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決算説明会で自ら発表するソフトバンクグループの孫正義社長

決算説明会で自ら発表するソフトバンクグループの孫正義社長

世界でもトップクラスの教授陣を誇るビジネススクールの米スタンフォード大学経営大学院。この連載では、その教授たちが今何を考え、どんな教育を実践しているのか、インタビューシリーズでお届けする。今回は会計学のエリザベス・ブランケスプール助教授の3回目だ。

不正会計事件が相次ぐ中、今、世界中のグローバル企業では、自社の透明性を高める動きが強まっている。そんな中、経営者や管理職に求められているのは、数字を使ったコミュニケーション能力だ。どうやったらコミュニケーションの達人になれるのか。同助教授に聞いた。(聞き手は作家・コンサルタントの佐藤智恵氏)

スタンフォード大学経営大学院 エリザベス・ブランケスプール助教授 (C)Nancy Rothstein

スタンフォード大学経営大学院 エリザベス・ブランケスプール助教授 (C)Nancy Rothstein 

企業の情報開示にSNSは有効?

佐藤:テクノロジーの進化により、企業の情報開示方法も多角化してきました。ブランケスプール助教授は、企業情報を開示するのにツイッターが有効な場合もあると論文で述べています。日本の大企業も、もっとツイッターやSNSを活用すべきでしょうか。

ブランケスプール:ツイッターやSNSは、すべての企業に適したメディアであるとは思いません。私が提案しているのは、新たな開示の場として検討してみてはどうですかということです。企業情報を開示するとき、どのターゲットにどんな情報をどのメディアで伝えるかを考えるのはとても重要で、特に新興企業の情報を開示するには、従来の記者会見などよりも、ツイッターやSNSのほうが有効なケースもあるのです。

佐藤:どのような情報を伝えるのにツイッターは適していますか。

ブランケスプール:それは伝えたい相手のニーズ次第ですね。この人たちは「ここで記者会見をやります」といったリマインダーだけ欲しいだろうと思えば、リマインダーを送ればいい。この人たちは、経営者のパーソナルな部分を知りたがっていると思えば、経営者自らが自分の日常や考え方を伝えてもいいわけです。

佐藤智恵(さとう・ちえ) 1992年東京大学教養学部卒業。2001年コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。NHK、ボストンコンサルティンググループなどを経て、12年、作家・コンサルタントとして独立。「ハーバードでいちばん人気の国・日本」など著書多数。

佐藤智恵(さとう・ちえ) 1992年東京大学教養学部卒業。2001年コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。NHK、ボストンコンサルティンググループなどを経て、12年、作家・コンサルタントとして独立。「ハーバードでいちばん人気の国・日本」など著書多数。

顔の見える経営者が成長につながる

佐藤:なるほど。だから、ソフトバンクグループの孫正義社長は、ツイッターを効果的に使っているのですね。

ブランケスプール:孫氏は、顔の見える経営者をめざしているのだと思います。経営者としての自分を知ってもらうことが会社の成長につながると判断しているのでしょう。経営者が自らツイッターで情報発信するというのは大変なことです。しかし少々の犠牲やリスクを伴っても、それ以上の利益があると思っているからこそ、孫氏はツイッターを使っているのだと思います。

佐藤:世界有数の投資会社、バークシャー・ハザウェイが、2016年4月、初めて株主総会をネットで生中継しました。同社はウォーレン・バフェット氏が経営する企業ですが、長い歴史を持つ伝統的な企業が丸ごと株主総会を開示したのに、私自身とても驚きました。アメリカでは企業の透明性を高めようという動きが強まっているのでしょうか。

ブランケスプール:明らかにそうですね。株主、顧客、取引先といったステークホルダーから、企業の情報を知りたいというニーズが高まっていて、今、企業内では様々な開示方法が検討されています。先ほどのツイッターもその一つですし、ネット中継もその一つです。

株主総会については、部分的に開示している企業もあれば、全部開示している企業もあります。しかし、バークシャー・ハザウェイのようにライブで全部開示している企業は少ないですね。多くの企業にとって、株主に全部開示するというのは非常にリスクが高いことであり、事前にすべての想定質問に対する答えを用意しておくのは、企業に大変な負担を強います。全部開示するのはやめて、答えられない質問には答えないというほうがずっと簡単だからです。

会議で数字を効果的に使うには

佐藤:私たち日本人は、会議の前に山ほど資料を用意して、長々と会議をしてしまう傾向があります。もっと効率的にコミュニケーションをするためには、どうしたらよいでしょうか。

ブランケスプール助教授の授業の一コマ (C)Ivan Lvov

ブランケスプール助教授の授業の一コマ (C)Ivan Lvov 

ブランケスプール:3つあります。1つは、出席者の目的を把握しておくことです。彼らはどんな立場で会議に出席していて、何を知りたいのか。数字がぎっしり並んでいるスプレッドシートを何十枚とプリントアウトして見せても、出席者にとっては情報過多となり、かえってあなたの言いたいことが伝わらない恐れもあります。

2つめは、数字を使って簡潔に伝える方法を考えることです。グラフにするのか、表にするのか。冒頭にエグゼクティブサマリー(要約)をつけて、その後に詳細を説明していくというのが一般的ですが、随所に数字を使えば、より簡潔でわかりやすい資料になります。

数字はすべてを集約して語ってくれますし、抽象的な内容も具体的にしてくれます。数字が入っていない文字だけの資料で、現状を把握するのはとても難しいですね。

3つめは、数字は人間の判断と裁量の結果だということを理解し、不確定要素が多い数字については幅で示したり、代替案を示したりすることです。会計情報には、不確定要素が多い数字もあれば、ほとんどない数字もあります。そこをきちんと説明すれば、聞いている人は、「なるほど、この数字は幅でとらえる必要があって、この数字がこれぐらい動くと、全体にこれぐらいの影響があるな」と予測することができるのです。

佐藤:1)出席者の目的を理解する、2)数字を生かして、簡潔でわかりやすい資料をつくる、3)不確定な数字は幅で示す。この3つが会議で成功する秘訣ですね。

※ブランケスプール助教授の略歴は第1回をご参照ください。

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