星野源、でんぱ組.inc 「踊れる曲」がヒットする理由
「一緒に踊れる」が音楽ヒットの重要な要素になってきた。代表的な大ヒット曲が、"恋ダンス"で話題となった星野源の『恋』だ。主演ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)のエンディング曲になって火がつき、2016年末には『NHK紅白歌合戦』でも披露。4カ月以上もオリコンチャートの25位内に入り続けるロングヒットとなっている。
バンドシーンを見ても、サカナクションを筆頭にKANA-BOONなど、テクノやハウスといったダンスミュージックを積極的に取り込むバンドが増加中。アイドルでも、高速ダンスロックサウンドを歌う、でんぱ組.incなどが出現して、「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」のようなロックフェスにも出演している。ジャンルを超えて、皆で一緒に踊れるサウンドが受けているのだ。
踊れる曲が広がってきた理由は、3つある。
1つは、アーティスト自身が日本にダンスミュージックを根づかせようと力を入れていること。星野源は「ブラックミュージックが音楽ルーツ」と公言しており、自身の音楽を「イエローミュージック」と命名。日本人の日本人によるダンスミュージックを追求している。『SUN』『時よ』(ともに15年)などのミュージックビデオでも、踊って歌うパフォーマンスを披露している。
サカナクションのフロントマン山口一郎も結成以来、「ダンスミュージック」と「ロック」の融合を掲げて活動。4つ打ちのリズムを多用したり、エレクトロ系のサウンドを組み合わせて、縦ノリの楽曲を生み出す手法を取り入れる若手バンドが増えている。
踊れる曲が増える2つ目の理由は、近年のライブ、フェス人気を受け、会場全体が盛り上がる曲が求められていることだ。サカナクションなどが所属するビクターのレーベル、ゲッティング・ベターのディレクター遠藤大輔氏は、「カッコよさを追求した楽曲はもちろんそうですが、お客さんが『楽しい』『盛り上がる』と感じる曲も、アーティスト側に求められているのではないか」と語る。
遠藤氏が担当するロックバンドKEYTALKは、14年発売の『MONSTER DANCE』で、振り付きのダンスを観客に踊らせるミュージックビデオを作成する試みも行っている。「ロックバンドが曲に振りを付けるのは珍しいのですが、『MONSTER DANCE』ではお客さんも振りに合わせて踊ることを楽しんでいるようです」(遠藤氏)
3つ目の理由は、マネして踊りやすい楽曲が交流サイト(SNS)で人気を集めることだ。YouTubeなどで「踊ってみた動画」が拡散されると、さらなる話題につながる。星野源の『恋』も、"恋ダンス"が一般人から有名人まで多くの人にマネされ、公式ミュージックビデオのYouTube再生回数が1億回を突破。世界的ブームとなったピコ太郎の『PPAP』(16年)、AKB48の『恋するフォーチュンクッキー』(13年)も同様に1億回を超えている(3月上旬時点)。3曲はいずれもSNSでの拡散によって国民的ヒット曲へと成長した。
もっとも、この「マネして一緒に踊る」という楽しみ方は、全く新しいカルチャーではないという見方もある。「盆踊りのような、日本人が本来持つ『祭り』や『踊り』といった大勢が集まって共有する体験に対する欲求が、顕在化してきたとも考えられる」(遠藤氏)。ある意味、伝統的な文化であるが、それがライブやフェス、SNSといった今の時代にあった楽しみ方に形を変えたのが、昨今の「踊れる曲」拡散現象ともいえそうだ。
(「日経エンタテインメント!」3月号の記事を再構成。文・中桐基善 写真提供 rockin'on japan)
[日経MJ2017年3月10日付]
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