安近短なのにパウダー 絶景も満喫、札幌のスキー場
外国人も熱視線
北海道のスキー場で取り上げられることが多いのはニセコ(倶知安町)やルスツ(留寿都村)、富良野(富良野市)などの大型スキーリゾートだが、人口約200万人の大都会、札幌市の近くにも魅力的なスキー場が多いのをご存じだろうか。近いところでは市中心部からわずか20分。道具一式はすべてレンタルでき、旅行や出張の合間でも手ぶらで滑れる。さっぽろ雪まつりなどの開催中を除くと冬季は道内観光の閑散期なのでホテル代も安く、食事や娯楽などのアフタースキーもたっぷり楽しめる。大半のスキー場は3月いっぱいまで営業し、5月の大型連休まで滑走できるスキー場もあるので、ちょっと立ち寄ってはいかが。
「海外も含めて数多くのスキー場を訪れたが、地元テイネが世界一だった」と話すのは、土産菓子「白い恋人」の製造元、石屋製菓社長でプロ顔負けのスキーヤー、石水創氏。サッポロテイネは札幌市の北西部にある市内最大級のスキー場で、1972年の札幌冬季五輪の会場となったほどの規模とパウダースノー(粉雪)に恵まれ、本格派から家族連れまで幅広い層が楽しめる。
同スキー場の売りの1つが標高1023メートルの手稲山の山頂付近から見る絶景だ。天候に恵まれれば左に石狩湾、正面からやや右側にJR札幌駅など市の中心部を一望できる。「大都会と本格的なゲレンデという組み合わせは世界でも珍しい」(元五輪スキーヤーの川端絵美氏)ため、山頂に到着したスキーヤーは景色に見とれてしまい、なかなか滑り出さないほどだ。
テイネは札幌市中心部から車で行っても、鉄道とバスを乗り継いでも40分程度の距離にある。より手軽にスキーを楽しみたいのであれば、さっぽろばんけいスキー場や札幌藻岩山(もいわやま)スキー場がおすすめ。大通や中島公園などホテルが集中する地区からはタクシーで20分程度と近い。
ばんけいは札幌の高級住宅地として有名な円山地区の裏山といっていいほどの近さ。モーグルやハーフパイプ用の専用コースを備え、サービスの改善にも熱心なのが特徴だ。市中心部からの往復タクシー代と道具のレンタル料金などがすべて含まれるパック商品を用意したほか、2016年末にはレンタルスキーコーナーを大幅に広げた。
藻岩山は一般的な緩斜面、急斜面だけでなく、夏は自動車が走る有料道路をゲレンデに転用した全長2620メートルの長いコースが魅力。スノーボードが禁止されているため、スキーを練習したい人には最適な環境だ。ばんけい以上に市民スキー場としての色彩が強く、フォームを確認しながらゆっくり滑る上級者の姿は上達の参考にもなる。
藻岩山は午後9時、ばんけいは同10時まで営業するため、仕事が終わったあとも十分滑れる。午後4時以降のナイターリフト券はいずれも2000円と安く(日中はばんけいの4時間券が3200円、藻岩山の5時間券が2900円)、藻岩山では午後6時以降に限定した1200円券も用意する。両スキー場は市中心部から近いだけに、テイネ以上に市街地が間近に見える。藻岩山山頂から見る夜景により、札幌市は15年に新日本三大夜景都市に選ばれた。
札幌市周辺にはほかにも多くのスキー場があり、レンタカーやバスを使えばさらに10以上が選択肢に入る。
藻岩山と同じ札幌市南区にある滝野スノーワールドは斜面が1つしかないが、平日の1日券が820円と安く、大人も夢中になれる大きなタイヤ状のチューブそりは無料だ。クロスカントリースキーのコースもある。
小樽市の札幌寄りにあるスノークルーズオーンズは午後11時まで営業するため、夜の時間帯が混雑するという珍しいスキー場。石狩湾の輝く水面に飛び込んでいくようなスリルが味わえる。
札幌から新千歳空港に向かう途中にも複数のスキー場があり、地元市民向けという位置づけもあって、アクセスがいい割にはすいている。北広島市にあるダイナスティスキーリゾートは、道外客にも人気の三井アウトレットパーク札幌北広島から無料の送迎バスで約10分という近さだ。緩い斜面中心だがコースが多く、「社会人になって以降、ゲレンデから遠ざかっている30~40歳代がスキーを再開するのに最適」(運営会社ダイナスティリゾートの藤野隆史マネージャー)という。
冬の札幌は観光客が少なく、ビジネスホテルであれば宿泊料を1人あたり1泊5000~6000円程度に抑えられる。冬が繁忙期となるニセコでは1泊3万円を超える宿泊料でも安い部類に入る。食事代も含めると費用差はさらに広がるだろう。
訪日外国人も札幌近郊のスキー場の魅力に気づき始めた。スキー初心者が多いアジアからの観光客が増えた結果、気軽に行けて滑り終わった後も買い物や食事を楽しめる札幌のスキー場に熱い視線が注がれている。
サッポロテイネを運営する加森観光(札幌市)テイネ事業部の宮川卓也営業チームリーダーによると「今季は外国人客が前年比5割増となる見通し」。テイネではシーズン開始にあわせて更衣室や中国人が好んで使うコインロッカーを増やすなど、受け入れ態勢を強化している。
ばんけいスキー場でも今季、レンタルスキーの貸出件数が前季に比べ3倍近く伸びている。増えているのは主にアジア人だ。運営会社である札幌ばんけい(同)の江本幸穂企画室長は「平日の日中はいままでスキーヤーが少なかったが、外国人が増えた今季は様相が一変した」と話す。
同スキー場では今季、外国人専用のカウンターを設けた。初心者が大半のアジア人向けに2回だけ乗れるお試し用の回数券も用意したほか、パック商品の英語パンフレットも作成して市内のホテルに配るなどして、新市場の開拓に力を入れる。
このところアジア人の旅行が急速に団体から個人へ、買い物中心から体験型に移行していることも札幌のスキー場にとっては追い風となっている。当然、ニセコなども選択肢に入るはずだが、初心者にとっては朝から晩まで数日間にわたってスキー三昧となるよりも、夜の繁華街でアフタースキーも楽しめる札幌は魅力的だ。
札幌のスキー場の評判はこれまでニセコ一辺倒だった欧米人の間でも広がりつつある。1月に札幌で開かれた北海道運輸局主催の商談会に参加したオーストラリアの旅行会社、ジャパン・パウダーの予約担当者ブリタニー・マン氏は「中心部近くに本格的なスキー場がいくつもあるなんてまったく知らなかった。新雪好きの人はこれからもニセコを選ぶと思うが、今後は札幌でも欧米人が増えることを念頭に情報収集を急ぎたい」と話す。
「訪日客のスキーヤーが増えるメリットはなんといっても経済的な波及効果の大きさ」と話すのは、観光に詳しい日本政策投資銀行北海道支店の松村智巳企画調査課長。訪日客はスキーやウエアのレンタル、レッスン代に加え、タクシーやバス需要が見込める、地元客と違い飲酒などの需要もついてくる。「訪日客1人で経済効果は地元客2~3人分はあるはずだ」
観光地にとって最大の課題はリピーターの獲得だが、その点でもスキーは優位性がある。運輸局観光部の安田稔幸次長は「通常の観光はある場所に1回行ったらしばらく行かないが、スキーは違う。滑れば滑るほどうまくなるので何度でも同じ場所に行きたくなる」と指摘する。北海道大学観光学高等研究センターの遠藤正客員准教授は「平昌、北京とアジアで立て続けに冬季五輪が開かれれば、利便性や雪の質、バランスがいい札幌の注目度はさらに高まる」と話す。
(札幌支社 小山隆史)
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