リーダーシップの利点 人生を自分で切り開く伊賀泰代著「採用基準」(4)

ウイリス・タワーズワトソン・グループ タワーズワトソン社長 大海太郎

ウイリス・タワーズワトソン・グループ タワーズワトソン社長 大海太郎

「リーダーシップを身につけることで何よりも変わるのは、当の個人のキャリアであり、生き方だ」と伊賀氏は言います。リーダーシップを身につけると、自分の仕事やライフスタイル、生き方のポリシーを既存の組織の器に合わせるのではなく、自分自身が実現したいと考える世界をストレートに追求できるようになります。これはリーダーシップを身につける最大のメリットと言えるでしょう。

著者はこれを「リーダーシップを発揮することは、自動車のハンドルを握ることと同じである。リーダーシップを身につければ、自身が人生のコントロールを握ることができる」と表現しています。自分で人生を切り開いていけるという自信が、社会の規範から逃れた自由な発想につながり、守られた場所から出ていくことをリスクだと感じなくなるのです。

ウイリス・タワーズワトソン・グループ タワーズワトソン社長 大海太郎氏

日本の場合、雇用規制や終身雇用信奉もあり、効率的な人材配分市場が存在していないことが企業の変革を遅らせ新興企業の成長の阻害要因となっています。より多くの人がリーダーシップを身につけることで人材の流動性が高まります。マッチング機能をもった労働市場ができることで、時代の流れとともに役目を終えた産業から新しい産業へと人材が移動します。さらには斜陽化する産業に代わって新興企業が経済をけん引し始めることが期待できます。

そういった新しい世界に出ていけるのは、英語ができる人でも頭がいい人でもなく、リーダーシップを身につけた人にほかなりません。多くの人が、マッキンゼーの採用基準を地頭の良さや論理的思考だと考えています。しかし、実際に求められているのは、「将来のリーダーとなるポテンシャルを持った人」です。そしてそれは、今の日本に必要な人材そのものなのです。

リーダーシップはこれからの世界を生き抜く人たちのパスポートです。また組織とは、所属し守ってもらうものではなく、自らが率いるものになるのです。

■大企業に勤めることの弊害

随分と揺らいできたとは言え、日本の大企業ではいまだに終身雇用というものが信じられています。しかし、これだけ変化が速く大きい時代にあって、一民間企業が40~50年と繁栄し続けることが、そもそも困難になっています。そのような状況でたまたま新卒で入社した会社に、自分のキャリアをすべて委ねてしまってもいいのでしょうか。

日本の大企業への入社を目指す人が多いのは、もちろんそれだけのメリットがあるからです。一方で大企業に勤めることの弊害もあります。そしてその弊害はだんだん深刻になってきている気がします。

本書の中でも「保守的な大企業で劣化する人」というコラムでこの弊害を取り上げています。自由かつ大胆に思考できていたポテンシャルのある学生が、保守的な大企業に就職して数年経つと、仕事のスピードや成果へのこだわり、ヒエラルキーにとらわれずに自己主張すること、自分の頭で柔軟にゼロから思考する姿勢を失ってしまうのです。

これに関連しますが、もう一つの大きな問題は、このような企業では辞令一つで異動や転勤を受け入れなければならず、自分のキャリアが会社任せになってしまい、自分のキャリアについて自ら考えることが少なくなってしまうことです。企業によっては、早ければ50代前半で関連会社や取引先等の会社への転籍を命じられ、第2・第3の仕事人生が始まります。もちろんそれで大活躍される人も多くいますが、中には仕事内容や新しい職場環境が合わずに苦労したり、低迷したりする人がいることも事実です。

自身のキャリア形成に主導権を持つ

プロフェッショナルファームにおけるキャリア形成は、日本の大企業におけるそれとは大きく異なります。辞令が天から降ってくるということはあり得ず、各人はそれぞれ自身のキャリア形成に対して主導権を持っています。

超高齢化社会に突入した今、60~65歳まで働くことは一般的になり、65~70歳まで元気に働ける人はいくらでもいます。人手不足が問題になっている中、50歳そこそこで仕事に全力で取り組めない人が多数いるとしたら、それはあまりにもったいないことです。

このような状況に陥らないためにも、自分のキャリアや人生について自身で考えることが重要です。一見、当たり前のことのようですが、日々忙しく働いているとその当たり前のことが考えられずに、目の前の作業に追われ続けるということは起こりがちです。そうして時間だけ経過すると、主体的にキャリアを積み上げていないだけにその後の選択肢も狭まり、ますます自ら行動を起こしづらくなります。そして最後は「これまで〇〇年間会社に尽くしてきたのだから、会社も自分を悪いようにはしないだろう」と会社にすがることになるのです。これは健全ではありません。

一度しかない人生でありキャリアですから、ぜひとも自分は何をしたいのか、何が得意なのか、どのような貢献ができるのかを自ら考え、決め、それを追求していきたいものです。新卒で就職した会社に30年間勤めたとしても、そこから更に20年間働くことが可能な時代です。そう考えれば、50代以降に新しいことを始めることも十分可能です。そしてこれを可能にするためにも、普段から本書のテーマであるリーダーシップを発揮して、いかなる局面でもどうすれば最大限に成果を上げて組織に貢献できるか意識し、周囲を巻き込んで物事を成し遂げることが大切なのです。

大海太郎(おおがい・たろう)
ウイリス・タワーズワトソン・グループ タワーズワトソン社長
1963年生まれ。87年東京大学経済学部卒、日本興業銀行で資産運用業務などに従事。94年ノースウェスタン大学経営学修士(MBA)取得。99年マッキンゼー・アンド・カンパニー入社。2003年タワーズワトソン入社、06年からインベストメント部門を統括、13年から現職。

=この項おわり

この連載は日本経済新聞土曜朝刊「企業面」と連動しています。

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