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給与はたいして増えないし、責任は増えるばかり。だから言われたことはするけれど、自分から何かする気はありません。そういう30代、40代を「育てて」しまう理由の一つに、会社の中の人事の仕組みがあります。

その仕組みを理解した上で、あなたがそう育ってしまわないように、20代から気を付けておくべきことはなんでしょう。

たいして給与が増えなくなるタイミング

会社に入った翌年、評価を受けて給与が増えて嬉しい思いをした人は多いことでしょう。でもその時、いくら給与が増えたか覚えているでしょうか。

平均昇給額の統計データは1980年代に1万2000円前後でしたが、1990年台以降、5000円前後に減っています。昇給額は減っていますが、実はそのインパクトは、昇給額の比較だけでは見えてきません。

なぜなら、1980年代には、平均給与額そのものが低かったからです。1980年の昇給額に対する基準給与は約17万1000円。初任給平均は11万4500円でした。しかし2016年の場合、昇給額に対する基準給与は約30万円。初任給平均は20万5900円です。

つまり1990年であれば、初任給11万円ちょっとに対して約1万2000円と、およそ11%も昇給していたのですが、2016年においては、初任給20万円ちょっとに対して約5000円と、およそ3%しか昇給しなくなっているのです。

この状態をもう少しわかりやすく示すために、各年度で大卒で新入社員となった人たちが、30才までにどれだけ給与が増えたかを計算してみました。その結果、1980年に入社した人は、8年後の30才の時、初任給に比べて給与は177%=1.77倍に増えていることがわかりました。しかし2000年に入社した人の増加率はわずか118%=1.18倍です。

もちろん、人事の仕組みとしては、このような昇給の仕組み以外に給与が増える仕組みを用意しています。それが昇進による昇給(昇格昇給といいます)です。

たとえば平社員から主任に昇進したら2万円昇給します。主任から係長に昇進したらさらに2万円昇給。そして課長に昇進したら8万円昇給しますよ、というような仕組みが多くの会社に用意されています。

ただし、平社員のままだったり、主任のままだと、毎年給与は5000円しか増えないことが増えました。年功が薄れてしまって、昇進しないと昇給しないからです。一方、昇進のハードルがどんどん上がっているということは以前の記事「昇給より昇格 課長になれば100万円の年収アップ」にも書きました。

だから30才を過ぎた頃には、出世のための努力に疲れてしまった人の中に、「給与も対して増えないし、これくらいでいいや」という気持ちが芽生え始めてしまうのです。

努力しても報われなければ、努力しなくなる。そのことを心理学で、学習性無力感、といいます。あきらめる30代が生まれる理由はまさにそこにあります。

先輩のあきらめにとらわれないようにする

仮にあきらめずに努力し続ける人がいたとすればどうでしょう。

あきらめない人が多数派の組織であれば、多くの人がどんどん成長し、活躍することができます。しかし、もし組織の中の多くの人たちがあきらめてしまっているとどうでしょう。孤軍奮闘しても周りがどんどんあきらめていってしまうと、やがて最後の一人もあきらめてしまいます。

人事コンサルタントの仕事をする中で、「若手がすぐに転職してしまう」という相談を受けることがあります。その原因を調査してみると、「給与が安い」「やりがいのある仕事を任されない」「上司とのそりがあわない」などさまざまな要因が導き出されます。

しかしそれらの原因を突き詰めていくと、実は「あんな人になりたい」というあこがれの対象がいない、という言葉でまとめてしまえることが多いのです。

たとえば「課長になったら残業代が出なくなって給与が下がったよ」と本気で文句を言っている人が直属の上司だったら、部下はどう思うでしょう。

「頑張っても社長のお気に入りしか出世できない会社なんだよ、うちは」と愚痴る先輩がいたとしたら、後輩はその言葉を否定できるでしょうか。

学習性無力感にさいなまされた人たちの集団では、あの人のようになりたい、と思える人が社内にいなくなります。結果として、若手にとってのロールモデルが失われてしまうと、力のある人ほど他社に転職してしまいます。そして残った人たちは、せめてプライベートだけでも楽しくしたいと思ってしまうのかもしれません。

ロールモデルを持てば人生が変わる

では、あきらめた30代にならないためにはどうすればいいのでしょう。

そのために大事なことは、自分が無力ではないと知ることです。具体的な対処は、「残念な現実を見た」ときの行動にあります。

最も重要なことは、自分にとってのポジティブなロールモデルを探すこと。それはいわゆるメンターと言われる人だったりします。そしてメンターは特定の個人でなくてもよいのです。

たとえば私の会社のインターンたちは皆良い会社に就職していきます。たとえ第一志望に受からなくとも、より自分に合致した会社に合格できています。

せっかくインターンに来てくれた学生たちに、より良い会社で社会人としてのスタートを切ってほしい。そのための取り組みとして弊社では、優れたロールモデルになれるであろう、社内外のさまざまなメンバーたちと出会わせるようにしています。その中に、「ああ、この人みたいになりたい」と思える人が一人でもいれば、それは社会人になることへの希望になると考えているからです。

大事なことは、ロールモデルだと思えるメンターを探すこと。社内にそういう人がいなければ、社外で探すことも一つの手段です。転職する気が無くても転職活動を続けて面接を受けていれば、面接官の中に素晴らしい人物がいるかもしれません。マネジメントスクールで学べばそこにも多くの出会いがあるでしょう。特定個人のすべてを肯定するのではなく、この人のこういう点には学べるし、別の人の違う点にも学べる、といった分業ロールモデルもありです。

そしてさらに大事なことは、自分自身が誰かのメンターになれるようにすることです。なぜなら、誰かのメンターになる自分をイメージしている限り、あきらめる人になってしまうことは決してないからです。

また、会社側もそのような構造を理解して、若手のやる気を引き上げるために若手の給与や教育に直接アプローチするのではなく、あきらめかけている30代や40代の中堅社員に対してもっと力を注ぐべきではないでしょうか。

平康 慶浩(ひらやす・よしひろ)
セレクションアンドバリエーション代表取締役、人事コンサルタント。
1969年大阪生まれ。早稲田大学大学院ファイナンス研究科MBA取得。アクセンチュア、日本総合研究所をへて、2012年よりセレクションアンドバリエーション代表取締役就任。大企業から中小企業まで130社以上の人事評価制度改革に携わる。大阪市特別参与(人事)。

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