間と「義体」と呼ばれるサイボーグとの境界があいまいになった近未来を舞台に、サイバーテロや組織犯罪と闘う捜査機関、公安9課の活躍を描く。今回の映画では9課のリーダーであるヒロイン、少佐(ヨハンソン)の過去がストーリーの軸になる。悲惨な事故から助け出され、科学者オウレイ博士(ビノシュ)の手によって脳以外はすべて義体に入れ替わった少佐。9課の上司、荒巻(ビートたけし)の指揮下、相棒バトー(アスベック)らとサイバーテロの捜査を進めるうちに、過去の自分の記憶が操作されていたことに気づく。
主演のヨハンソンは「最初はどう実写にしていくのかが分からず、おじけづいた」。「ただ資料を読み、監督と話すうちにこの世界観が頭から離れなくなり、未知の世界に踏み出した。映画の中でキャラクターが成長するのと同じように私も人として俳優として成長することができた」と振り返った。
久々にハリウッド映画に俳優として出演したビートたけしは「実写版は原作コミックやアニメのファンから文句を言われがちだが、今回は実写版で最初に成功した例ではないか。唯一の失敗は(自分が演じた)荒巻じゃないかという噂もあるが、それぐらい見事な作品と自分は思っている」と自信をのぞかせた。
さらに「自分が監督するときは多くても3カメ(3台のカメラ)しか使わないが、ハリウッドは5カメ、6カメもある。歩くシーンだけでも『グッド(いいですね)』と言われた後に『ワンモア(もう一度)』と言われ、さらに『ナイス、ワンモア』『ベリーグッド、ワンモア』……。これはお金がかかるとつくづく思った」と撮影現場で感じた日米の違いについても語った。
フランス出身のビノシュ、デンマーク出身のアスベックも、原作の自国での人気ぶりに触れた。「脚本を渡されたとき、まるで暗号書を解読するように全く理解できなかった」と打ち明けたビノシュ。「でも映画関係の仕事をしている息子が原作ファンで、素晴らしい作品なのでぜひ出演すべきだと後押ししてくれた。挑戦しがいのある役だった」
「押井監督のアニメ映画を14歳の時に見てファンになった」というアスベックは「バトーは愛されているキャラクターでファンの期待は裏切れないと思った。原作漫画を読むとバトーはビールとピザが大好きとあり、ここからキャラクター作りをした」と明かした。
全身がサイボーグに入れ替わったとき、人間の魂はどこに宿るのか。ネットを通じて、膨大な知識や記憶が他者と共有され、交換されうる世界で、人が自分のものと信じる記憶は果たして本当に自分のものなのか。89年に発表された士郎正宗の原作漫画と、押井監督のアニメ映画は、高度なサイバー社会とそこに生きる人間の葛藤を予見する内容で、世界の映画監督やクリエーターに衝撃を与えた。後に続いた神山健治監督のテレビシリーズも根強い人気がある。
学生時代に見て以来、実写化の監督を望んできたというサンダース監督は「自分は誰なのか、何をもって人間といえるのか、というアイデンティティーの問題を描いた映画。原作漫画が発表された当時は、インターネットも携帯電話も一般的ではなかったが、テクノロジーが発達した今、より今日的なテーマになった」と語った。
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原作は89年に発表された士郎正宗の漫画「攻殻機動隊」。以来、アニメーション映画やテレビアニメシリーズのほか、小説やゲームにも広がった。世界に熱狂的なファンを生んだのは押井守監督のアニメーション映画「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」(95年)がきっかけだ。人間を操る天才ハッカーと、全身義体の草薙素子(少佐)をリーダーとする公安9課との攻防を描き、アイデンティティーをめぐる深遠なテーマを斬新な映像で表現した。米ビルボード誌のビデオ週間販売で1位となり、「マトリックス」(99年)のウォシャウスキー姉妹ら多くのクリエーターにも影響を与えた。押井監督は続編の「イノセンス」(2004年)も発表している。08年にスティーブン・スピルバーグ監督と米ドリームワークスが「攻殻機動隊」の実写化権を獲得し、今回のハリウッド実写版が実現した。
(文化部 関原のり子)
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