そんな時に役立つのが、「成長思考」です。成長思考では、「挫折は避けられないもの」と考え、障害にぶつかった時には、「持てる力を最大限に発揮すべき時が来た」と考えます。逆境はレジリエンス(精神的回復力)を強化してくれます。過去のつらい経験が役に立つのです。そう考えれば、ストレスを感じても頑張り抜くことができるようになります。

挫折や逆境から力を得る具体的な方法-書くことで回復する

挫折や逆境から力を得るために効く方法の1つが、自分の人生の物語を綴ることです。私は、「レジリエンスの物語」と呼んでいます。例えば、自分のキャリア、人間関係、社内のプロジェクトについてでも構いません。それを書いて、自分で読んでみるのです。

自分の人生に何が起きたのか、そこからどんな意味を見いだせるのか。自分の長所は何か。何を学んだのか。そのことを自分で書いて読むことによって、逆境を通して力を得ることができます。将来に対する楽観的な見方も、そこから生まれてきます。

逆境を経験したから強くなるわけではなく(そういう人もいますが)、一番大切なのは、逆境の物語を自分が「レジリエンス(回復)の物語」として読むことによって、マインドセットが変わるのです。そして、逆境が力になっていきます。

私は最近、全米の著名なエグゼクティブを集めてトレーニングを行いました。そこでは、「成長思考」の観点から、自分のキャリアについて話してもらいました。皆の前で、自分が失職した時のことや、うまくいかなかったプロジェクトについて、話してもらったのです。その経験から、自分のどんな強さを見つけ出すことができたのか。どんなことを学ぶことができたのかを、改めて考えてもらったのです。この方法は1人でやっても効果のあるエクササイズですが、私はこれをグループで話すように仕向けました。各人がそれぞれの「成長思考」に触れることで、さらなる良い効果が生まれるからです。こうして自分で物語を綴ったり、人前で話したりすることは、成長思考を生み出す力になります。

「ストレスが強すぎる」場合

本当のトラウマ(心的外傷)を経験されている人、例えば、犯罪の被害者であったり、愛する人を亡くしたりして、大きなストレスを経験する人はいます。彼らが本当に前に向かっていくためには、「自分の経験を考えないようにすること」は、何の助けにもならないことが、様々な研究で明らかになっています。そのことについて考えないようにし、逃避していると、「自滅行動」につながってしまうことが多いのです。

心理学の世界には、「侵入型反芻(すう)」と「意図的反芻」という考え方があります。「侵入型反芻」とは、「自分に起きたことをどうしても思い出さずにはいられない、でも思い出したくない」というものです。「あの時に別の道を選んでいれば被害者にならなかった」「こうしていれば、人を傷つけずに済んだ」という“二者択一な思考”を頭の中で思い描くのですが、これはPTSD(心的外傷後ストレス障害)と深く関わりがある状況です。

もう1つの「意図的反芻」は、「意図的に思い出す」ことです。自分自身が選んで、思い出す。つまり、「自分で何があったのか思い出してもいい」という許可を、意図的に自分に与える、ということです。「こうすればよかった」というのは後ろ向きな考え方ですが、前に進むための力というのは、この「意図的反芻」から生まれます。

大事なのは、何かが起きた時に、「なぜ私にこんなことが起きたのか」と考えるのではなく、「何のために起きたのか」と考えるのです。「なぜ」ではなく「何のために」と考える。これこそが、「成長思考」です。

逆境は起きてほしくないと思っても、実際には起きてしまっているわけですから、それをいったんは受け入れる。そしてその経験から、自分自身がより良い状態になるためにどうしていくのか。あるいは、その経験が、他人を助けるためにどう役立つか。そうやって考えていく方法です。

そのためにも、「書く」ことが大事です。自分の経験を書く行為というのは、ヒーリング効果が最も高いやり方なのです。感じていること、起きたことを「言葉にする」ことは、癒やしの効果があると、研究で分かっています。

そこで大事なのは、「感じていることをただ綴る」ということです。この時に注意しないといけないのは、「あの時は大変だった、でもよかったんだ」というところからスタートしないことです。

「自分にどんな辛いことが起きたのか」ということを受け入れながら、「ありのままに自分が感じたこと」を書くことが大切です。何度も書いていく中で、自然発生的に“前向きなエネルギー”が生まれてくるのです。

「スタンフォードの自分を変える教室」(大和書房)でも触れていますが、受容の姿勢を持つことによって、自分の中にある素晴らしい力や洞察力にアクセスすることができます。そこでも、いかにストレスを包容して、力に変えていくのかを書いています。これは革新的なマインドセットではありますが、本当に苦しかったこと、つらかったことと直面せず、「自覚しない」やり方では、本当の意味でストレスを包容することにはならないのです。

「ストレスへの耐性」を高めるエクササイズ

ストレスを乗り越えていくためには、ヨガや瞑想(めいそう)も有効です。ヨガや瞑想はメンタル面では、「自分がそこに100%在る」というような感覚に促されるといいます。でも実際にヨガや瞑想をすると、不安や自分の欠点といった「嫌なこと」から逃げずに、その場に在り続けなければなりません。実はこうした行為こそが、ストレス耐性を上げるのです。どんなに居心地が悪くても、そこから逃げない。ヨガや瞑想は、そうしたエクササイズでもあるのです。

肉体面でも、ヨガや瞑想は神経系のバランスを取りやすい行為といわれています。ヨガや瞑想をすると気持ちが落ち着くと思われるかもしれませんが、体の働きは逆に、活発になっているのです。心拍数が上がったり、男性ホルモンが放出されたりします。そうした反応が起こることで、ストレスホルモンの構成も変わっていきます。

この状態では、心拍数は上昇し、アドレナリンが急増し、筋肉と脳にエネルギーがどんどん送り込まれ、気分を高揚させる「脳内科学物質」が急増します。

こうした、いわゆる「フロー」の状態(自分のやっていることに完全に没頭している望ましい状態)にある人には、「チャレンジ反応」の特徴が表れます。これは一心不乱にパフォーマンスに取り組んでいる状態と同じです。その時に、精神的にも肉体的にも力が湧いてきます。結果、自信が強まり、集中力が高まり、最高のパフォーマンスを発揮することができるのです。

ヨガや瞑想だけでなく、ウオーキングでも構いません。どんなエクササイズでも有効です。

【ストレスを武器に変え、成長するためのルール】

(1)「ストレスは健康に悪い」と思わないこと

(2)ストレスを「減らそう、避けよう」としないで、ストレスを「受け入れる」こと

(3)「ジョブ・クラフティング」を活用すること

(4)人生の重要な目標を「自分より大きなもの」に置くこと

(5)「成長思考」で考えること

(6)自分の経験を「書く」こと

(7)エクササイズをすること

【「やってはいけない!」ルール】

(1)「ストレスを軽くしなければ」と考え、取り除こうとする

(2)何かで挫折するとすぐに、「やっぱり無理なんだ」と思う

(3)何かが起きた時に、「なぜ私にこんなことが起きたのか」と考える

[書籍「スタンフォードの心理学講義 人生がうまくいくシンプルなルール」を再構成]

スタンフォードの心理学講義 人生がうまくいくシンプルなルール

著者 : ケリー・マクゴニガル
出版 : 日経BP社
価格 : 1,728円 (税込み)

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