育休の部下復帰、ひるむな管理職任せる仕事はっきり説明 過度な配慮、成長の妨げ

SOMPOホールディングスが1月に開いた育休者フォーラム。4月復帰に備えて当事者と管理職・同僚が一緒に参加し、心得を学ぶ(東京都新宿区)
SOMPOホールディングスが1月に開いた育休者フォーラム。4月復帰に備えて当事者と管理職・同僚が一緒に参加し、心得を学ぶ(東京都新宿区)
新年度が始まる4月は育児休業から職場に復帰する社員が多い。仕事と子育ての両立には一定の配慮が欠かせないが、過度な配慮はキャリア形成を阻害し、本人のためにもならない。どうすれば復職した社員がいきいきと活躍できるのか。迎え入れ経験が豊富な管理職にその心得を聞いた。

「今、夜泣きが激しい時期じゃない?」。損害保険ジャパン日本興亜の木谷義昭さん(45)は1月に復帰したばかりのワーキングマザーに声をかける。自動車事故の保険金支払いを担う部署の課長だ。部下は40人。その6割が女性で、うち3人はここ1年で育児休業から復帰した。

意識的に声かけ

育児中の社員には意識的に声をよくかける。それも子どもについて積極的に尋ねる。武器はパパ目線。家に帰れば小学1年生から高校2年生の4人の子どもが待っている。妻は専業主婦なので共働きの大変さは実感できない。だが子育て経験は豊富だ。子育て談議の狙いは、自らの経験談を引き合いにしながら、部下の子育て状況を自然に聞き出すことだ。

保護者に代わりはなく、復帰直後は育児は最優先課題だ。ただそれぞれが思い描いている将来のキャリアプランがあり、実現のためにできる範囲で仕事も任せたい。木谷さんは「家庭内のサポート態勢や子どもの健康など子育て状況は一人ひとり違う。それは仕事をどこまで任せるかを判断する重要なカギ。だが、こちらから積極的に聞かないと男性上司にはなかなか話してくれない」と話す。

アサヒビール量販統括部の石井宣道さん(50)は部長に昇格して3年がたつ。昇格当時部内にワーキングマザーは1人だけだったが、今は37人の部下のうち3人が育休から復帰したばかり。「ワーキングマザーは時間の制約はあるが、仕事への覚悟はできている。人事異動で積極的に採っていたら、ワーキングマザー比率が上がった」と明かす。

必要な戦力と見なしているので、短時間勤務を使うにしても一人前の責任を課す。ただ仕事の渡し方を工夫する。「復帰時点でどんな役割と仕事を任せるかを説明する。ただし、いきなり全部は任せない。最初は一部分から。段階を踏みながら少しずつ引き継ぐ」

ツボはゴールを明確にしている点だ。通常、復職直後の社員には休業前より軽い仕事を任せがちだ。上司は育児に配慮したつもりでも、何の説明もないまま仕事が軽くなると本人は「期待されていないのか」と誤解する。

この程度の働き方でよいのかと生活の軸足を育児に置いてしまうリスクもある。石井さんは「最終的にどこまでやってほしいのかを復帰段階でみせることが、仕事に対するモチベーションダウンを防げる」と主張する。

職場の子育て支援制度が整い、出産退社は減った。2015年度の育休取得者(育児休業給付金の初回受給者数)は約30万人。10年で約2.6倍に増えた。育休復帰者の増加に伴い、現場を預かる管理職はその処遇に戸惑う。仕事と子育ての両立に配慮は必要だが、過剰な配慮は本人の成長を阻害するばかりか、職場の同僚の負担増につながる。

21世紀職業財団の「若手女性社員の育成とマネジメントに関する調査」(15年12月)によれば、男性管理職ほど育児中の女性に手厚い配慮をしている。困難な仕事をさせないように「配慮している」とする回答は女性管理職の13.7%に対して男性管理職は42.4%に上る。

本人の意思確認

育休後コンサルタントの山口理栄さんは「『本人のため』と思う配慮が、実は本人のためになっていないケースが意外と多いことを管理職は知ってほしい」と指摘する。企画部門なのに簡単な定型業務しか任せない、出張や研修に出る機会を同僚に割り振る――などだ。大切なのは「無理だろう」と独りで判断せずに、まずは本人の意思を確認することだ。

「これだけ保育所に入りにくい状況で、保活に勝ち抜き、職場に復帰しているのだから、しっかり働きたい気持ちは強い。その場は断られても、声をかけておけば次は引き受けられるように子育て態勢を見直す可能性もある。コミュニケーションを続けることが育休復帰者のサポートにつながる」と助言する。

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役割分担、夫婦で確認

復帰する側も、休業中の今のうちに準備しておきたいこともある。まずは復帰後の子育て態勢の確認だ。保育園への送迎や急病時の対応をどう担うのか。夫婦間で決めておく。育休中は妻が育児を担っているケースが多いので、復帰後も妻がそのまま責任を負いがちだ。だが仕事と子育ての両立は夫婦でやるもの。休業中の分担比率は一度リセットして考え直す。

できれば週1回でもいいから、保育園への迎えを夫に任せたい。送りと迎えではそれに伴う育児・家事の内容が異なる。帰宅後の食事の準備や洗濯、保育園からの連絡事項の確認など迎えにいかないと経験しない事柄もある。この先、妻が急な残業で迎えにいけない事態が生じるかもしれない。送りと迎えの両方に夫婦がともに対応できるようにしておくことは、共働き夫婦の重要なリスク管理だ。

育休後コンサルタントの山口理栄さんは復帰前に管理職に会いにいき、子育て状況や仕事への意気込みを伝えておくことを勧める。「保育園はどこにあり、何時から何時まで預かってくれるか。パートナーや両親がどの程度協力してくれそうか。繁忙期は残業ができそうか否か。具体的に詳しく伝える。管理職は悪気はないのだが育児に疎い。イメージできるような情報を伝えておけば復帰後の意思疎通もしやすい」

(編集委員 石塚由紀夫)

[日本経済新聞夕刊2017年3月6日付]