ギョッ、として癖になるピラフ イチゴメニュー最前線
春に旬を迎えるイチゴ。この季節になると、さまざまな飲食店やホテルが季節メニューにイチゴを取り入れる。今年はついにコース料理でイチゴを使ったメインディッシュも登場。人気の秘密を探るため、イチゴメニューの最前線を調べてみた。
有名ホテルがそろってイチゴメニューを投入
昨年12月31日に2階の空間を大幅に改装した「ヒルトン東京お台場」。海を眺めながら取れたての野菜や魚介をふんだんに活用したメニューを終日ビュッフェスタイルで提供しているオールデイダイニング「SEASCAPE TERRACE DINING」では、2017年5月15日まで、ストロベリーデザートビュッフェ「Strawberry Forest~いちごの香りに包まれて」を実施している。
「ヒルトン傘下の国内ホテルで展開している『#ヒルトンスイーツ』というコンセプトのもとに、女性に大人気でSNSにも映えるかわいらしいイチゴをテーマに、季節のデザートビュッフェとして企画いたしました」(ヒルトン東京お台場マーケティングコミュニケーションズマネージャー 西出裕加子さん)
春になると、レストランの季節メニューにイチゴが並ぶ。サンシャインシティプリンスホテル「いちごスイーツフェア」、ヒルトン東京「ストロベリーデザートフェア~今年のテーマはサーカス~」、京王プラザホテル「ストロベリーフェア~真っ赤ないちごが告げる、春の先触れ~」、横浜ベイホテル東急「ナイトタイム・デザートブッフェ『いちごジャーニー』」、ホテルニューオータニ大阪「スイーツ&サンドウィッチビュッフェ~ホテルでいちご狩り~」、京都センチュリーホテル「スーパーストロベリーフェア~Feel like a Princess!!~」など、有名ホテルのほぼすべてがイチゴを使った季節メニューに挑んでいるといっても過言ではないほどだ。
イチゴのパスタ、イチゴのピラフも登場
スイーツだけでなく、メインディッシュにもイチゴは進出しつつある。
昨年、スイーツをコースに仕立てて提供する「いちごのアフタヌーンスイーツセット」が好評だった「ハイアット リージェンシー 東京」は、今年、ア・ラ・カルトで「いちごと3種のチーズのピッツァ」を用意。さらにディナーコースでは、食前酒から前菜、メインディッシュ、ドルチェまですべてにイチゴを使った「スイート オン ストロベリー」をメニューに加えた。
「スイート オン ストロベリー」のメインディッシュとして、イチゴを使ったパスタ「パンチェッタと九条葱(ねぎ)のパスタ いちごとフランボワーズヴィネガーの香り」とピラフ「シーフードとキノコのピラフ いちごのアクセント」を新たに開発。ピンクに染まるパスタとピラフという前代未聞のビジュアルで話題を呼んでいる。
「この期間はどこのホテルでも、デザートやビュッフェにイチゴをたくさん使っているので、今回はあえて料理に使ってみてはどうか、という話から始まった」というのは洋食料理長の大谷勇さん。ちなみに「今まで作ったことも、考えたこともなかった」そうだ。
開発当初は、生のイチゴをそのまま使ってみたが、やはりピラフやパスタには合わない。試行錯誤の結果たどり着いたのがドライパウダーにして混ぜ込むことだった。いためるときにパウダーとして使うのだ。「イチゴを乾燥させて粉にしたものを使うことで、香りがひきたつようにした」と大谷さん。「合わせる材料をシーフードにしたのも、イチゴの香りや味と合わせやすいからです」
料理を目の前にすると、ピラフはいちごのパウダーがピンク色にライスを染めていて、少しぎょっとしたのは事実。だが一口食べるとほどよい酸味がくせになり、次々と食べたくなった。ピザも、クリーミーなチーズとの相性がよく、別添えのハチミツや、黒コショウをかけることでまた別の味を作り出していた。
「いちごと3種のチーズのピッツァ」は、一面イチゴを敷き詰めたピザ。一見どきっとするが、シェアするデザートとしてだけでなく、ランチのメインとして1枚をペロリとたいらげた男性もいるなど、好評だという。イチゴの風味を生かすために、別に熱したミントを添え、より香りを引き立つように工夫している。
「イチゴは火を入れると香りがたつため、隣席のお客様がオーダーされたのをみて、注文される方も多いですね」(大谷さん)
ビジュアルのかわいらしさがSNSで受ける
それにしても、なぜイチゴはこれだけ人気なのか。
ヒルトン東京お台場の西出さんは、個人的な意見としながら、2つの理由を挙げた。1つは歴史だ。
「日本のイチゴブランドの質や知名度が向上していることに加え、ホテルなどのデザートビュッフェで長年、イチゴを積極的に取り入れてきたことがイチゴ人気に貢献していると思います」
もう一つがSNSだ。
「イチゴのビジュアルとしてのかわいらしさが、昨今のSNS世代のニーズとマッチしたのではないでしょうか。SNSというメディアを媒体に、女性たちの口コミという信頼性のある情報として広がったことが、イチゴ人気全体を押し上げる結果につながったと考えています」
近年、スイーツは、味と同じくらい見た目も意識している(参照記事「新シュー&エクレア、『インスタ栄え』で勝負」「駅で買えるクリスマスケーキ トレンドはSNS映え」)。色も形もかわいらしいイチゴは、このトレンドにぴったりの果物だったというわけだ。
新品種が開発しやすく単価も高い
このイチゴ人気を支えているのが、品質の高さと種類の豊富さだ。どんなイチゴを使うかお店ごとにこだわりがみられる。
ヒルトン東京お台場は「栃木のとちおとめ、福岡のあまおう、佐賀の佐賀ほのか、長崎のとよのかのなかから、その日に状態の良いものを選んで使用しています」(西出さん)。ハイアット リージェンシー 東京のカフェで使用しているイチゴは、ほとんどがとちおとめだ。「まず大きさがいい。味も甘みはもちろん酸味がかなりあります。火をいれると酸味も丸くなるので、あえてとちおとめを使っています」(大谷さん)
「イチゴは味、香り、食感などのバリエーションが豊富であり、各産地がブランド戦略をもち取り組んでいることから、全体的な品質が高く、評価が得られている」というのは、通販サイト「築地市場ドットコム」を運営する食文化(東京・中央区)の小林乙彦さん。「いちごは種をまくのではなく、苗を株で増やしていくものなので、新しい業者でも比較的参入しやすい」ため、新品種も開発されやすいそうだ。
「例えば福岡県のあまおうは栃木県のとちおとめに対抗される形で開発されました。福岡県下でのみ生産できるこのブランドイチゴが誕生して以降、各県での開発が増えています」と小林さん。最近では農協だけでなく、一般の法人も新品種開発に進出し、活発な競争が起き始めているという。野菜にくらべると贈答用など単価が上がりやすいことも、参入が増えている要因だそうだ。「贈答用や輸出対応を目指して糖度の高さや大粒であることを売りにした商品も多数出てきています」
築地市場ドットコムでは2016年末に多彩ないちごの品種16種類を形と食感でマッピングした「断面図カタログ」を作成。TwitterなどのSNSに拡散し、大きな反響を呼んだ。
もともとは青森県産の「こみつ」という蜜がたくさんつまったリンゴを他の品種と比較しようと断面図を掲載したのが始まり。リンゴに続くものとして、イチゴのマップを作成したところ、SNSで予想以上の反響があり、イチゴの人気を実感したという。現在紹介しているのは28種類。「地域限定で流通しているものよりも、広く食べられているものをまず掲載していく」方針で、今後も順次追加していく予定だ。
断面図カタログを見ると、改めてイチゴにもさまざまな形があることがわかる。さまざまなお店で開かれているイチゴフェアで、それぞれのイチゴの味だけでなく、インスタ映えの違いを確認するのも楽しいかもしれない。
(ライター 北本祐子)
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