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神木隆之介 『3月のライオン』で見せた、プロの覚悟

日経エンタテインメント!

2017/3/20

 「原作のとても人間味ある魅力を伝えるために、監督とは『単なる実写化にはしたくないし、派手なことはしたくない。地味な映画になってもいい。感情の流れは原作に沿うけれど、原作の細かい言い回しや感情の動きにはとらわれなくてもいい』と話していました。だから現場でも『人間として生きる』ことを重視したというか。相手のセリフに対して、間や表情や、セリフも感じたままに言って、リアリティーの温かさというか、人間味があるように肉付けしていきました。

撮影中の大友啓史監督(中央)と桐山零役の神木隆之介(右)

 でも、原作があまりにも名作なので、読む人によって、その登場人物が何を思っているのかという受け取り方が三者三様。いろいろ受け取れるというのが、この『3月のライオン』という作品の特徴だと思うので、実写化して、お芝居をしても正解がない。難しいなと思いました。

 特に零1人のシーンはどれぐらい感情を出していいのか。そのさじ加減が難しかった。それこそ、どれぐらい泣いていいのか、どういう思いで空を眺めているのかとか迷いました。なかでも、初めて川本家で夕食をごちそうになって、お弁当を持って橋の上で振り返るシーンは、実は20回以上撮っているんです。少し笑ってるものから、振り返りが短いものからしっかり振り向いてるものまで。監督といろいろと試しましたが、最後にはどれが本当に正解なのか分かんなくなっていました(笑)。

 そんななか、零を演じる上で拠り所になったのが、零と同じように、僕も子どもの頃から仕事をしていたということでした。大友監督に言われて、はっと気づいたんです。

 僕も幼稚園ぐらいのときから母親に『現場に入ったら、あなたは子どもじゃない。1人のプロとして立ちなさい』と言われてきました。だから、零が中学生でプロ棋士になり、生計を立てるという、ある種もう後戻りはできないその<覚悟>が分かるというか、既視感があるというか。それに、零の『僕には将棋以外に何もない』というあたり。僕は芝居を楽しんできているので、零のように大きな孤独は抱えていないですが(笑)。でも、確かに、僕も芝居以外には居場所がない。だから、共感して演じることはできたかな、と思います」

「監督に(前編と後編では)目が違うんだと言われて、それが役作りの大きな助けになりました」(神木)

 「対局のシーンは、実際の棋士たちが人生を懸けて戦っている。その様を撮る」。大友監督が望む絵を体現するため、将棋の練習に2カ月前から取り組んだという。

 「キャストの方たちによって練習の方法が違っていて、例えば、(羽生名人がモデルの)宗谷役の加瀬(亮)さんは天才的な棋士として、どれだけ美しく指せるかを練習していました。僕はどちらかというと、リアル対局練習派(笑)。先生と対局して、勝負の駆け引き、緊張感を覚えました」

 4カ月もの時間を経て撮り終え、神木の代表作の1つになるであろう映画『3月のライオン』。今、どう感じているのか。

 「原作がまだ連載中で、桐山の人生はまだまだこれからなので、後編の終わり方はすごくいいと思うし、1つの物語で、前後編がこんなに違うのかというのに驚きます。撮影中は全然分からなかったです。

 前編を見ると、桐山ほかみんながどんな思いで将棋に向き合っているかが表現されている。後編はそれとは全く雰囲気が異なる温かみのあるドラマが展開して、前後編含めて、いい作品になっているので、熱が冷めないうちに後編も見て、桐山の成長をゆっくりと見守っていただけると、とてもうれしいです。

 僕としては主演を務めて、プレッシャーは重いんだと改めて思いました(笑)。そして、やはり芝居は助け合いなんだなと。今回は先輩に本当に助けてもらいました。そのなかで、きちんと1人で立たなくてはならない重圧と責任感が分かったので、とても貴重な体験をしたなと思っています」

(ライター 波多野絵理、日経エンタテインメント! 平島綾子)

[日経エンタテインメント! 2017年4月号の記事を再構成]

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