マネー研究所

生保損保業界ウオッチ

糸魚川市の大規模火災 損害の補償はどうなる?

日経マネー

2017/3/17

商店や住宅に延焼した新潟県糸魚川市の中心部(2016年12月22日夜)
 契約はしたものの、細かな内容はよく知らない――。生命保険や損害保険の契約者の中には、こんな人も少なくないだろう。だが、保険は契約条項ひとつで受けられる補償が大きく変わる上、新たなサービスも続々と登場している。本コラムでは、生命保険と損害保険を交互に取り上げ、保険選びの上で知っておきたい知識を解説する。

 2016年末に発生した新潟県糸魚川市の大規模火災からしばらくたち、被災者の生活再建も少しずつ進みつつある。建物の焼損数は147棟、うち120棟が全焼した。損害に対して支払われた火災保険金と車両保険金は、計12億円近くに上っている(表)。

注:日本損害保険協会の調べによる1月5日時点の集計(見込みを含む)

 出火原因はラーメン店の大型コンロの消し忘れとされるが、このような場合、火元の責任はどうなるのか。民法第709条は、故意または過失によって他者に損害を与えた場合、損害を賠償しなくてはならないとする「不法行為」を規定している。だが、火災については通称「失火責任法」の例外規定があり、火元に重大な過失(=重過失)がない限り第709条は適用されない。つまり延焼被害に遭っても、原則として火元に損害賠償請求はできないのだ。

 どんなに気を付けていても、不注意から火災を起こす可能性は消えない。日本は狭い土地に木造家屋が密集し延焼が不可避な住環境にある中で、財産を失った火元にさらに責任の全て負わせるのは酷だろうとの考え方が背景にある。

■重過失でも補償は困難に

 責任を問えるのは、火元に重過失が認められた時だけだ。重過失とは、故意ではないが不注意の著しい過失レベルをいう。プロパンガスによる自殺行為や、加熱した天ぷら鍋を放置したケースで重過失認定を受けた事例がある。だが火災発生の条件は全て異なり、一定の行為が一律に重過失とされるわけではない。今回の火災についても、個別の状況や条件を踏まえた上で判断されることになる。

 重過失として火元が負う責任は保険でカバーが可能だ。対象となるのは他人を死傷させたり、モノに損害を与えたりして法律上の損害賠償責任を負った場合。個人なら個人賠償責任保険、今回のように事業者なら施設賠償責任保険から賠償金などが支払われる。

 だが、いずれも一般的な保険金額の水準は1億円程度。数軒程度の損害なら対応可能だろうが、今回のような大規模ケースだと、火元に保険契約があっても十分な損害賠償を受けるのは難しくなる。

 なお、国や地方公共団体は今回の火災を強風による自然災害と認定。自然災害が原因で住宅が全壊などした世帯に給付金を出す「被災者生活再建支援法」が適用となり、国・県・市の制度を合わせて最大400万円が支給される。しかし、通常の火災で被災者支援が行われないのは言うまでもない。

 火元に責任があろうとなかろうと、火災では火元から損害賠償を受けられない可能性があり、住宅や財産は自分で守らなくてはならない。これが、火災保険が暮らしに必要となる根拠だ。スムーズな生活再建のため、十分な保険金額を設定するのは大前提。建物を対象にする保険と、家財を対象にする保険共に加入しておきたい。書画や骨董品、貴金属といった高級品も、契約時に申告するなどして補償を受けられる。だが生活用品と異なり、これらの再取得は難しいため、貸金庫で保管するなど別の対策を講じておくべきだろう。

 たばこを吸わないし、オール電化住宅だから火災保険は要らないと耳にすることもあるが、危険過ぎる。近隣で大火災が発生する可能性をなくすことはできないのだ。

清水香(しみず・かおり)
 生活設計塾クルー。学生時代から生損保代理店業務に携わり、2001年、独立系FPとしてフリーランスに転身。翌年、生活設計塾クルー取締役に就任。『地震保険はこうして決めなさい』(ダイヤモンド社)など著書多数。財務省「地震保険に関するプロジェクトチーム」委員。

[日経マネー2017年4月号の記事を再構成]

日経マネー 2017年 04 月号 [雑誌]

著者 :日経マネー編集部
出版 : 日経BPマーケティング
価格 : 730円 (税込み)

マネー研究所新着記事

ALL CHANNEL