「ぉlsぃづp」も変換 ATOKの「おせっかい」に驚く
戸田覚のデジモノ深掘りレポート
日本語入力ソフトとして定番の「ATOK」。「まったく使ったことがない」という人と「手放せない」という人で意見が真っ二つに分かれるのが、この手のソフトだ。Windows標準のMS-IMEも、最新版の変換精度は十分に高い。それでもわざわざATOKを入れるのは、ATOKならではの便利機能があるからだ。
最近はパソコンではなくスマートフォンやタブレットでATOKを使用しているという人も増えている。ATOKには、パソコン用のパッケージソフトのほかに、iOS用アプリ、Android用アプリ、月額料金でパソコンでもスマホやタブレットでも使える「ATOK Passport」がある。パソコン、スマートフォン、タブレットで登録辞書を共有できるのだ。ジャストシステムによると、「auスマートパスなどのアプリ使い放題サービスを機にスマホで使い始め、便利さに気づいてそのままパソコンやタブレットにも導入する人もいる」という。
僕は昔ながらにパソコン用のパッケージソフトでATOKを使っているのだが、新登場の「ATOK 2017 for Windows」の機能があまりにも細かく気が利いているので、掘り下げてみることにした。「ちょっとおせっかいなのでは?」と思うこともあるが、これが使い始めると手放せない。これらの機能はパッケージソフトだけでなくATOK Passportでも使える。
日本語入力オフで入力できる!
パソコンを使っていてありがちなのが、日本語入力がオフのまま入力を始めてしまうことだ。その場合、従来ならローマ字状態のアルファベットを削除した上で、あらためて日本語入力をオンにして入力をやり直す必要があった。
しかし、ATOK 2017が搭載する「インプットアシスト」機能は、そんなミスを"なかったこと"にしてくれる。日本語入力がオフの状態で入力が始まると、ATOKがそれを検知して「直前の入力を日本語にする」というガイダンスを表示してくれるのだ。ここで「Shift+変換」を押せば、日本語に変換ができるようになり、同時にATOKもオンになる。
また、指の位置がホームポジションからずれていて、意味不明なアルファベットをタイピングしてしまったとき、ATOKが正しい変換候補を提示してくれる「ATOKタイプコレクト」機能も搭載している。
実際に試してみたところ、きちんと修正できたので思わずニヤけてしまった。というのも、このために相当な開発時間なりコストを掛けたことを想像すると、そのおせっかいぶりが微笑ましくなってしまったからだ。どちらの機能も確かに便利だし、年に何回かは救われることもあると思う。とはいえ、変換精度での差異化が難しくなった昨今では、こんなちょっとした機能で「あっ」と言わせなければならないのだから開発者は大変だ。
もちろん、「インプットアシスト」や「ATOK タイプコレクト」を否定するつもりはこれっぽっちもない。素晴らしく気の利いたおせっかいである。
開いている文書を参考に変換候補を提示
僕が舌を巻いた機能が「ATOK インサイト」だ。これはATOK 2016から搭載された機能なのだが、ブラウザーやアプリなどで開いている文書に応じて、ATOKがより適切と思われる言葉をピックアップし、変換候補として提示してくれる。例えば「せいぞう」と入力すると「製造」と変換されるのが普通だが、本コラムのバックナンバーをブラウザーで開いていると、記事中の言葉を拾って「製造プロセス」という候補が表示される。「でじも」だけで「デジモノ深掘りレポート」というこの記事のコラムタイトルを変換候補として表示したのには笑ってしまった。
これぞ気の利いたおせっかいの極みで、ただただ圧倒されるばかり。ウェブサイトの情報を参照しながら企画書を書いたり、PDFの資料を見ながら論文をまとめるような作業では、この上なく重宝する。返信メールを書く際にもかなりの精度で言葉を拾ってくれる。意識しないと気が付かないかもしれないが、入力作業にかかる時間が大幅に減ることは間違いない。文章を書く仕事をしている僕などは、この機能だけでも元が取れると思っている。
入力・変換中の言葉を辞書で調べるのも簡単
ATOK 2017には「ベーシック」(通常版ダウンロード購入で税込み6804円)と「プレミアム」(同1万800円)があるのだが、「プレミアム」には「岩波国語辞典 for ATOK」「大修館四字熟語辞典 for ATOK」など5つの辞書が収録されている。それらの辞書はATOKと連携しており、入力・変換中に「End」キーを押すだけで呼び出すことが可能だ。
辞書との連携機能は特定のアプリケーションに依存していないので、ATOKが有効な状態ならワードやエクセル、メモ帳などでも利用できる。分からない言葉はインターネットで調べられるとはいえ、辞書連携の手軽さに慣れてしまうと、ネットでの検索ですら面倒に思えてくるほどだ。
究極のおせっかい? 疲れ具合まで分かる
「ATOK リフレッシュナビ」もなかなか楽しいので、紹介しておこう。これは、キー入力の状況などから疲れ具合を示してくれるツールでATOK 2016から搭載された。
「ATOK リフレッシュナビ」では、毎日の入力文字数や入力時間、ミスタイプの頻度などの情報が表示される。それが分かったからといって休憩を取るのは難しいかもしれないが、作業効率が落ちてきたのがひと目で分かるのはとても興味深い。
入力ミスが減り、辞書を引く手間も省ける、つまり文字入力のために費やしていた時間を大幅に短縮できると考えると、仕事で文書を作成することが多い人、メールのやり取りが多い人などは、有料版のATOKを手に入れても損はないだろう。
iOS以外の複数端末を使うならPassportがお薦め
ここまでパッケージ版のATOKで説明してきたが、パソコン、スマートフォン、タブレットなど複数の端末で使いたい人には「ATOK Passport」がお薦めだ。パッケージ版では、1ユーザーが同時に使用しないという条件でインストールできる端末が3台までだが、ATOK Passportは10台までとなっている。OSも、Windows、Mac、Androidに対応する(iOSに対応していない点は注意が必要)。
契約期間中はATOKの最新版に自動でアップグレードされるサービスや、テレビ番組や映画、有名人の名前、新語、流行語などが随時更新されるクラウド辞書を使える「ATOKクラウド推測変換」サービスなども使用できる。なお、ATOK Passportにはベーシック(月額286円)と、5つのクラウド辞書が使える「プレミアム」(月額476円)がある。自分の用途に合わせて選ぶといいだろう。
1963年生まれのビジネス書作家。著書は120冊以上に上る。パソコンなどのデジタル製品にも造詣が深く、多数の連載記事も持つ。ユーザー視点の辛口評価が好評。
[日経トレンディネット 2017年2月23日付の記事を再構成]
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