客席が360度回転 新機軸の劇場オープン、相次ぐワケ
この春、都内では劇場オープンや劇場運営への新規参入が相次いだ。3月30日、豊洲にはTBSが運営を手がける「IHI ステージアラウンド東京」がオープン。約1300人を収容する円形の客席と、それを取り囲む4つの舞台から成る劇場で、客席スペースが客を乗せたまま360度回転する。観客が正面を見ていると、舞台のほうがスライドして次の場面に転換していくかのような、これまでにない体験が味わえる。
同じく3月には、芸能事務所レプロエンタテインメントが、客席数100程度の小劇場「浅草九劇(あさくさきゅうげき)」を開業した。こちらは、ホテルや飲食店が併設した"ホテル付き劇場"。「宿泊者が気軽に演劇を楽しみ、観劇後には1階のカフェ&バーで感想を語り合う。そんな交流の場所を目指した」(劇場責任者)。
声優やアニメクリエーターといった育成を手がける代々木アニメーション学院も、劇場ビジネスへと参入。92年の開場以来、数多くの名作が上演されてきた「天王洲 銀河劇場」をホリプロのグループ会社から取得。4月1日から運営を手がけている。
訪日客の獲得にも期待
こうした新劇場ラッシュの背景にあるのが、会場不足問題だ。昨今のエンタテインメント業界でも、特に活況なのが「ライブ」で、ミュージカルや演劇といった「ステージ」は、「音楽コンサート」と並ぶ人気ジャンル。2015年の市場規模は前年比11.3%増と、急速な成長を続けている(ぴあ総研『2016ライブ・エンタテインメント白書』による)。
昨年は音楽コンサート会場が不足する「2016年問題」が話題を集めたが、実は演劇が行われる劇場も足りない状態にある。TBSは約1300人収容の「TBS赤坂ACTシアター」も運営しているが、「ACTシアターの稼働率は95%。19年まで予定が埋まっている」(TBS事業局の松村恵二氏)。小・中規模の劇場も同様で、「公演内容を考える前に、まず劇場をおさえなければ公演ができない状況」(業界関係者)だ。新劇場へのニーズは高く、「ステージアラウンド東京」「浅草九劇」「銀河劇場」の3劇場とも、すでに17年は完売状態だという。
演劇は、2020年に向けて増加が予想される訪日客の獲得にも期待がかかる。例えば、2次元のマンガやゲームを舞台化した「2.5次元ミュージカル」は、すでにアジア各国で人気が高い。代々木アニメーション学院は、「これまでのストレートプレイやミュージカルはもちろん、協力関係各社とともに2.5次元ミュージカルの公演も行う予定」だという。運営開始後の第1弾公演は、ゴールデンボンバーの喜矢武豊や乃木坂46の若月佑美、伊藤純奈らが出演する2.5次元ミュージカル『犬夜叉』に決まった。
個性を打ち出す劇場の増加と劇場事業への新規参入。ライブ市場はさらなる盛り上がりを続けていきそうだ。
(日経エンタテインメント! 羽田健治)
[日経エンタテインメント! 2017年4月号の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。