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スタンフォード 最強の授業

勤勉すぎる日本人の過剰なまでの消費主義スタンフォード大学経営大学院 レバーブ准教授に聞く(5)

2017/4/5

スタンフォード 最強の授業

PIXTA
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世界でもトップクラスの教授陣を誇るビジネススクールの米スタンフォード大学経営大学院。この連載では、その教授たちが今何を考え、どんな教育を実践しているのか、インタビューシリーズでお届けする。今回はジョナサン・レバーブ准教授の5回目だ。

行動経済学の専門家であるレバーブ准教授の目から見ると、日本人の消費行動はとてもユニークなのだという。フランス人さながらにモノを持たない生活を実践するレバーブ准教授が日本人におくるアドバイスとは?(聞き手は作家・コンサルタントの佐藤智恵氏)

スタンフォード大学経営大学院 ジョナサン・レバーブ准教授 Courtesy of Stanford GSB 

新製品の良し悪しを判断するスキル

佐藤:レバーブ准教授はスタンフォードで「プロダクト・ローンチ」(新製品の市場投入)というマーケティングの授業を教えています。この授業の目的は何ですか。

レバーブ:「この新製品のアイデアは良いか悪いか」を判断するスキルを身につけるための授業です。どういう点に注目すれば良いアイデアが生まれるのか。顧客のニーズはあるか。実際に開発して市場に出せるか。資金や販売員などリソースはあるか。他社との競合状況はどうか。こうしたことを包括的に考えて、最終的に「この新製品を市場に出すべきか否か」を決断します。

売れない商品の多くは、確固とした戦略もないまま「何となく市場に出してもいいかな」と思って、販売してしまった製品です。大々的に宣伝して売り出したのに売れないのは、マーケティング方法や販売チャネルが悪かったからではありません。ただ製品そのものがダメだっただけです。市場に出すか否かを事前に精査せずに、売れない商品をつくり続け、お金を無駄にしているのは、なんとももったいないことです。

佐藤:授業ではどのような企業の製品やサービスを議論しますか。

レバーブ:航空会社から最新のフィンテックの会社まで、あらゆる種類の企業をとりあげます。毎年必ず議論するのが、フェデックスのケースです。書類を翌日に届けるサービスを導入すべきかどうか、顧客のニーズはあるか、このサービスは良いサービスか否かを考えます。フェデックスのケースは、良いアイデアと悪いアイデアの違いを見極める訓練をするのに、最適の事例です。

佐藤智恵(さとう・ちえ) 1992年東京大学教養学部卒業。2001年コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。NHK、ボストンコンサルティンググループなどを経て、12年、作家・コンサルタントとして独立。「ハーバードでいちばん人気の国・日本」など著書多数。

日本人の飽くなき消費主義

佐藤:レバーブ准教授の目から見て、日本人の消費者にはどのような特徴があると思いますか。

レバーブ:日本人の方々は、とても流行に敏感ですよね。「流行に遅れている人だと見られたくない」と思うあまり、はやっているものを次々に購入して消費する傾向が強いように思います。しかし、これは賢い消費者の行動ではありません。

佐藤:確かに日本にはあっという間に流行して、あっという間に廃れるものが多いように感じます。そのため、私たちの家の中は「昔はやっていた物」で埋めつくされています。

レバーブ:日本という国は、伝統と消費主義が共存しているユニークな国です。日本人は昔から知の探求にたけていて、禁欲的で、真面目で、勤勉であることを良しとする国民です。その一方で、日本人の過剰なまでの消費主義には驚くばかりです。まるで厳しい規律や伝統の反動が、すべて消費に向けられているように私には見えます。

「たくさんモノを買うことで、真面目すぎる自分の性格が変わるだろうか」と考えてみてください。モノを買ってもそのときはスカっとしても、根本的な解決にはなりません。それよりは、ちょっと肩の力をぬいて、何でも勤勉に頑張ってしまうのを少しやめてみるほうがいいのです。そうすれば、高いブランド物のハンドバッグを買わないですむかもしれませんよ。

佐藤:日本人の本質をよく見抜いていますね。

レバーブ:ヨーロッパの人たちは、ファッショナブルですが、そんなにたくさんモノを買いませんよね。スーツだって、いいものを1着しかもっていない。

佐藤:日本では「フランス人は10着しか服を持たない」という本がベストセラーになりましたが、日本人のビジネスパーソンの中には、スーツだけで軽く10着はもっている人もいます。

レバーブ:そうなんですよ。体は1つしかないわけだから、1着でも十分なのに、日本人はちょっとずつ違ったものを10着も買ってしまう。これではお金の無駄遣いです。ヨーロッパ人を少し模範にしてみてはいかがでしょうか。

情報過多、情報依存は世界的問題

佐藤:日本にはモノだけではなく、情報もあふれています。何か情報を見ていないと不安になってしまい、スマホ依存症になる人も増えています。

レバーブ:情報依存は日本だけではなく、世界的な問題ですよ。情報の洪水に溺れないようにするには、自分で情報源を制限するしかありません。情報を完全にシャットアウトするのは難しいですが、見る情報を減らすことはできます。

たとえば、ダイエットをしようと思ったら「週末しか甘いものは食べないようにしよう」などと、自分にルールを課しますよね。それと同じように、「朝10時から昼の1時まではメール禁止時間とする」とか「メールやテキストに返信するのは、夕方6時以降にする」とか、情報を制限するルールを決めればいいのです。あるいは、ニュースはこのサイトとフェイスブックしか見ない、などと閲覧するサイトを決めてもいい。

世界から情報の提供者が永遠にいなくなることはありえませんし、これからも情報量は増えていくばかりですから、受け手側が意識してコントロールしないと、それこそ情報の洪水に溺れてしまいます。

※レバーブ准教授の略歴は第1回「衝動買いも予算オーバーも 『決断疲れ』が原因?」 をご参照ください。

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