プライベートの切り売りとは無縁

『第59回グラミー賞授賞式』はWOWOWライブで3月12日(日)17時からリピート放送される

来日公演が実現していないなど様々な要因が考えられるが、最大の理由はアデル自身のアーティストとしてのアピールが極めて正攻法で、日本のメディアからすると面白味に欠けるからではないだろうか。要するに、アデルの世界的な人気を支えているのは「歌」そのもので、ウェブの時代には珍しいほどプライベートの切り売りをしない稀有(けう)な存在なのだ。

ツイッターやフェイスブックなど情報発信には熱心だが、あくまでも音楽に関する内容が中心。必然的にプライベートでの言動が話題の中心になる日本のメディアでは、彼女の露出は限られてくる。プロモーションのために話題作りをするよりも、表現したいことは全部曲に込めて、歌だけで直球勝負に出るのが、本人やマネジメントの方針なのだろう。

そんなアデルの正攻法を物語るエピソードが、12年に起こったレディー・ガガの失言事件。ガガの大先輩ジャネット・ジャクソンやマライア・キャリーもそうだが、ディーバ(歌姫)系のアーティストにはダイエット・ゴシップはつきものであり、その常連のレディー・ガガは自虐ネタ的な部分も含めて常にシーンに登場している。そして当時、激太りをして、メディアから揶揄(やゆ)されていたガガが、自らを擁護するためにアデルのぽっちゃり系の体形を引き合いに出した発言をしたのだ。

他のアーティストならすぐに反論して論争が巻き起こり、それが話題になって結果として人気につながるのだろうが、アデル側は無視を貫いた。結局、きっかけを作ったガガが批判を浴び、アデルに謝罪して幕引きとなった。音楽以外の雑音にぶれることなく、常に直球勝負の歌だけでファンの支持を得たアデルならではのエピソードだと思う。ちなみに、『25』のリリース時には、アデルはダイエットに成功して大きなスポットを浴びている。

待たれる日本公演はいつ?

アデルは本名をアデル・ローリー・ブルー・アドキンスといって、1988年5月5日イングランドのロンドン・トッテナム生まれ。BBCの人気投票企画「サウンド・オブ・2008」でトップに選出されて注目を集め、08年にデビューアルバム『19』をリリース。世界各国でNo.1に輝き、グラミー賞では計4部門でノミネートされ、2部門を受賞した。11年のセカンドアルバム『21』は世界19カ国で1位を獲得し、全米ビルボードチャートではマイケル・ジャクソンの持つ38週連続トップ5の記録を抜いて39週連続トップ5と歴代1位になったほか、3つのギネス記録にも認定されている。また、映画『007 スカイフォール』(12年)の主題歌『スカイフォール』でアカデミー賞主題歌曲賞を受賞している。私生活では、サイモン・コネッキーとの間に第1子を授かっている。

アデルは現在、大規模なツアーを実施中。残念ながら日本は予定に入っていないが、日本公演が実現したら世界との人気のギャップは埋まるかもしれない。あるいは、彼女の実力が一般に知られるきっかけ(例えば『NHK紅白歌合戦』へのゲスト出演)があれば、そのボーカル力に大きな注目が集まるはず。日本でも、もっとスポットライトを浴びてほしい、いや浴びて当然のディーバである。

(音楽評論家 村岡裕司)

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