
長期投資を始めるとしたら、これまで史上最悪だったタイミングと市場はどこであろう。それは日経平均株価が過去最高値をつけた1989年12月末の日本の株式市場ではないだろうか。そのタイミングで日経平均に連動しているファンドを一括購入していたら、27年間を経た今の損益はおよそマイナス50%。一度もプラスになったことがない最悪の長期投資である。
一世代の時を経ても、このトラウマを抱えている日本人はいまだに少なくない。日本人が現金好きな国民になってしまった原因は、この株式投資への不信感かもしれない。日銀の資金循環統計によると、日本の家計は金融資産に占める現預金の比率は52.3%(2016年9月末時点)。これに対し、米国は14.2%(同)、ユーロ圏でも34.6%(16年6月末時点)にとどまる。
積み立て投資ならマイナスがプラスに
また、同統計によると、日本の家計の金融資産に占める株式の比率は8.6%で、米国の35.4%、ユーロ圏の16.3%を大きく下回る。日本人は自分たちの老後生活に必要な資産づくりへの関心が低いと思わざるを得ない。この傾向が、金融資産の大半を保有する年金生活のライフステージに入っている世代のみならず、将来の自分の生活、子供たちの教育費などを考えなければならない現役世代まで浸透しているのであれば、深刻な問題だ。
けれども、「経済成長が乏しく、長期投資の成功体験がない国だからしょうがないじゃないか」。そんな諦めの声もあるだろう。しかし、諦める必要は全くない。ちょっと視点を変えるだけで、異なる世界観が見えてくる。
仮に、89年12月末に一括ではなく、毎月定額を買い付ける「積み立て投資」を日経平均連動型ファンドで始めたとしよう。一括購入の場合はマイナス50%であったが、積み立て投資の場合、現在の利益はおよそプラス40%になる。
全く同じ期間で、全く同じ金融商品で、全く同じ運用環境において、これほど差が出るのである。これは魔法ではない、れっきとした長期投資の手法である。教科書では「ドルコスト平均法」と記されていて、何十年も前から確立されている投資手法だ。
毎月定額を買うことにより、価格が下がった局面ではより多くの口数を買い付けているが、価格が上がった側面ではより少ない口数を買い付けている。安いときに多めに買って、高いときには少なく買う。これは投資の鉄則といえる。
毎月自動的に投資信託などを買い付ける積み立て投資の口座を開設すれば、その時々の自分の相場観から生じる欲望や恐怖に惑わされることなく、コツコツと少額を買い続けられる。これを長期的に継続することによって、景気や相場の波を楽に乗り切れる手法だ。
分散は投資における鉄則であるが、積み立て投資は仮に一つの商品や資産クラスであっても、時間の分散がいかに運用成果に有効的であるかということを示している。