「歯周病も虫歯も原因は細菌。口の中ではこれらの細菌がバイオフィルムという塊を作ります。バイオフィルムではヌルヌルした“多糖類”に細菌の集団が包まれて生息しやすくなっており、これを歯磨きなどで全て取り除くのは難しい。バイオフィルムをしっかり破壊して取り去るには、歯科医院での機械的な除去が必要です」(熊谷院長)。
プロの手による機械的な除去は、PMTC(Professional Mechanical Tooth Cleaning)といわれる。歯科医が口の中の状況をチェックした後、歯科衛生士などのプロが歯石をかき取る器具や研磨器具などを使って、歯垢や歯石を取り除く。「ただし、PMTCで除去しても2~3カ月でまたバイオフィルムは元に戻ってしまう。そのため、3カ月ごとに定期的なメンテナンスが必要です」と熊谷院長は話す。
山形県酒田市にある本院の日吉歯科診療所ではこれまで延べ1万5000人がPMTCを含む定期的なメンテナンスを受けており、そのうち約3300人が20年以上メンテナンスを受けている。「長年メンテナンスを受けている人は、歯や歯ぐきが美しく保たれており、残る歯の数も多い。例えば15年以上メンテナンスをしている人と15年以上治療のみの人を比べると、メンテナンスをしている人では歯の残っている本数が多い傾向があります(図2)」と熊谷院長。
日吉歯科診療所では、初診時や、メンテナンスの効果を評価する際、唾液の量と質や、フッ素の使用状況、歯垢の蓄積量、飲食回数、虫歯菌の数、喫煙本数など、様々な項目を確認するという。
「虫歯や歯周病のなりやすさは人によって異なります。また、同じ人でもライフステージによって変化します。生涯口腔の健康を維持するためにはリスク評価を通じて、虫歯や歯周病の成り立ちを理解し、その人に合わせたメンテナンスとホームケアプログラムを作成、実施することが必要です」(熊谷院長)。
口の中にいる細菌の種類や数、唾液の性状などのチェックは、保険でカバーされないために自己負担となるが、最近ではそうした検査を取り入れる歯科医院も増えてきている。
プロによる歯のメンテナンスを始めるのは若ければ若いほど効果的だ。少なくとも歯周病などのリスクが高まる30歳を過ぎたらそうした習慣を身に付けたい。
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[注1]beck j, garcia r, heiss g, vokonas ps offenbacher s : periodontal disease and cardiovasculardisease. j. periodontol., 67:123-137,196
[注2]khader ys, ta'ani q : periodontal diseases and the risk of preterm birth and low birth weight :a meta-analysis. j periodontol,76:161-165,205
[注3]長寿医療研究開発費 平成24年度 総括研究報告「アルツハイマー病修飾因子としての歯周病の可能性に関する研究」
日吉歯科診療所汐留所長。2005年新潟大学歯学部卒業、2006年タフツ大学歯科大学院審美歯科専攻課程修了、2009年タフツ大学歯科大学院歯科補綴専門課程修了。米国歯科補綴専門医。2009年から日吉歯科診療所歯科補綴専門医、2010年タフツ大学歯科大学院修士課程修了、2010年~15年タフツ大学兼任講師、2012年米国歯科補綴ボード認定専門医、2013年から新潟大学非常勤講師、2015~2016年東京工業大学非常勤講師、2016年から現職。
(ライター 武田京子)