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カステラと金平糖の故郷 「買い食い天国」ポルトガル

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NIKKEI STYLE

なんとも居心地のよい街である。子どものころ、学校帰りに道草をして駄菓子屋さんに行き、友達とおしゃべりして、買ったお菓子を食べながら帰った。ポルトガルの街を歩くと、そんな記憶がよみがえってくる。ポルトガルといえば、今や日本の伝統菓子となったカステラや金平糖を16世紀に伝えた国でもある。どこか懐かしく思うのは、そういうルーツが関係しているのかもしれない。昭和の日本にも通じる、ゆったりした空気が漂うポルトガルを旅した。

お菓子屋さんでビールが飲める居心地のよさ

ポルトガルの街には、駄菓子店ではないが、人々に親しまれている「パステラリア」という業態のお菓子屋さんがある。焼き菓子や生菓子などがショーウインドーに何種類も並んでいる様子は、日本の洋菓子店のような店構え。ただ、テークアウトをする物販だけの店というより、たいていイートインスペースがあり、コーヒーやお茶も頼んで、買ったお菓子をそこで食べるというスタイルだ。

そんなパステラリアが、ポルトガルのどの街にもやたらとある。統計を確認したわけではないが、街歩きをして、ふと疲れたなと思って周囲を見回すと、目の前に1軒、斜め後ろに1軒、あっちの交差点の角にも1軒という具合。そういえば、世界のどの街でも見かけるあのチェーン系のカフェをほとんど見かけなかった。そうしたカフェが進出する余地がないほど、伝統的なパステラリアが地域の生活に深く根付いているのだろう。

パステラリアでは、お菓子のほかにサンドイッチや総菜なども置いてあり、小腹を満たすこともできる。よくよく店の奥に目をやると、ワインやお酒のボトルが並んでいるではないか。お菓子と一緒に頼むのは普通、コーヒーか紅茶だろうが、昼間とはいえ、街歩きで喉が渇いた筆者には、もっと飲みたいものがある。思い切って「ビール、頼んでいいのかしら?」と聞いてみた。返ってきた答えは「もちろんだよ。ポルトガルはビールもうまいよ」。

いつでも、どこでも、何回もナタを食べる

決してスイーツとアルコールが合うといっているのではない。「このようにしなければいけない」というお仕着せを軽くかわせる雰囲気がこの国にはあり、それをささやかに楽しませてくれるのがポルトガルなのだ。パステラリアで軽い食事もできて、お酒も飲めるという、庶民に親しまれている地域の店という意味では、スペインのバルや米国のダイナーとコンセプトが似ているが、大きな違いはやはりお菓子が主体というところか。

パステラリアでの一番人気、というよりポルトガルを代表するお菓子が「パステル・デ・ナタ(以下ナタ)」だ。英語で言うところの「エッグタルト」で、甘いカスタードクリームがサクサクのパイ生地におさまっている(名前はタルトだが、実際はパイのよう)。レストランの食事の後のデザートとしてはもちろん、パステラリアでお茶とナタでひと休みというのが、ポルトガルでよく見かける光景だ。ナタは、市場や観光地の屋台、駅の売店でも、必ず売っている。高くても観光地でせいぜい1個2ユーロ(約240円)ほど。田舎の市場では50セント(約60円)くらいだったろうか。

ナタは直径が5センチメートルほどのフィンガーサイズ。大きすぎず、片手で持って歩きながら食べることができる。日本人の感覚だと、例えば洋菓子店で買った生クリームたっぷりのイチゴのショートケーキを手づかみで歩きながら食べるのは難しい。マナーに障るだろうし、下手をすると生クリームが顔や手にべったりついて、カッコ悪い。ところが、ナタはそれができる。サクサクのパイ生地が多少、ぱらぱらとこぼれ落ちるものの、気にならない。多少の行儀の悪さは旅行中ということで免じてもらい、1日に3回、場所をわきまえずナタを食べただろうか。堅いことは言わずに、たいていのことは許してくれるポルトガルの寛容さが、ここにも感じられるのだ。

屋外で世界遺産を眺めながらワインが飲める

許してくれるといえば、ポルトガルではお酒に対しても寛容だ。

首都リスボンの中心街からテージョ川沿いに6キロメートルほど西に行ったところのベレン地区。ここの河岸には、歴史の教科書で見た記憶がある「発見のモニュメント」がそびえる。大航海時代の象徴とされるエンリケ航海王子の500回忌を記念して1960年につくられたものだが、王子はじめ、バスコ・ダ・ガマ、マゼランなど、世界史のヒーローたちの像が刻まれている。

この地区には、「ベレンの塔」と「ジェロニモス修道院」という2つの世界遺産もあって、観光客がごったがえし、大変なにぎわい。観光地につきものの食べ物や土産を売る屋台もたくさん出ていたのだが、その中に「wine with a view」なる立ち飲みの屋台を発見。

ポルトガルを訪れる前、ワインについてはポートワインの甘すぎるイメージしか抱いていなかったが、そんな先入観はすっかり打ち消された。食事に合うドライ系もそろっているし、種類も豊富。ポルトガル独自のさわやかな若草色のビノ・ベルデという微発泡ワインもあって、なかなか奥が深い。しかも、その本格的なワインが屋外で、世界遺産を眺めながら、飲めるのだ。

「wine with a view」で提供してくれるワインは、おしゃれな細身のワイングラスに入れてくれる。ただ、よく見るとプラスチック製だ。ということは、その屋台を離れて、飲みながら気に入った場所を探し、立って飲むもよし、ベンチに座って飲むもよし、そして「飲み終わったら、ゴミ箱に捨ててね」ということのようだ。いやはや、屋外でおおっぴらにお酒を飲んで怒られるどころか、観光の目玉に据えるポルトガルの奥深さにすっかり感動した。

こう感動したのも理由がある。というのは、せっかくの楽しい海外旅行で、いつでもお酒が味わえるとは限らないからだ。

いつだったか、モロッコの世界遺産都市、フェズの街を散策中、屋台のケバブを食べた。地元の人も並んで待つような人気に裏打ちされたそれは、それまで食べたケバブの中で最もおいしいと感じたものだ。塩気の利いたおいしいケバブを食べれば、ビールが飲みたくなる。しかも、かなり暑い日だった。モロッコには国産ビールもある。なのに、そこにビールはない。ビールを売っているコンビニエンスストアもない。外国人向けの高級レストランやホテルに行かないとお酒が飲めないイスラム教の国だったのだ。

また、カサブランカからマラケシュに移動する列車のコンパートメント内でも、ランチ用に買って持ち込んだ缶ビールが車掌に見つかって、捨てさせられてしまった。しばらくこれがトラウマになっていたのだが、今回ポルトガルの「wine with a view」で、すっかりそのトラウマから解放されたのだった。

リスボンから北にバスで1時間ほど行ったところにあるオビドスは、世界遺産に指定されている城壁の街だ。その歴史は、ローマ時代に敵の侵入を防ぐために砦(とりで)が築かれたことにさかのぼるという。13世紀に当時の王が王妃にこの街を贈ったことから、19世紀まで代々王妃の直轄地になった。城を贈るのではなく、街ごと贈るスケールの大きさに圧倒される。この歴史ロマンを感じるこの街でも、名物のお酒を飲みながら、城壁内のそぞろ歩きを楽しんだ。

オビドスでは、さくらんぼの一種「ジンジャ」からつくる甘いリキュール「ジンジーニャ」が名物。城壁内のいくつものレストランが店の前に屋台を構え、チョコレートでできた小さなカップにジンジーニャを入れて売っている。くっと一口で飲み、その後、器のチョコレートを丸ごと食べるシーンが、城壁内のあちこちで見られた。1杯1ユーロ(約120円)と手軽なことから、城壁の突き当たりに行くまでに1杯、帰り道にもう1杯と楽しんだ。

高校生のとき、部活の帰りに学校近くの精肉店でコロッケを買い、ホクホク味わいながら駅に向かったものだ。水産大国でもあるポルトガルでは、「パシュテイス・デ・バカリャウ」という干しダラのコロッケが国民食だ。

日本のカニクリームコロッケに風味と食感が似ているが、より塩気とコクが利いていて、うまいことこのうえない。ただ、日本のコロッケと違い、ポルトガルの干しダラのコロッケは、半端なく大きい。油もべとべとするので、これを手づかみしての街歩きは厳しいものがある。

ところが、ポルトガル第2の都市、ポルトに、この不都合を解消するユニークな店があった。その店は干しダラのコロッケの専門店のようで、テークアウトするお客用に、グラスワインと干しダラのコロッケをセットできるプラスチック製のキットを提供していた。キットにはポルトの名所旧跡の絵が描かれていて、3つの穴があいている。1つはワイングラスを差し込み、もう1つに干しダラのコロッケをセットする。3つ目の穴にそれを持つ指をひっかけるしくみだ。

店内にイートインスペースはほとんどなく、せいぜい店の外にテーブルと椅子が並べられているだけ。やはり、このキットを手に持ち、街歩きしながら、存分に干しダラのコロッケとワインを味わってほしいということなのだろう。ポルトはいわずもがなのポートワインの発祥の地であり、キットにセットされたワインは、ポルトの指折りのワイナリーのものだった。

元祖ポルトガルのカステラとは?

市場はまさに買い食い天国だ。試食用のサンプルを出しているところもあるし、スーパーなどで買うよりも格段に安い。大げさな包装もないので、買ったその場ですぐに食べることもできる。食べながら、市場の中を物色して回るのもOKだ。オビドスに行く途中、乗換駅の街、カルダス・ダ・ライーニャに有名な朝市があるというので行ってみた。野菜や果物やパンなどはもちろん、お菓子もたくさんある。そこで目にとまったのが、「ブロア・カステーラ(Broa Castelar)」というお菓子。

「もしかして、これはカステラか!?」。カステラは16世紀にポルトガル人宣教師によって日本に伝わったポルトガルのお菓子。今では、長崎の伝統菓子としてすっかり根付いている。

ポルトガル語の辞書を引くと、Broa は宝石、Castelar はスペインの地方名カスティーリャ(Castilla)のポルトガル語読みだそうで、発音はまさに「カステーラ」だ。ただ、英語の資料を見ると、Broa Castelar は「Sweet Potato Cake」とあり、サツマイモを使ったお菓子のようだった。姿形は日本のスイートポテトパイによく似ているが、ドライフルーツがたっぷり入っていて酸味が強いせいか、スイートポテトパイの味とはだいぶ違う。勝手な想像だが、ドライフルーツを宝石に見立てたかわいいお菓子ということで、こんな名前がついたのかもしれない。

ちなみに、日本に伝わったカステラの原型といわれているのは、「Pao de Lo(パォン・デ・ロー)」という別のお菓子。こちらは、材料と製法が日本のカステラに近いということで、カステラの原型といわれているようだ。見かけも、日本のベイクドチーズケーキの様相に近く、カステラとはだいぶ異なる。

カステラのほかにも、日本とポルトガルの縁を感じるお菓子があった。そもそも、古くから日本の伝統菓子として親しまれてきた金平糖の語源はポルトガル語の「confeito」。英語では「confectionery」。「お菓子」という意味だ。

ポルトガル北部の街、アベイロで予約していたB&B(Bed&Breakfast、一泊朝食付き)にチェックインして部屋に入ると、ベッドサイドにミネラルウオーターといっしょに、何と日本の最中(もなか)のようなお菓子が置いてある。西洋のホテルでありがちなのは、キャンディーやミントチョコレートで、最中のような半生菓子は初めてだ。日本旅館のお茶と和菓子による出迎えを思わせ、日本発の「おもてなし」の思想が、お菓子を日本に伝えたポルトガルに逆に伝わったのかと感じた次第。

この最中は、「Ovos Moles(オボス・モーレス)」というアベイロの名菓だった。貝殻や舟、樽(たる)の形の最中の中には、卵の黄身と砂糖でつくったあんが詰めてある。3センチメートルほどの大きさで、甘さ控えめ。日本人の口にもよく合う。きっと茶の湯のお菓子にも使えるのではないか。

荷物をほどいた後、街に出て、さっそくパステラリアで「オボス・モーレス」を1つ買い、食べながらアベイロの街をのんびり歩いた。

(中野栄子)

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