過労死は「好きで仕事をしている人」にも起こるこちら「メンタル産業医」相談室(6)

日経Gooday

ご家族の話では、支店長になる前からずっと、連日深夜に帰宅し、土日もゆっくり過ごすことはめったになく、ゴルフにイベントにセミナーにと、しょっちゅう精力的に出かけていたそうです。まさにこの方は、何年にもわたる長時間労働によって蓄積した疲労がサイレントキラーとなり、一瞬のうちに命を奪われたといえるでしょう。

もしこの記事をお読みになっているあなたが、経営者の立場にある方ならば、くれぐれも覚えておいてください。いくら好きであっても、いくら自らの意思で働いていたとしても、疲労が蓄積すると心や体の健康は確実に害されていく、ということを。そして時には過労死という取り返しのつかない恐ろしい事態が起こる可能性もあるということを。

経営者には、社員の健康と命を守る「安全配慮義務」が、労働契約法により課せられています。「好きだと言うから、やりたいと言うから、何時間でも好きなだけ仕事をさせた」では、済まされない社会的責任が法律により課せられているのです。

超健康な若者も、筋骨隆々の屈強な人だって例外ではない

ある会社の経営者は、「じゃあ過労死が起こらないように、あらかじめ脳と心臓の検査を社員に実施して、問題のない社員のみ長時間残業をさせたらいい」と言い放ちました。ですが、過労死は脳や心臓、その他の検査データに何の異常もなかった人にも突然起こり得るのです。超健康な若者であっても、筋骨隆々の屈強な男性であっても、過労になると健康は確実に害されていくのです。

この記事をお読みの方は、このような愚かな経営者にならないようにお願いいたします。経営者に課せられた安全配慮義務を肝に銘じよく理解したうえで、どうぞ人をお雇いください。

私は産業医として長時間労働者の過重労働面談を少なからず行ってきました。産業医は企業の過重労働に対して勧告権しか持っておらず、ストップさせる法的な強制力がありません。過去に関わった企業では、「疲労が蓄積しているので労働時間を速やかに削減してください」と意見書を何度書いても無視されたことがありました。

痛ましい過労死事件を二度と起こさないためにも、経営者はもちろんのこと働く人自身が、睡眠不足と過労の恐ろしさをしっかりと認識し、健康を脅かさない働き方ができるようもっと意識改革してほしいと切に願う毎日なのであります。

※文中にて提示した症例は、個人・組織が特定されないよう、事実関係が損なわれない範囲で加工を施しています。

奥田弘美
精神科医(精神保健指定医)、産業医(労働衛生コンサルタント)、作家。1992年山口大学医学部卒。精神科臨床および都内18カ所の産業医として日々多くの働く人のメンタルケア・ヘルスケアに関わっている。執筆活動にも力を入れており「1分間どこでもマインドフルネス」(日本能率協会マネジメントセンター)など著書多数。日本マインドフルネス普及協会を立ち上げ日本人にあったマインドフルネス瞑想の普及も行う。

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