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村上春樹新作を読む 『騎士団長殺し』3識者に聞く

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NIKKEI STYLE

村上春樹の新作小説「騎士団長殺し」(新潮社)。既に130万部を発行し、文学界の話題をさらっている。複雑な寓意(ぐうい)と謎に満ちた物語を3人の識者に読み解いてもらう。

「騎士団長殺し」のあらすじ


 主人公の「私」は肖像画家。妻と別れ、今は認知症が進み養護施設に入っている日本画家・雨田具彦の旧宅に一人で暮らしている。
 ある日、「私」は屋根裏部屋で「騎士団長殺し」と題した日本画を発見する。モーツァルトのオペラ「ドン・ジョバンニ」に材をとり、若者が「騎士団長」を刺殺する場面を描いた作品で、雨田が描き、ひそかに隠していたものだった。
 「私」に肖像画の制作を依頼する謎の資産家・免色や、「私」に絵を習っている少女・まりえら多彩な人物との関わりを通じ、主人公は「騎士団長殺し」に秘められた謎を探究することになる。

創作の信念・父の死描く 文芸評論家・清水良典さん

予想外の世界が展開した「海辺のカフカ」「1Q84」などの近作に比べると、オーソドックスでスタンダードな書きぶりに回帰した印象だ。たとえば、本作で主人公が妻から別れを切り出されて一人暮らしをするシーンは「ねじまき鳥クロニクル」に似ているし、「免色」という人物は「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」を容易に想像させる。従来の村上作品をずっと読んできた読者にはなじみやすいだろう。

こうした表現を保守的とネガティブに受け止める読者もいるかもしれない。しかし、村上は今作で2つの非常に重く、チャレンジングなテーマに取り組んだ。テーマが大きいがために、あえてオーソドックスな書き方を取ったと考えられる。

テーマの1つは同じ創作者である画家の制作プロセスを丁寧に描写することを通して、作家としての信念を表明したことだ。

作中で主人公の画家は肖像画に見えない肖像画を描く。それは目には見えない真実の魂を描写するという著者の小説に対する態度と一致する。世界的な作家になった自身の立場を踏まえ、改めて自分が何を書く作家なのかを自己確認したのだと思う。

もうひとつは父親との関係だ。著者は2009年のエルサレム賞受賞時のスピーチで、前年に亡くなった父親が徴兵され、中国での戦闘に参加したことを明かしている。著者が子供のころ父親は毎朝仏壇の前で敵味方の区別なく死んだ人々のため祈ったが、その周囲に潜んでいた死の気配は父親から引き継いだ大事なものだったという。

著者にとって「父」は重要なテーマで、これまで何度も取り組んできたが、十分書き切れていなかった。それが今作では安らかな「父の死」まで描いていたのが印象的だ。

世界を見渡せば、西洋、イスラム両社会の対立が深まり、世界が分断と反目に向かう流れが続いている。人間の魂に深く根づいている邪悪な感情や憎しみを我々はどう乗り越えていくか。著者は従来もそうしたテーマにこだわってきたが、今作では人の憎しみや心の傷を正面から書くことで、自身の立ち位置を明確にした。

最後に気が早いかもしれないが、「ねじまき鳥クロニクル」「1Q84」も最初の2冊が出た翌年に「第3部」が刊行された。今作は物語としては完結しているものの、回収し切っていない伏線も残る。続きがあるのではないかと期待してしまうのはきっと私だけではないだろう。

過去の総括 物足りぬ「今」 翻訳家・鴻巣友季子さん

村上作品としてこの十数年で最も面白いものだと思う。一人称の文体に回帰し、自己批評やユーモアも戻ってきた。村上春樹は米国文化の影響を強く受けた作家だが、本作は「米国風」ではなく「欧州風」。「肖像画」というモチーフもそうだし、作中人物はビールよりもワインを飲んでいる。

ただ「異世界につながる穴」や「(夢の中で行われる)実体のない性交」など、過去の作品で出てきた多くのモチーフが現れ、作家が自らの過去の仕事を総括したような感が強い。特に「ねじまき鳥クロニクル」を語り直したような小説という印象を持つ読者は多いだろう。セルフパロディーは一つの小説技法であり、効果的にやれば面白いが、本作の場合は過去の「変奏」ともいえない単なる「反復」という感は否めない。

様々なモチーフが盛りだくさんの物語のわりには、作家が書き残したことが多いという読後感が残った。例えば東日本大震災については最後に出てくるだけだし、難民や排外主義など現代世界が向きあっている大きな問題は書かれていない。性的描写のセンスも含め、作家の認識と世界の実態との間のズレが大きすぎるのではないか。時代の時事風俗の書き込みを活かしてきた作者だけに、もっと今の視点がほしい。

結局は個人が自分の中の闇と対峙するという話にとどまり、手の込んだセッティングをしたわりにはスケールの小さい物語になっている。過去の作品から先に進んだという印象はあまり受けなかった。

「1Q84」では村上作品では初めて「祝福される妊娠」が描かれ、本作でもその主題が現れる。「保育園」というこの作家の作風とは結びつきにくいモチーフが出てきたのには驚いたが、せっかくなら「村上春樹らしい調和のとれた美しい世界」を大胆に壊すような子供を書いてほしかったと個人的には思う。

本書にはすべての黒幕と考えられるある人物が登場する。「巨悪」を操れるような存在で、こういう人物を出したからには、作家は物語の先を書きたくなるはずだ。続編があるのではないかという気がする。そこで大きな悪が暴かれ、物語が深まれば、がぜん面白くなってくる。

「私」の立ち位置に新境地 スラブ文学者・沼野充義さん

大傑作だとか失敗作だとか、これまでの作品と比べてどうだとか、簡単には言いにくい。はっきり言えるのは、これまでの村上作品らしさを引き継いでさらに成熟させ、新境地を切り開いたということだ。

村上作品を読んでいる人ならおなじみの深い穴が登場し、そこに降り立つと異世界につながるという物語世界の構造は本作にも出てくる。他にも高級車のうんちく、オペラやクラシック音楽、メルヴィルの「白鯨」など文学からの引用をファッショナブルに物語になじませる筆力はこの作家ならではのものだ。

新しいと感じたのは主人公の「私」を画家に設定したこと。洋画と日本画の違いについての絵画論を「私」が語るのだが、これは欧米文学と日本文学の接点、つまり村上の立ち位置を表明しているように感じた。

「私」の年齢が36歳というのも興味深い。かつて村上作品の主人公の多くはもっと若かった。離婚の危機からよりを戻し、生まれてくる子供を引き受ける大人の男女の恋愛が、落ち着いた静かな文体で書かれており、あと数年で古希を迎える村上本人の成熟に重なるように思った。

本作は発売までその内容は明かされることはなかった。2巻で完結するかと思いきや、読み終えてみても続編が示唆される終わり方は「ねじまき鳥クロニクル」や「1Q84」と同じパターンの繰り返しで、マーケティング上の問題なのかもしれないが、文学的に意味があるのか疑問だ。

ただ、続編はなくてもいいと個人的には思う。例えば〈プロローグ〉に登場する「顔のない男」や「白いスバル・フォレスターの男」ら抽象的な人物が何者なのかほとんど説明されない。続編が出たとしてもこうしたファンタジックな描写の意味が明かされることはないだろうし、それが村上春樹らしさでもある。副題にある「イデア」と「メタファー」という抽象的な言葉を、ペダンチックになることなく、物語として表出させたことにも関わることだ。

政治的・社会的なコミットメントでいえば、現代への直接的な言及がないことに批判もあるかもしれない。ただナチスドイツ支配下のウィーンや南京虐殺などの昔の出来事、直近では東日本大震災に触れている。今の日本を意識しながら、村上なりの物語の仕方で現代について語っているのだと思う。

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