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世界でもトップクラスの教授陣を誇るビジネススクールの米スタンフォード大学経営大学院。この連載では、その教授たちが今何を考え、どんな教育を実践しているのか、インタビューシリーズでお届けする。今回はジョナサン・レバーブ准教授の2回目だ。

「人間の精神は決断を重ねるほど疲弊し、最後には考えることを放棄してしまう」ということを新車販売店での実験で立証したレバーブ教授が次に研究対象としたのは、犯罪者の仮釈放を決定する審査委員だった。人の一生を左右するような面接官や審査官も「決断疲れ」をおこすのだろうか。(聞き手は作家・コンサルタントの佐藤智恵氏)

スタンフォード大学経営大学院 ジョナサン・レバーブ准教授 Courtesy of Stanford GSB

スタンフォード大学経営大学院 ジョナサン・レバーブ准教授 Courtesy of Stanford GSB 

イスラエルの仮釈放委員会での決断を分析

佐藤:レバーブ准教授は「決断疲れ」をさらに立証するために、イスラエルの仮釈放委員会が下した決断と決断の量の相関関係を分析し、2011年の論文で発表しました。

レバーブ:新車販売店での調査と同じような結果が出るのではないかという仮説をもとに、イスラエルの仮釈放委員会の決定を分析することにしました。つまり、次から次へと連続して「この人を仮釈放すべきか」を決断していくと、気力が低下してしまい、後の人になればなるほど「もう釈放しなくていい」と決断してしまうのではないかと。

実際、1年間で下された1100件以上の決定を分析したところ、そのとおりの結果が出ました。最初の方に審査した人に対しては仮釈放を認める確率が高く、後の方に審査した人に対してはその確率が低かったのです。午前中の早い時間に審査された人のうち、仮釈放を認められたのは70%にものぼりましたが、夕方に審査された人のうち、仮釈放を認められたのは10%以下でした。

佐藤:仮釈放するか否かというのは、その人の一生に関わるような決断ですから、審査する側もかなりのエネルギーを使いますね。だから、何人か審査すると、すぐに精神が疲れてしまう。ここに「決断疲れ」が見られたというわけですね。

レバーブ:決断をたくさん重ねると、精神が疲弊し、できるかぎり考えなくていい方法で決断しようとします。この場合、最も考えなくていい方法は何か。仮釈放すべきかどうかを考えないで、ただ仮釈放しないことです。

同じ罪、同じ属性でも朝夕で違い

佐藤:仮釈放するか否かを決めるのに、犯罪者の民族的背景、罪の重さ、判決の内容などは、あまり関係ないということですか。

レバーブ:もちろんその点についても調査しました。たとえば、2人のアラブ系イスラエル人が同じ詐欺罪で同じ判決を受けた場合、どうなるか。普通に考えれば、仮釈放委員会は同じ決断を下すはずです。ところが、結果は違いました。朝に審査された人は仮釈放が認められ、夕方4時に審査された人は認められなかったのです。

佐藤智恵(さとう・ちえ) 1992年東京大学教養学部卒業。2001年コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。NHK、ボストンコンサルティンググループなどを経て、12年、作家・コンサルタントとして独立。「ハーバードでいちばん人気の国・日本」など著書多数。

佐藤智恵(さとう・ちえ) 1992年東京大学教養学部卒業。2001年コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。NHK、ボストンコンサルティンググループなどを経て、12年、作家・コンサルタントとして独立。「ハーバードでいちばん人気の国・日本」など著書多数。

佐藤:途中で休憩をはさむと結果は変わってきますか。

レバーブ:休憩後は、再び仮釈放を認める確率が高くなります。その後、連続して審査していくうちに、確率はどんどん低くなっていきます。

佐藤:この結果を受けて、イスラエルの仮釈放委員会は審査方法を変えたりしましたか。たとえば休憩をたくさんはさむとか、同じ罪状の人は同じ時間帯で審査するとか?

レバーブ:私たちの調査結果に仮釈放委員会の委員は動揺したというのは聞きましたが、それで何か審査方法を変えたというのは聞いていません。

この調査結果をうまく使えば、企業の売り上げを増やすことはできます。たとえば新車販売店の店員が「高価なオプションは最後のほうに勧めればいいんだ」ということに気づけば、その分、収益もあがるでしょう。ところが仮釈放委員会ではそういうわけにもいかないですよね。どの人をどの時間帯でどう審査するかは調整できませんし、同じ罪状の人に異なる決断をしたからといって、その理由が決断疲れだったのか、審査ミスだったのかどうかもわかりません。

佐藤:「決断疲れ」が生じていることはわかっても、それをもとに何かを改善するのが難しい分野はあるということですね。

※レバーブ准教授の略歴は第1回「衝動買いも予算オーバーも 『決断疲れ』が原因?」をご参照ください。

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