最初は号泣するほど嫌だった 私の「iモード事件」NTTドコモ イノベーション統括部 担当部長 笹原優子氏(上)

「私も真理さんと呼んでいいですか?」とメールした

新入りの私が悩んだのは、松永真理さんをどう呼んだらいいのか、でした。当時は女性上司もあまりいなかったので、どう接したらいいのかも、わからない。役職付きで「松永部長」と呼ぶのが普通なのだろうなと思いつつ、同期の男性も含めて、みんなが「真理さん」と呼んでいましたから、「私も真理さんと呼んでいいですか?」とおそるおそるメールで尋ねたんです。すぐに「もちろんです」と返事がありました。

言葉に対する感覚は、松永真理さんに鍛えられた

「私の数少ない美意識の中で、『まつながぶちょう』と濁点が2つ続くことは許せないの。だから、真理さんって呼んでくださいね」と書いてありました。「濁点が2つ付くのは許せない」という感覚もすごいなと思いましたし、「美意識的に許せないからそう呼んでね」という言葉に、私に対する気遣いも感じました。「本人の希望なのだから真理さんって呼んでいいのだな」と、安心できるじゃないですか。

私は当時、ゲートウェイビジネス部が考えたアイデアを、技術者が理解できる言葉に翻訳し、実際の仕様書にまとめて携帯電話の開発部署(移動機開発部)に伝える窓口のような仕事をしていましたが、言葉に対する感覚はやはり、真理さんに鍛えられたと思います。

携帯電話上のエラー表示に関して、最初は「メール送信失敗しました」としていたんです。そしたら、真理さんに指摘されました。初めての端末なのだから、みんな壊れやしないかとビクビクしながら使うのに、「それじゃあ、ユーザーが不安になってしまうじゃないの」というわけです。

結局、「メール送信失敗しました」ではなく、「メール送信できませんでした」に修正しました。失敗という言葉はネガティブな印象が強いから、やめた方がいいとも言われました。

パソコンを使ってインターネットでやりとりすることさえ、十分には普及していないなか、一般のユーザーをターゲットにしたサービスを開発しなくてはならない。とにかく、IT(情報技術)偏差値40の真理さんにもわかるものを作らなくちゃ、と思っていましたから、私は当時、しょっちゅう真理さんに意見を聞いていました。

忘れられないのは、「iアプリ」というサービス名を提案した時のこと。「iモード」という名前はすでにありました。ドコモの携帯電話「503iシリーズ」からプログラミング言語「Java(ジャバ)」によるソフトをダウンロードできる仕様となり、ドコモのJavaだからということで、開発者向けには「DoJa(ドゥージャ)」という名称で説明していました。でも、どう考えても語感がよくない。

イノベーションに必要な「フラット」「オープン」「ダイバーシティー」の3つが、iモード開発チームにはそろっていた

いろいろと考えた末、エンドユーザー向けには「iアプリがいいのでは」と提案したんです。当時、日本ではほとんど使われていない言葉でしたが、アプリケーションのアプリだったら外国人も理解できるし、何より「プリプリしていて、かわいくない?」と思って。

この提案に関しては、夏野さんから「いい仕事をしたな」と褒められました。

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