待機児童、進まぬ幼稚園活用 認定こども園移行も課題
日本総合研究所の池本美香さんに聞く
――日本総研の試算では、幼稚園ニーズが今後、かなり減っていくことが示されました。
「子どもの数が減り、働く女性は増える。そんななか、保育所よりも預かってくれる子どもの年齢が高く、預かり時間も短い幼稚園のニーズは減っていく。考えれば当たり前のことだ。出生数が増えず女性の就業率が上がれば、2040年には、15年に比べて4分の3以上園児は減ることになる」
都市と地方で差
――幼稚園のニーズが減ることによる影響は。
「幼稚園の経営が厳しくなり、園児の獲得競争が激しくなる。それでも生き残るには厳しいため、0~2歳児も預かる認定こども園へ移行する幼稚園が増えるとみている」
――しかし現状では、認定こども園への移行はあまり進んでいません。
「待機児童の多い都市部では、幼稚園の定員割れはほとんど起きていない。認定こども園へ移行し、園児を広く募るメリットは少ない。移行すれば、今よりも手厚い人員配置が必要となり、業務が増える。さらに夏休みなどの長期休暇を取ることもできなくなる。そう考え、二の足を踏む幼稚園は多い」
「しかし、地方では移行が進んでいる。すでに園児が足りず、経営が厳しいためだ。認定こども園への移行は、待機児童対策の目玉だ。しかし、待機児童の少ない地域の幼稚園が、経営戦略のために移行しているのが現状だ」
――どうすれば移行は進むのでしょうか。
「移行がしやすい体制を整えるべきだ。たとえば、移行後2年間は保育時間を自由に決めることができるなど、幼稚園の自主性に任せてみる。そうすれば、残業などで長時間子どもを預けたい人は保育所、定時に帰れる人は認定こども園などとすみ分けができ、バランスがよくなるのでは」
「幼稚園児の放課後の受け皿として、学童保育の対象年齢を下げるのも効果がありそうだ。3歳以上から学童保育を利用できれば、幼稚園の長期休暇時でも子どもを預けることができる。上の子が小学生の場合、きょうだいそろって学童保育へ預けられ、親の送迎負担を和らげることも期待できる」
求められる質
――安倍首相が掲げている17年度末の「待機児童ゼロ」は、達成が危ぶまれています。
「見通しが甘かった。保育所を新しくつくれば、これまで自分の子どもが待機児童となり、保育所へ預けられなかった人が預けたいと思うのは自然なこと。待機児童を解消し、女性の働き手を増やす。両者の達成が目的であるなら、潜在需要の多さを読み違えたことは言い訳にすぎない」
「企業が主に社員向けに保育所をつくる『企業主導型保育事業』も効果は限られている。都市部では場所の確保が難しく、電車通勤が多いためだ。むしろ、そうしたハードルの低い地方でこの事業は進んでいる。認定こども園と同じく、十分に機能していない待機児童対策の一つだ」
――これからの保育所、幼稚園のあるべき姿とは。
「質を担保することが大切。待機児童が解消し、どこの施設でも預けられるようになれば、保護者はよりいっそう質を求めるはず。たとえば子どもたちを集合させるとき。号令をかけて一斉に並ばせるのではなく、言うことを聞かない子には丁寧に対応する。そうしたきめ細かさが必要になっていく」
「保育所と幼稚園を分ける意味もなくなりつつある。保護者から子どもを預かるという役割では、両者にそれほど差はない。そのため、預かり時間や子どもの対象年齢が違うのには違和感がある。幼稚園教諭と保育士の給与水準も同等にすべきではないか」
◇ ◇
幼稚園児、40年に4分の1に
日本総合研究所は国立社会保障・人口問題研究所が出す将来推計人口などを基に、出生率や妻の就業率などを予測し、今後の保育所や幼稚園のニーズを試算した。
試算では出生率が横ばいで、妻の就業率が2倍のペースで上がった場合、幼稚園児は15年の151万人から、2040年には35万人まで減ると予測。一方で、待機児童の8割を占める0~2歳児の保育所の子どもは、同条件下で89万人から168万人と、2倍近くに増える結果となった。
就業率が現在と同様のペースでも、幼稚園児は40年に64万人と、15年と比べ半分以下に。0~2歳児は127万人で、15年比約1.5倍となる。
池本主任研究員は「幼稚園のニーズは予想よりもかなり減ることが分かった」と話す。一方、「待機児童を幼稚園という既存施設でまかなえることも分かった。幼稚園の空き定員を、待機児童などの保育所ニーズに充てていくのは効果的だ」とも指摘する。(田村匠)
[日本経済新聞夕刊2017年2月28日付]
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