落語家のお取り寄せはいかがですか?
立川吉笑
毎週日曜更新の立川談笑一門によるまくら投げ。今回のお題は「お取り寄せ」ということで、笑二からの遠投を受け取って、今週もお後の師匠へまくらを届けたい。
先週の笑二と同じく、僕も「お取り寄せ」をしたことがない。
落語会が終わったら先輩に打ち上げに連れていってもらえるし、一人での食事は牛丼チェーンに行ったりカップラーメンを食べたり、たまに後輩と飲みに行ったり、そんな食生活を送っている我々若手落語家の多くは、お取り寄せ経験がないんじゃないかと思う。
さて、今回の原稿をどうしようかなぁ?と考えているときに、思えば落語家は「お取り寄せされる」商売なんだと気がついた。
独演会など自分が主催する落語会もたくさんあるけれど、一方でどなたかから呼ばれる、つまりはお取り寄せしていただく落語会も少なくない。
演劇や音楽ライブと違い、基本的には落語家がいて、座布団があればどこだってできるのが落語の良さだ。というか、座布団がなくてもやろうと思えば落語会はできる。それくらい落語はフットワークの軽い芸能だから、お取り寄せに向いているともいえる。
これまで私「立川吉笑」もいろいろな方からお取り寄せしていただいた。
普段は東京を中心に活動しているからこそ、たまに伺う東京以外の地域の刺激的なこと。そして、お取り寄せしていただくうちに僕が感じ始めたことは「東京以外にも楽しいカルチャーがガンガンにあるなぁ!」ということ。
もともと京都の市街地出身だから、実家にいるときから音楽だったり映画だったり演劇だったりオシャレなお店だったり雰囲気のいいレコードショップだったりは身近に存在していた。
それでもやっぱり東京に住むようになってから、ありとあらゆるものが集まる東京はやっぱりすごいなぁと驚かされた。僕が遊び場にしていた京都の繁華街全体を合わせても、たぶん渋谷・原宿より狭い。そして東京には渋谷・原宿以外にも、新宿があって、六本木があって、中目黒・恵比寿・代官山があって、自由が丘があって、と恐ろしいくらい楽しい場所がたくさんある。
だからこそ、やっぱり「東京が日本で一番楽しい場所」「面白いカルチャーは東京にある」と自然と思うようになっていた。
確かにあらゆるものが集まるし、何しろ人口が多いし、テレビ局とか大きな会社とかは東京に集まっているから、やっぱり東京は文化の中心であることに違いはないのだろうけど、一方で、たまに伺う地方で出合う、刺激的な場所の数々。
そんなものと出合うたびに僕はもしかしたら東京以外の場所の方が今後は面白くなっていくんじゃないかと思うようになった。
ということで今回は、僕がお取り寄せしてもらった場所で、特にたくさん刺激をいただいた場所について書きたい。
東京の自宅よりも無線LAN環境が整備されていて驚いた徳島県神山町だったり、素敵な本屋さんが山ほどある熊本だったり、金沢だったり、たくさん刺激的な場所に行ったけど、一番印象的なのは鹿児島県。
『プチシネマ寄席』という鹿児島の若い方たちが主催している落語会にお取り寄せしていただいたのをご縁にこれまで3回くらい伺ったけど、鹿児島、ちょっとヤバい。
落語会の会場で使わせてもらった『Good day』というお店は雑貨屋さんとカフェが合わさったような場所。2階はコンクリート打ちっぱなしになっていてギャラリー的な使われ方をしているっぽい。落語会もここでやらせていただいた。アテンドしてくれた店員さんはもともと東京・中目黒でアパレル関係の仕事をされていたけれど、少し前に地元・鹿児島に帰ってこられたらしい。家賃は安いし、魚もお肉もおいしいし、海が近いから趣味のサーフィンもたくさんできて、毎日がめちゃくちゃ楽しいらしい。
そんな『Good day』には、素敵な若者がたくさん集まってくるようで、これまで3回お取り寄せしていただくうちに僕にもたくさんの知り合いができて、たくさんの遊び場に連れていってもらった。
市街地にある『ソルジャー』はカフェラテがめちゃくちゃ美味しいコーヒースタンド。東京・高円寺にあったら毎日行くのに!
川井田さんという人がやっている『Stack containers』は箱屋さん。脱サラして、紙製の箱で商うようになられたらしい。味があってかわいいから僕は4つも購入しました。(あっ、お取り寄せしたことあった!)
お店の名前を忘れてしまったけど天文館から少し歩いたところにあるマーチンさんという人がやってる花屋さんは、枯れた植物しか取り扱ってないぶっとんだお店。枯れた植物にも固有の美しさがあることを発信し続けたいらしい。ヤバい。
カレーを食べたくなったら車で10分くらいのところにある『ジェイコブスパイス』。ポークステーキのカレーがおいしすぎる。自家製チャイもおいしかった。高円寺にあったら通うのに!
こんな風に『Good day』を起点に出合った店は、普段僕が東京で行っている店と何ら遜色ない。というよりも、むしろこれらの店の方が刺激的だったりする。コミュニティーが小さい分、情報が濃縮されやすいのかもしれない。
さらに市街地から遠く離れた鹿児島県は長島。『島美人』という、都内の居酒屋でもよく見かける焼酎を造っている小さな島にもお取り寄せしていただいたことがある。この島美人を協力しながら造っているいくつかの酒造メーカーのうちの一つである『杉本酒造』も素晴らしかった。
この会社が面白いのは社会人野球の「実業団」といわれるような仕組みで、クリエイターを雇っているところ。僕が伺ったときには画家1人と陶芸家2人が実業団みたいな仕組みで働いておられた。
正社員として、午前中は焼酎造りをするけど、午後からは会社が用意したアトリエを使って好きに制作活動ができるという夢のような仕組み。会社の敷地内に陶器を焼き上げるための窯まで設けてあった。所属している作家さんは鹿児島や九州だけでなく、全国各地で個展を催し、そのレセプションパーティーには若旦那自らが振る舞い酒を持って鹿児島から会場にやってくるという力の入れ具合。
僕も実業団落語家として杉本酒造さんに雇っていただけないかなぁとたまに考えたりする。
自分の落語をいろいろな方に聴いていただけるのがうれしいこともさることながら、こうやってまだ見ぬ素敵な場所や人と出会えるのがお取り寄せしていただけることのメリットだ。
ということで、読者のみなさまもこれをご縁に落語家を「お取り寄せ」してみませんか?
自宅でも、飲食店でも、イベントスペースでも、あらゆる所で落語会は開催できます。また気になる金額も若手であればそんなに高くありませんし、スケジュールが空いていればどちらにでも伺わせていただきます。
「落語家を地元にお取り寄せする」なんて最高のぜいたくじゃありませんか。
これをご縁に吉笑・笑二をお取り寄せしたいという方はotoriyose@tatekawakisshou.comまで、お気軽にメールをください!(このアドレスは本物です!)
(次回3月5日は立川談笑さんの予定です)
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