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国内で1日に刊行される新刊書籍は約300冊にのぼる。書籍の洪水の中で、「読む価値がある本」は何か。書籍づくりの第一線に立つ日本経済新聞出版社の若手編集者が、同世代の20代リーダーに今読んでほしい自社刊行本の「イチオシ」を紹介するコラム「若手リーダーに贈る教科書」。今回の書籍は『アイリスオーヤマの経営理念 大山健太郎 私の履歴書』。19歳から経営にたずさわり、今年で社長業53年目を迎える大山氏の半生は、挑戦と失敗の繰り返しの連続だった。常に新しいものを生み出す力と不屈の精神に、学ぶところは大きいはずだ。本書は2016年3月に日本経済新聞の朝刊で連載したものに、アイリスの経営理念や社員へのメッセージを加筆した。

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アイリスオーヤマ社長 大山健太郎氏

アイリスオーヤマ社長 大山健太郎氏

著者の大山健太郎さんは1945年大阪府生まれ。64年に府立布施高校を卒業しましたがその年7月、父親が急死し、家業のプラスチック成型加工業の代表者に、わずか19歳で就任。71年には株式会社化して大山ブロー工業を設立、社長に就任しました。72年に宮城県に本格進出して収納具、園芸用品など生活用品メーカーとして業容を拡大。96年には中国・大連にも進出しました。現在は仙台経済同友会の代表幹事など、地元経済団体の重職を務めています。

「想定外」は言い訳にならない

本書は6年前の東日本大震災の描写からはじまります。2011年3月11日、著者は出張で仙台を離れ、千葉にいました。アイリスオーヤマの国内における主力工場は宮城県角田市にあり、開発拠点や情報システムの中心を兼ねています。著者は成田空港から空路で仙台に戻ろうとします。しかし、成田へ向かう車内でワンセグテレビの中継を見ながら、仙台空港が津波にのみ込まれていくのを目の当たりにします。宮城県内とは一切電話が通じず、「とんでもないことが起こっている」と感じながら、やむをえず国道4号線で仙台に向かいます。

夜を徹して北上するものの、福島県での道路寸断などにより、やっと仙台に到着したのは13日の朝でした。

 経営というものは、10年に1度は危機が訪れる。それを「想定外」の一言で片づけるのは経営者として失格ではないだろうか。私の経営者人生を振り返っても、父親の急逝、オイルショック、1990年のバブル経済の崩壊、そしてリーマンショックと東日本大震災などがあった。日本経済を揺るがす危機はどこかで必ずやってくるものだ。
 次々と訪れる逆境下で会社を存続させるには、どんな状況でも利益を出せる構造にしなければならない。逆境を乗り越える経験から生まれた、そうした強い想いが、当社の経営の根幹をなしている企業理念だ。
(「まえがき」ivページ)

仙台本社や主要工場の建物それ自体には大きな異常はなかったものの、内部は天井の一部が落ち、棚も倒れ、かなり大きな被害を受けていました。アイリスオーヤマはカイロやマスクなどの生活用品全般を製造販売する企業です。「今まさに東北の人々が私たちの商品を待っている」と思う一方、社員も被災者です。「会社のことはいいから、家族と一緒にいてあげなさい」と社員に伝えるべきなのか否か――。著者は、社長としての決断を迫られていました。

意を決し、震災後初の朝礼で、「私たちの商品を出荷することが東北の復興になる。企業には企業にしかできない役割がある。未来を見すえ、前に進むことだ」と訴えると、うなだれていたはずの社員たちは不安の色が消え、決意がみなぎっていました。

常にバッターボックスに立つ意味

 緊急時の対応マニュアルを持つ会社は多い。しかし本当の非常事態には役立たない。書類をめくる余裕はなく、起こることはたいてい想定外。肝心なのは、その企業の哲学が社員の体に入っているかどうかだ。
(第1部 私の履歴書 11ページ)

アイリスは震災以外にも今まで、何度も危機に直面してきました。著者が19歳の時、42歳という若さで父が亡くなります。残されたのはプラスチック成型工場と、5人の工員、8人の兄弟姉妹。長男であった著者は「この工場は必ず存続させてみせる」と誓います。その後も、輸出向けに真珠の生産拡大に対応、養殖用の漁業ブイをつくるも、活動的なミニスカートの台頭で、真珠の需要は一気に縮小します。

ほかにも、「ペットは家族の一員」というテーマで販売したペットフードは、多額の販促費を費やし「餌」ではなく「食事」と呼べる栄養食を目指したものの、割高な価格設定などから失敗。また、初の直営小売事業として考案した「着せ替えソファ」も、すぐに模倣され、毎年の赤字は億単位にまでなりました。それでも、著者は挑戦を諦めることはありません。

 失敗は痛い。しかしバッターボックスに立たなければヒットもホームランも打てない。長い目で見ればリスクを取らない会社こそ衰退する。これからも挑戦は続けたい。
(第1部 私の履歴書 92ページ)

アイデアを生み続ける秘訣

「しまう」ことだけを目的につくられ、「探す」ことへの配慮がなかった収納タンスに目を付け、「探す収納」をキーワードに開発した透明な「クリア収納箱」は爆発的な大ヒットとなりました。

「ライバル品が登場したら利益率を落としてもシェアを保つのではなく次の新商品を考える」ことで、アイリスは営業利益率10%を死守してきました。次々に新商品を出すアイデアの源は、毎週月曜に朝から夕まで続く「プレゼン会議」にあります。1件5分から10分で、社員が経営陣の前で新商品企画や販促キャンペーンなどの提案をします。この会議で、年間1000点の新商品が生まれます。

本書ではアイデアを出し続けることで、常に変化に対応する「アイリス流・経営の秘密」を大公開しています。イノベーションが求められる今、読んでおきたい1冊です。

◆編集者からひとこと 雨宮百子
 仙台でお会いした大山さんは、70歳を超えていると思えないほどお元気で、目の奥に優しさと厳しさを同時に感じさせるような方でした。元気の秘訣は、日課としているジョギングや水泳にあるようです。
 宮城県角田市にあるアイリスの主力工場、角田工場にもうかがいました。仙台市からは電車と車で45分ほどの所にあります。最寄りのJR槻木駅前で、お茶でもしようと、お店を探しましたが、なかなか見つからず困ってしまったのもいい思い出です。この地で「IHジャー炊飯器」などのヒット商品が次々と生み出されていると思うと、なんだか不思議な気持ちがしました。
 ピンチをチャンスに変える発想法がつまった1冊なので、ぜひ多くの人に読んでもらえたらうれしいです。

「若手リーダーに贈る教科書」は原則隔週土曜日に掲載します。

アイリスオーヤマの経営理念 大山健太郎 私の履歴書

著者 : 大山 健太郎
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 1,836円 (税込み)

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