からすけ ボクは小学5年生から勉強したな。3年生から学べば、子どもの英語力がアップしそうだね。授業はどんな内容になるのかな?
3年生から親しむ授業
イチ子 小学校や中学校で学ぶ内容は文部科学省という国の役所が定める「学習指導要領」(キーワード)で決まっているの。およそ10年に一度、見直すことになっていて、2月に改訂案を発表したわ。それによると小学校は3年後の2020年度から、中学は21年度から新しい内容になるわ。小学3年生から英語に親しんでもらうのが改訂案の特徴(ちょう)の一つね。
からすけ ボクは小学生の時、授業で英語の歌を歌ったよ。おかげで今、ピコ太郎さんの歌をすぐ覚えられたんだ。
イチ子 あきれた。中学生なら「I have a pen.」くらいだれでも言えるわ。自慢(まん)にならないわよ。ともかく、あなたが5年と6年の2年間で学んだ授業は外国語活動というの。11年度から始まった授業よ。歌やゲームを通して英語に慣れ親しむのが目的。英単語を詰め込むなんてことをしたら、英語嫌いをつくるだけ、というのが理由だそうよ。
からすけ すいません。もっと勉強します。
イチ子 20年度からは外国語活動を3、4年生に前倒(だお)しするの。年間の授業時間は今の5、6年生と同じ。それぞれの学年で35コマの授業数。1コマは原則45分で週1回、授業がある計算だわ。そして5、6年生になると、外国語活動と違(ちが)って教科書が登場するの。教科書を使って単語や文法という文章の決まりを習うのよ。正式に教科になるので、先生は国語や算数と同様に成績を評価するわ。授業数は5年も6年も年間70コマよ。
からすけ ということは、3年から6年までの4年間で英語の授業は合計で年間140コマ増えるんだね。
イチ子 ご名答。授業の流れを説明するわ。外国語活動で相手とコミュニケーションする楽しさを知るのね。5年生からは一人称(しょう)、二人称、三人称や過去形などの文法を学習したり、簡単な語句や表現を読み書きしたりするの。4年間で英単語600~700語を習得するそうだわ。その後、中学で実践(せん)的な会話力を養うの。授業は原則、英語で行われることになるそうよ。
学習指導要領 全国どの学校でも同じレベルの教育を受けられるように定めるもので、教科ごとの目標や大まかな内容を示す。教科書づくりの基準となる。1961~62年度に初めて示された。80~81年度、詰め込み教育への批判から「ゆとり教育」を導入。2020~21年度は「脱ゆとり」を強化した。
TOEFL Test of English as a foreign languageの略。英語を母国語としない人の英語力を測るテスト。1964年に米国で始まり、130カ国・地域の9000にのぼる大学や機関で活用されている。同様の試験に実用英語技能検定(英検)、TOEICなどがある。
先生も教えるための勉強 大変
からすけ ボクより年下の子が英語通だったら、ちょっと焦(あせ)っちゃうな。
イチ子 焦るのはあなただけではないわ。小学校の先生も、英語をちゃんと教えられるか不安なの。小学校の先生を目指すには、大学で教職課程という講義を受ける必要があるの。国語や算数など全9教科の指導法を学ぶのだけど英語は現在、必修ではないのよ。最近は英語指導法を選択(たく)科目で選ぶ大学生がいるけれど、すでに先生になっている人の多くは学んだ経験がないといわれているの。だから一部の学校では先生の英語力アップへ研修を進めているわ。
からすけ ボクの小学校の時の学級担任の先生も勉強に忙(いそが)しいだろうな。
イチ子 そう。先生だけでなくて、日本の大人の英語力は世界の中でレベルが低いといわれているのね。アジアでみても、シンガポールやインドの人たちは英会話が得意なのに、日本人は苦手だわ。講談社という出版社が16年10月、全国の20~60代の男女1000人に調査したところ、「現在の自分の英会話はどのくらいのレベルですか」という質問に、4割強が「ほとんど話せない」と答えたの。「片言なら話せるが、相手の言っていることはわからない」人も4割弱にのぼったのよ。
からすけ 大人も英語にもっと親しんでほしいんですけど。
イチ子 ふふ。親しむどころか、英会話ができないと働けないという会社が増えているわね。プロ野球の球団を持つ楽天は10年から全社で会議などのやりとりを英語にするよう進めているの。化粧(しょう)品の資生堂は18年10月をメドに楽天と同じようにするの。本社の社員が対象で会議用の資料も英語。いずれもグローバル企業といって世界各国に拠(きょ)点があり、世界共通語ともいえる英語でやりとりしないと仕事にならないの。
からすけ いろいろな国の人が働いているから、必要なんだね。
イチ子 私は英語能力テストのTOEFL(キーワード)で高得点を取るのを目標にしているの。日本を訪れる外国人が年間2000万人を突破。20年には東京オリンピック・パラリンピックが開かれるから外国からのお客さんは増えるわ。話す力を身につければ友達が増えるだけでなく、多様な考え方に触(ふ)れられるでしょ。それがどれだけためになるか分かるわよね。お互(たが)い頑(がん)張りましょう。

渋谷教育学園渋谷中学高等学校の真仁田智先生の話 「これからは英語」。今まで何度も言われてきたことです。安政の五カ国条約締結後に英語の重要性に気づいた福沢諭吉、大英帝国に国費で留学した夏目漱石(そうせき)。欧米列強諸国に追いつくために、流ちょうな英語を話そうと苦労したことでしょう。
現在はグローバル化の進展により、英語は様々な母語を持つ人々の共通言語、つまりコミュニケーションの道具としても使えるのです。東京オリンピック・パラリンピックに向けて、行政や企業、NPOは参加や協力の募集を始めます。英語を教室で「学ぶ」だけでなく「使う」きっかけにするチャンスです。
海外の大学に行きたいけれど学費が心配ならば、「奨(しょう)学金制度」を調べてみましょう。先端(たん)研究に取り組みたい、国際社会で活躍(やく)したい人たちを支援(えん)する財団も増えています。「英語は世界を広げる」と、誰(だれ)もが口にする日がやってくるはずです。
[日本経済新聞夕刊2017年3月4日付]